
平田
草苅よそれかおもひか 萩 の 露 李由
元禄二年翁に供せられてみちのく
より三越路にかゝり行脚しけるに
加賀の國にていたはり侍りて伊勢
まで先達けるとて
いつくにか たふれ 臥とも萩の原 曽良
桐 の木にうつら鳴 なる 塀の内 芭蕉
百舌 鳥鳴や入日さし 込 女松原 凡兆
亡人
初鴈に 行燈とるなまくら もと 落梧
堅田にて
病 鴈 の夜寒に 落て 旅ね哉 芭蕉
あまの家は 小海ひに交るいとゞ哉 同
加賀の小松といふ處多田の神社
の宝物として実盛か菊から草の
かふと同しく錦のきれ有。遠き事な
からまのあたり憐におほえて
むさん やな甲 の下のきり/\す 芭蕉
菜 畑や二葉 の中 の 虫の聲 尚白

はたおりや壁 に来て鳴 夜は月よ 風麥
いせにまうてける時
亡人
葉月也 矢橋に 渡る 人とめん 千子
フカ
三日 月に鯗のあたまをかくしけり 之道
粟稗と 目出度 なりぬはつ月夜 半残
月見せん 伏見の 城 の 捨 郭 去来
翁を茅舎に宿して
伊賀
おもし ろう 松笠もえよ薄月夜 土芳
してに涙のかゝる哉と
加茂に詣 かの上人のたなこの社の
神垣に取つきてよみしとや
月影や 拍手 もるゝ 膝 の 上 史邦
友達の六條にかみそりいたゝく
とてまかりけるに
伊賀
影 ほうし たふさ 見送る朝月夜 卓袋
ばせを葉や 打かへし行月 の 影 乙州
京 筑紫 去年 の月とふ 僧仲間 丈草
吹風の 相手や 空に 月 一 つ 凡兆
降かねて こよひに なりぬ月の雨 尚白
くさかりよそれがおもひかはぎのつゆ 李由(萩の露:秋)
いづくにかたふれふすともはぎのはら 曽良(萩:秋)
※奥の細道
きりのきにうづらなくなるへいのうち 芭蕉(鶉:秋)
※うづら 田荘の酒家という題で、桐の木は大きな旧家の象徴で、鶉は飼鳥。
もずなくやいりひさしこむめまつばら 凡兆(百舌鳥:秋)
はつかりにあんどんとるなまくらもと 落梧(初雁:秋)
やむかりのよざむにおちてたびねかな 芭蕉(雁:秋)
※堅田 近江八景の堅田落雁。元禄三年九月二十六日の昌房宛書簡。
※病鴈 びょうがんと訓じる説もある。
あまのやはこえびにまじるいとどかな 芭蕉(竈馬:秋)
むざんやなかぶとのしたのきりぎりす 芭蕉(きりぎりぎす(蟋蟀):秋)
※奥の細道。
※多田神社 石川県小松市。
※むざんやな 初案は、あなむざんやなで、謡曲実盛より。
なばたけやふたばのなかのむしのこえ 尚白(虫の声:秋)
はたおりやかべにきてなくよはつきよ 風麦(はたおり:秋)
※
はたおり キリギリスの別名。ショウリョウバッタをいうこともある。
はづきなりやばせにわたるひととめん 千子(葉月:秋)
※貞享三年八月下旬、兄の去来と伊勢参宮した。
※矢橋 近江の大津の対岸、矢橋の渡。琵琶湖を横断すると急な突風で舟が沈没する危険があったので、室町時代の連歌師宗長の「ものゝふの矢橋の船は速けれど急がば回れ勢多の長橋」と言う歌もある。
みかづきにふかのあたまをかくしけり 之道(三日月:秋)
※鯗の頭 謡曲融「三日月の影を・・・水中の遊魚は釣り針と疑ふ」より。
あはひえとめでたくなりぬはつづきよ 半残(初月夜:秋)
※はつ月よ 八月四・五・六日頃の月夜
つきみせんふしみのしろのすてぐるわ 去来(月見:秋)
おもしろうまつかさもえようすつきよ 土芳(薄月夜:秋)
※薄月夜 蓑虫庵日記によれば、元禄元辰三月四日山下の茅屋に初めて住す。十一日芭蕉翁を宿する夜とあり、薄月夜は朧月となっている。薄月夜は、霧などで光の薄い月夜で、芭蕉の改案という説がある。
つきかげやかしはでもるるひざのうへ 史邦(月影:秋)
※しでに涙のかゝる 山家集、玉葉集、
そのかみまゐりつかうまつりけるならひに、世を逃れて後も賀茂にまゐりけり。年たかくなりて、四国の方へ修行しけるに、また帰りまゐらぬこともやとて、仁安二年十月十日の夜まゐり、幣まゐらせけり。うちへもいらぬ事なれは、たなうのやしろに、とりつきてまゐらせ給へとて、心ざしけるに、このまの月、ほのぼのに、常よりも神さび、あはれに覚えて、よみける
かしこまる四手に涙のかかるかなまたいつかはとおもふあはれに
※たなうの社 上賀茂神社末社、棚尾社。
かげぼうしたぶさみおくるあさづくよ 卓袋(朝月夜:秋)
ばせをはやうちかへしゆくつきのかげ 乙州(月の影:秋)
けふつくしこぞのつきとふそうなかま 丈草(月:秋)
ふくかぜのあひてやそらにつきひとつ 凡兆(月:秋)
ふりかねてこよひになりぬつきのあめ 尚白(月の雨:秋)