八雲抄巻第一 正義部
旋頭哥
三十一字に、今一句をそへたる也。普通哥は五句、是は六句
也。初五七五は、なべての哥の樣にて、其後七字句、或五
字句をそへたるもあり。又、五七〃上句、五七〃下句なる
も有。さて七〃は、なべての哥にかはる事なし。
うちわたすをちかた人にものまうすわれその
そこにしろくさけるはなにのはなぞも
是は、はてに七字を添と俊頼口傳にいへり。万人丸
かのをかに萩かるをのこしかなかりそありつゝ
もきみがきまさむ見まくさにせん
是は、中に五字を添哥なり。
あさづくひむかひの山につきたてるとをつまを
もたらん人は見つゝしのばん
是二は、五句を入たりなり。
ます鏡そこなるかげにむかひゐて見る時に
こそしらぬおきなにあふこゝちすれ
是は、中に七字の句を入たる哥なり。
旋頭哥おほけれ共、みゝちかきもなし。おほかた旋頭哥
などをば、いたくやさしくは、つくるまじき物也。さればと
て、耳遠き事をもとむべきにては、なけれど、すこし
思ふべき也。朝夕などにつくり、すべていたく是をせ
んとすべからず。又五七〃五七〃なるもあり、古今に
君がさすみかさの山の紅葉ばの色神無月
しぐれの雨のそめるなりけり
といへるなり。
はるされば野べにまづさく
といへるも五七〃五七〃なり。
※読めない部分は、国文研鵜飼文庫を参照した。
※うちわたす 古今集巻第十九 雑体 よみ人知らず 1007 打ち渡す遠ち方人に物まうす我そのそこに白くさけるはなにの花そも
※かのをかに
万葉集 巻第九 柿本人麻呂集 1291
此岡 莫苅小人 然苅 有乍 君来座 御馬草為
拾遺集 雑歌下 567
かの岡に草刈る男しかなかりそありつつも君が来まさむみまぐさにせん
※あさづくひ 万葉集巻第七 旋頭歌 1294
朝月日 向山 月立所見 遠妻 持在人 看乍偲
右二十三首柿本朝臣人麻呂之歌集出
朝つく日 向ひの山に 月立てり見ゆ 遠妻を 持たる人や 見つつ偲ばむ
※ます鏡 拾遺集巻第九 雑歌下 よみ人知らず 565
ます鏡そこなる影に向ひゐて見る時にこそ知らぬ翁にあふ心地すれ
和漢朗詠集 老人 躬恒
※君がさす 古今集巻第十九 雑体 題知らず 紀貫之 1010
君がさす三笠の山の紅葉ばの色神無月時雨の雨の染めるなりけり
※はるされば 古今集巻第十九 雑体 返し よみ人知らず 1007
君されば野辺にまづ咲く見れどあかぬ花まひなしにただ名のるべき花の名なれや