川内原発を優先審査 規制委、今夏にも再稼働
(日本経済新聞)- 2014/3/13 11:03 (2014/3/13 13:57更新) 記事保存
原子力規制委員会は13日、再稼働に向け審査中の10原発のうち、九州電力川内(せんだい)原子力発電所(鹿児島県)の安全審査を優先的に進めることを決めた。規制委は今後、同原発について審査の最終とりまとめに入る。早ければ5月にも審査に合格する可能性がある。昨年7月に刷新された新規制基準の下、川内原発が夏にも再稼働1号となる公算が大きくなった。
「優先枠」に選ばれたのは川内原発の1、2号機。合計出力178万キロワットで九電の主力発電所のひとつだ。田中俊一規制委員長は同日の規制委の会合で「川内原発1、2号機は基本的には大きな審査項目をクリアしている」と語った。規制委は今後、川内を「特急」扱いとして審査を進める。九電は「審査に対して真摯かつ精力的に対応したい」とのコメントを出した。
積み残している主な作業は、原発の基準適合状況を詳細に示す「審査書」づくりと、一般からの意見募集や公聴会の実施など。すべての作業を終えるまでには少なくとも2カ月程度かかる見込み。
規制委による審査合格後は、周辺自治体などの同意を取り付けられるかどうかがカギとなる。川内原発周辺では大きな反対はないとみられている。薩摩川内市の岩切秀雄市長は13日、「大きな山を一つクリアできたと考えている」との談話を発表した。
東京電力福島第1原発の事故を教訓に原発の規制は刷新された。審査のポイントとなっているのは原発を襲う地震や津波への対策だ。新規制基準は各電力会社に対し地震・津波のリスクを厳しく見積もるよう求めた。川内原発は事故前に想定していた地震・津波想定を見直して大幅に引き上げ、安全対策を強化したことで12日までの審査で主要項目をほぼクリアした。
新規制基準が昨年7月に導入されて以降、規制委はこれまでに10原発17基の審査申請を受け付けた。ただ10原発同時進行の審査は遅れがち。電力会社や原発地元からは審査の早期終了を求める声が上がっていた。このため規制委は先行する原発の審査を優先的に進めて終わらせ、この審査をモデルケースとして他原発の審査を効率的に済ませる意向を示していた。
九州電力川内原発。右から1号機、2号機
(2013年6月、鹿児島県薩摩川内市)=共同
九州電力川内原発。右から1号機、2号機(2013年6月、鹿児島県薩摩川内市)=共同
残りの9原発では四国電力の伊方原発(愛媛県)、九電玄海原発(佐賀県)などの審査が進んでいる。川内原発が優先審査を受ける期間は、他原発の審査は多少滞る可能性がある。また、他原発では稼働に難色を示している周辺自治体もあり、審査合格後も再稼働にこぎ着けられない可能性は残る。
政府は規制委の安全審査を合格した原発から再稼働する方針を示している。原発を「重要なベースロード電源」と位置付ける政権が、自治体や国民の説得にどこまで関与するかも再稼働を左右する焦点となる。川内原発以外で、電力需給が逼迫する夏までに再稼働の見通しが立つか、先行きは不透明だ。
川内原発「1番手」に賛成派も困惑
(西日本新聞経済電子版)- 2014年3月13日(木)18:00
九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)が、再稼働に向けた原子力規制委員会の安全審査で先頭に立ったことに、再稼働を待望してきた地元の商工業者や、行政職員から戸惑いの声も上がっている。再稼働第1号になれば全国の注目を集め、反対派の激しい抗議活動で地域が混乱する恐れがあるため。国が再稼働への地元了解の手続きを明確にしていないことも関係者の不安を募らせる。一方で玄海原発がある佐賀県玄海町の行政や商工関係者は、1番手にならなかったことを冷静に受け止めた。
「再稼働の1番手だと反対派やマスコミが大挙して押しかけ、街が二分されそうだ。できれば避けたい」。薩摩川内市で原発作業員向けの旅館を経営する男性(34)は本音を漏らした。昨年は九電の安全対策工事で客足が持ち直したが、将来も旅館を続けられるか、不安は拭えない。別の旅館経営の60代女性も「2、3番手だとほとぼりが冷めて、すーっと手続きが進むかもしれない。経営的には一日でも早く動かしてほしいが」と複雑な胸中を語る。
再稼働を容認する市議は「2009年に市役所を訪れた当時の九電社長が反対派に取り囲まれたことがある。反対派がああいった実力行使に出なければいいが」と心配する。
市の原発担当者は「2番手だと1番手の流れを参考にできるが、1番手は手探りになる」と再稼働へ向けた行政業務に不安を隠さない。「何より地元了解の手続きがいまだに国から示されない」と、遅れている国の対応に不満も口にした。
一方の玄海町。岸本英雄町長は2011年7月、全国の立地自治体で最初に再稼働の同意を九電に伝えたが、直後に国が安全評価の実施を表明し、撤回を余儀なくされた。その苦い経験から「全国から注目を浴びる1番より、2、3番手がいい」と、今月上旬の記者会見で答えていた。ただ、12日の本紙の取材には「1番も2番も関係ない」と表現を変え、「玄海原発は全国で一番安全な原発だと思う。規制委はスピード感を持って審査を進めてほしい」と要望した。
地元の唐津上場商工会の古賀和裕会長(58)は「再稼働は早いにこしたことはないが、1番には特にこだわらない。国が原発活用を進めていく方針であれば、どの地域が先頭でも同じだ」と冷静に受け止めていた。
◆玄海に先行、九電好都合
原子力規制委員会の安全審査で、川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)が玄海原発3、4号機(佐賀県玄海町)に先行することになれば、九州電力にとって好都合な面もある。再稼働のための地元手続きは、「やらせメール」問題の影が付きまとう玄海より、川内の方が円滑に進む公算が大きい。各社の原発が後に続くだけに、九電にとって、再稼働第1号でのつまずきは許されない。
「川内は玄海より『地元』が良い」。ある九電幹部はこう言い切る。
再稼働に向けた審査終了後の関門は、再稼働の前提となる地元了解。再稼働を急ぐ政府は「地元」の範囲や必要な手続きを明確にしておらず、各地で手続きが異なる事態も想定される。
そうした中、川内原発については、鹿児島県の伊藤祐一郎知事が「地元」の範囲について「(立地自治体の)薩摩川内市と県(の判断)で十分」と繰り返し表明している。周辺自治体が関与を求める動きも限定的だ。伊藤知事、岩切秀雄薩摩川内市長はともに再稼働には前向きとされ、九電は迅速な手続きを期待する。
対する玄海原発の地元は、「やらせメール」問題で佐賀県の古川康知事の責任をめぐる議論が決着しておらず、知事も再稼働判断には慎重姿勢。同原発から最短12キロの佐賀県伊万里市が立地自治体並みの権限を求め、原発30キロ圏の自治体で唯一、九電と原子力安全協定を結んでいないことも懸念材料だ。
九電内には「玄海も県と玄海町の同意が得られれば、再稼働できる」との見方もあるが、伊万里市との協議がこじれたまま、再稼働を強行する形になるのは避けたい。川内で前例を作り、玄海の再稼働手続きに弾みをつける−。川内の審査合格が見えてきた今、九電内ではそんな期待が高まりつつある。
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