大行路 借夫婦以諷君臣之不終也
大行之路能摧車若比人心是夷途巫峽
之水能覆舟若比人心是安流人心好惡
苦不常好生毛羽惡生瘡與君結髮未五
載勿從牛女爲參商古稱色衰相棄背當
時美人猶怨悔何況如今鸞鏡中妾顏未
改君心改爲君熏衣裳君聞蘭麝不馨香
爲君事容飾君看金翠無顏色行路難難
重陳人生莫作婦人身百年苦樂由他人
行路難難於山嶮於水不獨人家夫與妻
近代君臣亦如此君不見左納言右内史
朝承恩暮賜死行路難不在水不在山祇
在人情反覆閒
※全唐詩では、「太行路」となっており、多少異同がある。テレビでは、白氏文集を使っていた。
藤式部 人の心の好悪を、苦(はなは)だ常ならず。好めば毛羽を生じ、悪(にく)めば瘡を生ず。
藤式部 人の好き嫌いの心は、とても変わり易い物。好きとなれば羽が生え、飛ぶ程に持ち上げて大事にしますが、嫌いとなれば、瘡ばかり探し出します。
中宮 私も、まもなく帝に瘡を探されるのであろうか?
藤式部 瘡とは、大切な宝なのでございますよ。
中宮 えっ?
藤式部 瘡こそ、人をその人たらしめる物にございますれば。
白氏文集
新樂府其十
大行路 借夫婦以諷君臣之不終也
大行の路 夫婦を借りて以て君臣の終へざるを諷する也
大行之路能摧車 大行の路、能く車を摧(くだ)くも、
若比人心是坦途 若し人の心に比すれば是れ夷途(いと)なり。
巫峽之水能覆舟 巫峽の水、能く舟を覆すも、
若比人心是安流 若し人の心に比すれば是れ安流なり。
人心好惡苦不常 人の心の好悪、苦(はなは)だ常ならず。
好生毛羽惡生瘡 好めば毛羽を生じ、悪(にく)めば瘡を生ず。
與君結髮未五載 君と結髮して、未だ五載ならざるに、
古稱色衰相棄背 古より称す、色衰ふれば相棄背すと。
當時美人猶怨悔 当時の美人、猶怨悔す。
何況如今鸞鏡中 何ぞ況んや、如今鸞鏡の中、
妾顏未改君心改 妾が顏(かんばせ)未だ改まらざるに、君が心改まるをや。
爲君熏衣裳 君が為に衣裳を薫ずれば、
君聞蘭麝不馨香 君は蘭麝を聞きて馨香とせず。
爲君事容飾 君が為に容飾を事とせば、
君看金翠無顏色 君は金翠を看て顏色無しとす。
行路難。難重陳 行路難。重ねて陳べ難し。
人生莫作婦人身 人生まれて、夫人の身と作る莫かれ。
百年苦樂由他人 百年の苦楽、他人に由る。
行路難。難於山嶮於水 行路難。山よりも難く、水よりも嶮(けわ)し。
不獨人間夫與妻 獨り人家の夫と妻とのみならず。
近代君臣亦如此 近代の君臣も亦た此くの如し。
君不見。左納言、右内史 君見ずや。左納言、右内史、
朝承恩、暮賜死 朝に恩を承け、暮に死を賜ふ。
行路難。不在水不在山 行路難。水に在ず、山に在らず。
祇在人情反覆閒 祇(た)だ人情反覆の間に在り。