新古今和歌集の部屋

校正七部集 猿蓑 巻之三 2 蔵書

                 平田
草苅よそれかおもひか 萩 の 露  李由

   元禄二年翁に供せられてみちのく

   より三越路にかゝり行脚しけるに

   加賀の國にていたはり侍りて伊勢

   まで先達けるとて

いつくにか たふれ 臥とも萩の原  曽良

桐 の木にうつら鳴 なる 塀の内  芭蕉

百舌 鳥鳴や入日さし 込 女松原  凡兆
                 亡人
初鴈に 行燈とるなまくら もと   落梧

   堅田にて

病 鴈 の夜寒に 落て 旅ね哉   芭蕉

あまの家は 小海ひに交るいとゞ哉   同

   加賀の小松といふ處多田の神社

   の宝物として実盛か菊から草の

   かふと同しく錦のきれ有。遠き事な

   からまのあたり憐におほえて

むさん やな甲 の下のきり/\す  芭蕉

菜 畑や二葉 の中 の 虫の聲   尚白

はたおりや壁 に来て鳴 夜は月よ  風麥

   いせにまうてける時
                 亡人
葉月也 矢橋に 渡る 人とめん   千子
     フカ
三日 月に鯗のあたまをかくしけり  之道

粟稗と 目出度 なりぬはつ月夜   半残

月見せん 伏見の 城 の 捨 郭  去来

   翁を茅舎に宿して
                 伊賀
おもし ろう 松笠もえよ薄月夜   土芳

         してに涙のかゝる哉と
   加茂に詣 かの上人のたなこの社の
    神垣に取つきてよみしとや
月影や 拍手 もるゝ 膝 の 上  史邦

   友達の六條にかみそりいたゝく

   とてまかりけるに
                 伊賀
影 ほうし たふさ 見送る朝月夜  卓袋

ばせを葉や 打かへし行月 の 影  乙州

京 筑紫 去年 の月とふ 僧仲間  丈草

吹風の 相手や 空に 月 一 つ  凡兆

降かねて こよひに なりぬ月の雨  尚白

 


くさかりよそれがおもひかはぎのつゆ  李由(萩の露:秋)
いづくにかたふれふすともはぎのはら  曽良(萩:秋)
 ※奥の細道
きりのきにうづらなくなるへいのうち  芭蕉(鶉:秋)
 ※うづら 田荘の酒家という題で、桐の木は大きな旧家の象徴で、鶉は飼鳥。
もずなくやいりひさしこむめまつばら  凡兆(百舌鳥:秋)
はつかりにあんどんとるなまくらもと  落梧(初雁:秋)
やむかりのよざむにおちてたびねかな  芭蕉(雁:秋)
 ※堅田 近江八景の堅田落雁。元禄三年九月二十六日の昌房宛書簡。
 ※病鴈 びょうがんと訓じる説もある。
あまのやはこえびにまじるいとどかな  芭蕉(竈馬:秋)
 ※いとど 竈馬。カマドウマ。
むざんやなかぶとのしたのきりぎりす  芭蕉(きりぎりぎす(蟋蟀):秋)
 ※奥の細道。
 ※多田神社 石川県小松市。
 ※むざんやな 初案は、あなむざんやなで、謡曲実盛より。
なばたけやふたばのなかのむしのこえ  尚白(虫の声:秋)
はたおりやかべにきてなくよはつきよ  風麦(はたおり:秋)
 ※はたおり キリギリスの別名。ショウリョウバッタをいうこともある。
はづきなりやばせにわたるひととめん  千子(葉月:秋)
 ※貞享三年八月下旬、兄の去来と伊勢参宮した。
 ※矢橋 近江の大津の対岸、矢橋の渡。琵琶湖を横断すると急な突風で舟が沈没する危険があったので、室町時代の連歌師宗長の「ものゝふの矢橋の船は速けれど急がば回れ勢多の長橋」と言う歌もある。
みかづきにふかのあたまをかくしけり  之道(三日月:秋)
 ※鯗の頭 謡曲融「三日月の影を・・・水中の遊魚は釣り針と疑ふ」より。
あはひえとめでたくなりぬはつづきよ  半残(初月夜:秋)
 ※はつ月よ 八月四・五・六日頃の月夜
つきみせんふしみのしろのすてぐるわ  去来(月見:秋)
おもしろうまつかさもえようすつきよ  土芳(薄月夜:秋)
 ※薄月夜 蓑虫庵日記によれば、元禄元辰三月四日山下の茅屋に初めて住す。十一日芭蕉翁を宿する夜とあり、薄月夜は朧月となっている。薄月夜は、霧などで光の薄い月夜で、芭蕉の改案という説がある。
つきかげやかしはでもるるひざのうへ  史邦(月影:秋)
 ※しでに涙のかゝる 山家集、玉葉集、
 そのかみまゐりつかうまつりけるならひに、世を逃れて後も賀茂にまゐりけり。年たかくなりて、四国の方へ修行しけるに、また帰りまゐらぬこともやとて、仁安二年十月十日の夜まゐり、幣まゐらせけり。うちへもいらぬ事なれは、たなうのやしろに、とりつきてまゐらせ給へとて、心ざしけるに、このまの月、ほのぼのに、常よりも神さび、あはれに覚えて、よみける
かしこまる四手に涙のかかるかなまたいつかはとおもふあはれに
 ※たなうの社 上賀茂神社末社、棚尾社。
かげぼうしたぶさみおくるあさづくよ  卓袋(朝月夜:秋)
ばせをはやうちかへしゆくつきのかげ  乙州(月の影:秋)
けふつくしこぞのつきとふそうなかま  丈草(月:秋)
ふくかぜのあひてやそらにつきひとつ  凡兆(月:秋)
ふりかねてこよひになりぬつきのあめ  尚白(月の雨:秋)

コメント一覧

jikan314
@s1504 窪庭様
コメントとても嬉しいです。
近江八景の流れを汲む芭蕉の句。膳所や幻住庵、そして墓所と、近江を愛した芭蕉らしい句ですね。
実盛の冑は、金沢に住まいした時、小松まで自転車で訪れた事が有り、当時の写真を探したのですが見つからず、やむなくその部分は紹介出来なかったのは残念です。
850年前の義仲、実盛、そして350年前の芭蕉が思いを伝えた甲冑を目の前に見た時はとても感動いたしました。
又、猿簑は続きます。気長にお待ち頂き、ご来訪頂ければ幸いです。
拙句
病む雁も小松で療養一休み
(小松には昔、大きな潟が有り、多くの渡り鳥が飛来したとか)
s1504
お久しぶりです、
今回は『猿蓑』の芭蕉の2句に感銘を受けました。

病 鴈 の夜寒に 落て 旅ね哉   芭蕉
むさん やな甲 の下のきり/\す  芭蕉

ありがとうございました。
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