じよやのさく じやうけん
除夜㑅 常建
りよくはんのかん とう ひとり ず ねむらかくしん なにごとぞ
旅 館 寒 燈 燭 不眠客心何 事
うたゝ せい ぜん こ きやう こ よひ おもふ せんりを
轉 凄 然 故 郷 今 夜 思 千 里
そう びん めう てう また いち ねん
霜 鬂 明 朝 又 一 年
白雪山人書
こよいはじよやなればこきやうにてはよもすがらともひをかゝぐとことしたんしめどもたびのこと
なれば、ともしびもふす/"\としているゆへ、なにかとおもひがせらじてねられぬ。これもりよかくの身のうへ
であろふ。客心とふした事で、此ゆふに轉凄然とことのあわれにさびしくている事ぞ。わが
みながらも、さとられぬ今夜は、除夜とて人はみなにぎやかにたのしめども、われはこの◯
千里のこきようの事をおもひいだして、かなしむこよひがあけたならば、又いちねん
明てうのとしをかさねて、しらがあたまになり、たびにばかりいて、こきやうへかへる事も
いつともしれねばいよ/\せいぜんとことのうい事じやとなり。
除夜作 常建
旅館の寒燈独り眠らず。
客心、何事ぞ、転た凄然。
故郷、今夜、千里を思ふ。
霜鬂、明朝、又一年。
意訳
旅館の寒々とした灯の下、布団に入っても独り眠られない。
旅人とは、なんなんだろう?いよいよ物悲しさが増すばかりだ。
遠く離れた故郷では、今夜は一体どうしているだろうか。私の事を思ってくれているだろうか。
霜のように寂しくなったこの白髪頭は、朝が明ければ又一年、歳を取ってしまう。
※凄然 寂しく悲しい。
唐詩選画本 七言絶句 巻第五