見出し画像

新古今和歌集の部屋

西行物語絵巻 同行の別 蔵書

さてもさとに出にければつれたりける同行ども

みね我も/\とをの/\ちりわかるゝこそなまじ

ひに涙もとゞまらざりけれ。其中に心ありける

同行のことに名残をおしみていづくにていつか

又めぐりあふべきと袖をしぼりければ

さりともとなをあふ事をたのむかな

しでの山路をこえぬわかれは

其時そうなん房を本尊にて百日同心合力

の同行教主とをがみて罪障消滅の教化に

あづかりてふるき谷の氷をたゝきて水をくみ

高峯のたきゞをとりてひさげをあたゝめては

しゆくつきてはたどる/\せんだちの御あしを

あらひて金㓻秘密◯禅入定の秘所をゝしへ給て

恭敬礼◯のゆへには極楽浄土の望衣かへるばかり

に袖をしぼりてちり/"\になるあかつきぬへといふ

鳥の聲心ぼそくきこえければ

さらぬだに世のはかなさを身にしりて

ぬへなきわたるあけぼのゝ空

ぎしきをさだめしどうぎやうもをの/\わかれ

ぬればたゞ我ひとりもとのすみぞめになりて住

吉にまいりてみれば源三位よりまさの卿の月

をちかゝるなどよみけるもことはりとおぼえて又松

のしづくをあらひけむ浪いまの心ちして

いにしへの松のしづえをあらひけむ

なみをこゝろにかけてこそ見れ

すみよしの松のねあらふなみの音を

木ずゑにかくるおきつしほ風


其年は住吉にこもかてをこなひて返年

の春宮こへ行けるに、つの圀なにはゝたりを

ながめけるに春風にはかにあしのかれ葉を

おどろかしてよろづ心ぼそくて

津のくにのなにはの春は夢なれや

あしのかれ葉に風わたるなり

 

津の國なにはの浦

※◯は読めなかった文字。



さても里に出でにければ、連れたりける同行共み(な)、我もわれも各々散

り分かるるこそ、なまじひに涙もとどまらざりけれ。その中に、心有りける同

行の、殊に名残を惜しみて、いづくにていつか又、巡り逢ふべきと、袖を絞り

ければ、

さりともとなを逢ふ事を頼むかな死出の山路を越えぬ別れは

その時、宗南房を本尊にて、百日同心合力の同行教主と拝みて、罪障消滅の

教化に預かりて、古き谷の氷を叩きて、水を汲み、高峯の薪を取りて、提子を

温めては、しゆく尽きては、辿るたどる先達の御脚を洗ひて、金剛秘密坐禅

入定の秘所を教へ給ひて、恭敬礼拝の故には、極楽浄土の望、衣替へるばか

りに袖を絞りて、散りぢりになる暁、鵺といふ鳥の声、心細く聞こえければ、

さらぬだに世のはかなさを身に知りて鵺鳴き渡る曙の空

儀式を定めし同行も、各々別れぬれば、ただ我一人、元の墨染になりて、住吉

に参りて見れば、源三位頼政の卿の「月落ちかかる」など読みけるも理りと覚

えて、又松の※しづくを洗ひけむ浪、今の心地して、

いにしへの松のしづえを洗ひけむ浪を心にかけてこそ見れ

住吉の松の根洗ふ浪の音を梢にかくる沖つしほ風

その年は、住吉にこもかて(籠もりて)行ひて、返す年の春、都へ行けるに、

津の国難波(わ)たりを眺めけるに、春風、俄かに芦の枯れ葉を驚かして、

万づ心細くて、

津の国の難波の春は夢なれや芦の枯れ葉に風わたるなり

 

津の國なにはの浦


西行物語
さりともとなを逢ふ事を頼むかな死出の山路を越えぬ別れは

山家集
 遠く修行する事ありけるに、普提院の前の斎宮
 に参りたりけるに、人々別れの歌つかうまつり
 けるに
さりともと猶あふことをたのむかなしての山ちをこえぬわかれは

異本山家集
 遠く修行し侍りけるに、菩提院の前に斎宮にて、
 人々別の歌つかうまつりけるに
さりともとなほあふことを憑むかなしての山路をこえぬ別は

新古今和歌集 巻第八 離別歌
 遠き所に修行せむとて出で立ち侍りけるに人々
 わかれをしみてよみ侍りける
さりともとなほ逢ふことを頼むかな死出の山路を越えぬ別は

よみ:さりともとなほあふことをたのむかなしでのやまじをこえぬわかれは 定隆 隠

意味:そうは言っても又会える事をあてにしています。死別する訳ではないこの世での別れなので。

備考:山家集では、菩提院前の斎宮(院)の上西門院統子内親王に別れを告げた時の歌。本歌 藤原朝忠 もろともにいざといはずは死出の山越ゆとも越さむものならなくに。

 

西行物語
さらぬだに世のはかなさを身に知りて鵺鳴き渡る曙の空

山家集 題知らず
さらぬだに世のはかなさをおもふ身にぬえなきわたるあけぼのの空

 

西行物語
 松のしづくを洗ひけむ浪、今の心地して、
いにしへの松のしづえを洗ひけむ浪を心にかけてこそ見れ

山家集
 松のしづえをあらひけん浪、いにしへに変はら
 ずやと覚えて
いにしへの松のしづえをあらひけん波を心にかけてこそみれ

異本山家集
 松のしづえあらひけん浪、古にかはらすこそは
 と覚えて
いにしへの松のしづえをあらひけん浪を心にかけてこそみれ

 

西行物語
住吉の松の根洗ふ浪の音を梢にかくる沖つしほ風

山家集
すみよしのまつがねあらふ浪の音を梢にかくるおきつしほ風

 

西行物語
津の国の難波の春は夢なれや芦の枯れ葉に風わたるなり

異本山家集 無常の心を
つの国の難波の春は夢なれや蘆のかれはに風わたるなり

新古今和歌集巻第六 冬歌 題しらず
津の國の難波の春は夢なれや蘆のかれ葉に風わたるなり

よみ:つのくにのなにわのはるはゆめなれやあしのかれはにかぜわたるなり 有定隆雅 隠

意味:能因が見た摂津国の難波の春は夢なのであろうか。荒凉とした芦の枯葉にただ冷たい風が渡って行くだけだ。

備考:御裳濯河歌合。同判で俊成は、「幽玄の体」と評した。本歌 心あらむ人に見せばや津の国の難波わたりの春の景色を(後拾遺 能因)。定家十体で有心体の例歌。

 

※そうなん房 宗南坊僧都行宗と古今著聞集にある。僧南坊という西行物語本もある。目崎徳衛は「出家遁世」で、「行宗は大峰修行三十五度に及んだ熊野山伏で西行より九歳年下に当たる実在の人物」とある。(参考 明治大学文学研究論文集第16・02  「西行の大峰修行をめぐって」金任仲)
熊野長床宿老五流
尊隆院行宗
僧南坊前少僧都。長床執行。峰修行三十五度。晦日山伏。 前大僧正覚宗弟子。承元五年二月四日卒。春秋八十五歳。

※源三位頼政の卿の月をちかかる 頼政集 秋
住吉の松のこまより見渡せば月落ちかかる淡路島山

※しづく 歌からは下枝(しずえ)とあるが、そのままとした。



名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「西行物語」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事