十五 信夫山忍びて通ふ道もがな人の心の奥もみるべく 在原業平
しのぶやましのびてかようみちもかなひとのこころのおくもみるべく
新勅撰恋五 古今六帖二
十六 手を折りてあひ見し事を数ふればとおいひつつ四つは経にけり 紀有常
てををりてあひみしことをかぞうればとおといいつつよつはへにけり
在中将集、業平集
十六 年だにも十とて四つは経にけるを幾たび君を頼み来ぬらむ 在原業平
としだにもとおとてよつはへにけるをいくたびきみをたのみきぬらむ
続千載恋五 在中将集、業平集
十六 これやこの天の羽衣うべしこそ君が御衣と奉りけれ 紀有常
これやこのあまのはころもうえしこそきみがみけしとたてまつりけれ
業平集
十六 秋や来る露や紛ふと思ふまであるは涙の降るにぞ有りける 紀有常
あきやくるつゆやまかうとおもうまであるはなみだのふるにぞありける
新古今雑上
十七 徒なりと名にこそたてれ桜花年に稀なる人も待ちけり 読み人知らず
あだなりとなにこそたてれさくらばなとしにまれなるひともまちけり 古今春上
在中将集、業平集
十七 今日来ずは明日は雪とぞ降りなまし消えずは有りとも花とみましや 在原業平
きょうこずはあすはゆきとぞふりなましきえずはありともはなとみましや
古今春上 在中将集、業平集 古今六帖六
十八 紅に匂ふはいつら白雪のえだもとををに降るかとも見ゆ 生心女
くれなゐににおうはいつらしらゆきのえだもとをおにふるかともみゆ
業平集
十八 紅に匂ふが上の白菊は折りける人の袖かとも見ゆ 男
くれなゐににおうがうえのしらぎくはおりけるひとのそでかともみゆ
十九 天雲のよそにも人の成り行くかさすがに目には見ゆるものから 紀有常女
あまくものよそにもひとのなりゆくかさすがにめにはみゆるものから
古今恋五 在中将集、業平集
十九 天雲のよそにのみして経ることは我が居る山の風は止みなり 在原業平
あまくものよそにのみしてふることはわがいるやまのかぜはやみなり
古今恋五 在中将集、業平集
二十 君が為手折れる枝は春ながらかくこそ秋の紅葉しにけれ 在原業平
きみがためたおれるえだははるながらかくこそあきのもみぢしにけれ
玉葉恋四
二十 何時の間に移ろふ色の付きぬらむ君が里には春なかるらし 大和女
いつのまにうつろういろのつきぬらむきみがさとにははるなかるらし
二十一 出でていなば心軽しと言ひやせむ世の有様を人は知らねば 女(在原業平)
いでていなばこころかろしといいやせむよのありさまをひとはしらねば
古今六帖四
二十一 思ふ甲斐無き世なりけり年月を徒に契りて我やすまひし 男
おもうかいなきよなりけりとしつきをあだにちぎりてわれやすまひし
二十一 人はいざ思ひやすらむ玉鬘面影にのみいとど見えつつ 男
ひとはいさおもいやすらむたまかづらおもかけにのみいとどみえつつ
万葉集二異伝、新勅撰集
二十一 今はとて忘るる草の種をだに人の心に播まかせずもかな 女
いまはとてわするるくさのたねをだにひとのこころにまかせずもがな
新勅撰恋四
二十一 忘れ草植うとだに聞くものならば思ひけりとは知りもしなまし 男
わすれぐさううとだにきくものならばおもいけりとはしりもしなまし
続後撰恋五
二十一 忘るらむと思ふ心の疑ひにありしよりけにものぞ悲しき 男
わするらむとおもうこころのうたがいにありしよりけにものぞかなしき
新古今恋五(古今)
二十一 中空に立ちゐる雲の跡もなく身は儚くもなりにけるかな 女
なかぞらにたちゐるくものあともなくみのはかなくもなりにけるかな
新古今恋五
二十二 憂きながら人をばえしも忘れねばかつ恨みつつなほぞ恋しき 女
うきながらひとをばえしもわすれねばかつうらみつつなほぞこひしき
新古今恋五
二十二 逢ひ見ては心一つを川島の水の流れて絶えじとぞ思ふ 男
あいみてはこころひとつをかわしまのみづのながれてたえじとぞおもう
続後撰恋三
二十二 秋の夜の千代を一夜に準へて八千代し寝ばや飽く時のあらむ 男
あきのよのちよをひとよになずらえてやちよしねばやあくときのあらむ
古今六帖四
二十二 秋の夜の千代を一夜に成せりとも言葉残りて鳥や鳴きなむ 女
あきのよをちよをやちよになせりともことばのこりてとりやなきなむ
続古今集恋三