悩ますか。将又妄心のいたりてくるはせ
るか其時心更に答ふることなしたゞ、
傍に舌根をやとひて不惜の念佛
兩三反を申てやみぬ。時に建暦の二
とせ弥生の晦比桑門蓮胤外山
の庵にしてこれをしるす。
月かげは入山の端もつらかりき
たえぬひかりを見るよしもがな
悩ますか。はた又、妄心の至りて狂はせるか。その時、心
更に答ふる事なし。ただ、傍に舌根をやとひて、不請の
念仏両三返を申して止みぬ。
時に、建暦の二とせ、弥生の晦比、桑門蓮胤、外山の庵に
して、これを記す。
月影は入る山の端もつらかりき絶えぬ光を見るよしもがな
※この和歌は流布本系のみ記載されており、源季広の歌である。
(参考)前田家本
悩ますか。将又、妄心の至り狂せるか。その時、心
更に答ふる事無し。只、傍らに舌根をやとひて、不惜の
阿弥陀ぶ両三返を申して止みぬ。
時に、建暦の二年弥生の晦日の比、桑門蓮胤、外山の庵に
して是を記す。
(参考) 大福光寺本
ナヤマスカ。ハタ又妄心ノイタリテ狂セルカ。ソノトキ心
更ニコタフル事ナシ。只カタハラニ舌根ヲヤトヒテ不請
阿弥陀仏両三遍申テヤミヌ。
于時建暦ノフタトセヤヨヒノツコモリコロ桑門ノ蓮胤トヤマノイホリニ
シテコレヲシルス
生壽者若取法相則
着我人衆生壽者何
以故若取非法相即
着我人衆生壽者是
故不應取法不應取
非法
浄名居士 維摩のこと也。
周梨繁特 仏在世のとき
の人我名をもわするゝ
程おろかなる人也。
月かげは入山のはもつらかりきたえぬひかりを見るよしもがな 月ほど四季
ともにえならぬ物はあらねども、猶入山つらきことあれば、たゞたえぬ光
を見ることをねがへりも、たえぬ光はいかなる物ぞと心を付給らば、長明のむね
のうちの、やんごとなきにもいたるべし。
賀茂川