久々に専門誌「サッカー批評」に目を通した。季刊発行だったものを隔月刊にしたとのこと。こんな値段だったっけと思っていたら、値上げもあったようだ。
いろいろ示唆に富んだ記事、企画が多いのだが、当・サッカー文化フォーラムの重要な役割の一つだと思うので、その中から幾つか紹介しながら感想を書いておきたい。
まず「世にも不思議なサッカー村の掟」というレポート記事。海江田哲朗さんというライターによる。ライター仲間やクラブ側の人、Jリーグ関係者の人、スポーツ紙のベテラン記者の人などへの取材で構成されている。
ここで言う「サッカー村」とは、小さなムラとしての各クラブフロント、そして、それらを束ねるJリーグ機構や事務局というムラ、さらには日本ではもっとも大きなムラを形成する日本サッカー協会(JFA)、それぞれにも見られる「掟」ということでもあろだろうし、全体に共通する「掟」といったものを抉り(あぶり)出したいということのようだ。
その中で、Jリーグ関係者の人が、長年「サッカー批評」の愛読者ということで「こっそり話を聞かせてもらった」というくだりがある。
つまりJリーグや日本サッカー協会は「サッカー批評」という雑誌を本音ではどう見ているのか聞きたいという趣旨だろう。
出てきた本音は、結構、由々しき問題を孕んで(はらんで)いる。彼は「JFAやJリーグの一部では、業界ゴロ的なと言ったら言い過ぎだけど、そういう色合いの雑誌と思われているフシがありますね」と答えた。
記事でも「と、穏やかではない言葉。」と結ばれている。
ここを実際にお読みになった方でも、あまり気に留めなかった読者も多かったかも知れないが、日本サッカー協会やJリーグ機構などが、いかに一部かも知れないとはいえ、こと「サッカー批評」の紙面づくりについて、そういう認識(すなわち「サッカー批評」という雑誌は業界ゴロ的な雑誌だという認識)があるとしたら、ほとんどメディアの役割について無知だと断定するしかない。
公的な、きわめて社会的な機関、組織がメディアの役割について無知だとすると、そういう機関、組織が個々の選手やクラブに対して「メディアへの対応の仕方」等々、偉そうに指示・指導しているのはブラックジョークとしか言いようがない。
ここで、さきほどの「穏やかではない言葉」の中身を解説しておきたい。
話の中に「業界ゴロ的なと言ったら言い過ぎだけど・・・」という表現があったが、これが無知の核心だ。ここでは雑誌業界、その中のスポーツ誌業界、もっと狭く言えばサッカー雑誌業界という業界のことを指すわけだが、よく経済雑誌業界の中に、実は業界ゴロと呼ばれる雑誌社があることから来ている。「ゴロ」というのは「ゴロツキ」いわば、ならず者、ワルといった連中を指す。読者の皆さんにもご存知の方は多いと思う。
したがって「業界ゴロ」呼ばわりされるのは、侮辱もはなはだしいことなのだ。
経済雑誌といえば聞こえはいいが、個別企業のスキャンダル、恥部と言われる部分を暴露する取材力を持った雑誌社がわずかながらあり、そのような雑誌社は、スキャンダルや恥部の暴露を極度に嫌がる個別企業の弱みに付け込み、片方ではその可能性をちらつかせながら、片方では提灯記事(ちょうちんきじ:つまり、よいしょ記事)を書いて、その企業から多額の企画記事料をせしめるのを得意としている。
提灯記事の企画は、結構、知名度の高い雑誌でも一般的に行われる手法だが、弱みをちらつかせる部分がなければ、企画記事料は、いわば市場相場で決まる。しかし、そこに弱みに付け込むパワーが働くと、その料金は法外なものとなり、そこがまさにゴロツキの真骨頂ということになる。別に雑誌社が料金を提示しなくとも、企業のほうが「喜んでお願いします」と法外な記事料を出すからである。この状態は、警察などから見れば、違法な利益供与として摘発の対象になりかねない。
今回の「サッカー批評」に対する「業界ゴロ的なと言ったら言い過ぎだけど・・・」という話は、日本サッカー協会やJリーグ機構などにとって「世間にスキャンダルや恥部が暴露されるのを極度に恐れている態度から出ていることが、よくわかるが、問題は、法外なカネが絡んでいる一部の経済雑誌社と同列に並べた「ゴロツキ的な雑誌」と捉えているフシがある点である。
これは、日本サッカー協会やJリーグ機構にとって、自殺行為につながりかねない認識だ。言いかえれば「天に唾する行為」、つまり「サッカー批評」に対して唾を吐きかけたつもりなのに、それが日本サッカー協会やJリーグ機構自身に戻ってくる行為だということを意味する。
もし「サッカー批評」という雑誌あるいは、それを発行している双葉社という雑誌社に、そういう業界ゴロ的な行為が実際に存在する、つまり法外なカネを目的とした暴露行為が存在するのであれば、私は前言の全てを取り消し日本サッカー協会やJリーグ機構に謝罪しなければならないが。
実は、さきの「穏やかではない言葉」が発せられた取材の席に「サッカー批評」の森編集長も同席しておられたという。森編集長は「気に入らない記事もあるでしょうが、いいことも書いているのに。そんな風に思われると、つらいですよ」と、泣きを入れた。ライターの海江田さんは、その「泣き」を「いい泣きを入れていた」と書いている。
でも「サッカー批評」あるいは「双葉社」が、業界ゴロ呼ばわりされていることについて、一点の曇りもないのであれば、社内で密かに反撃のプロジェクトを立ち上げてもいいぐらいの侮辱を受けているのである。「いい泣きを入れていた」などというレベルの反応で済む侮辱ではないのである。
もっとも、編集サイドと経営・営業サイトとは、必ずしも思いを一(いつ)にしていないのがメディア業界の悲しいところで、あとは経営としての「サッカー批評」あるいは「双葉社」の答えを待ちたい。
しかしながら、JFAやJリーグ機構側も、別に「サッカー批評」をいわゆるゴロツキ雑誌だとまで見ていないにしても、このレポートにもあったように、出禁(特定のメディアを出入り禁止にする)や取材拒否などの報復手段をお手軽に使っていることを考えれば、相当、気に入らない雑誌と思っていることが白日のもとに晒された(さらされた)わけで、JFAやJリーグ機構という公的機関への信頼は瓦解したと考えるべきであり、このことを軽々しく受け止めていると、大きな禍根を残すことだけは指摘しておく。
というわけで、この「世にも不思議なサッカー村の掟」というレポート記事、なかなか示唆に富んでいた。
もう一つ、紹介したいのが「サッカー星人」という連載企画、
最後に紹介するのが「出禁」問題。