醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  343号  白井一道

2017-03-15 10:50:32 | 随筆・小説

 世界文化遺産となった和食

侘輔 「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されたということは日本食が世界文化遺産として世界に認められたということだよね。そうだろ、ノミちゃん。
呑助 ワビちゃん、日本食って、凄いんだね。
侘助 日本食がこんなに世界に認められた理由は何だと思う。
呑助 それは日本食が健康に良いからなんじゃないの。世界一の長寿国だしね。そうでしょ。日本食を世界無形文化遺産にしたもの、そのもとになったのは日本酒造りの文化が決定的に重要な役割を果たしているんだ。
呑助 へぇー、日本食の味と日本酒とはどんな関係にあるのかねー。
侘助 日本食の味のもとになっているのは、出汁(だし)にあるんだ。この出汁を作るのは昆布と鰹節だろう。
呑助 その昆布と鰹節の出汁で作った味噌汁はうまかったな。俺が子供の頃おふくろは削り節と昆布で出汁を採っていたのを覚えているよ。粉末の味噌汁の素とは味が違っていたように思うね。
侘助 そうだろう。昆布と鰹節で採った出汁がどうておいしいのかというと、それは昆布も鰹節も熟成したものを使っているからなんだ。熟成したものというのはカビの生えたものをいうんだ。
呑助 へぇー、カビなんだ。カビというと毒、そんな思いが強いけれどもねぇー。カビか。
侘助 そうなんだよ。カビはもともと毒だったんだ。その毒を無毒化し、旨味を作り出すカビにしたのは酒造りをしていた者たちだったんだ。酒造りはまず、蒸した米に麹菌を撒き、カビを繁茂させるでしょ。それを麹と言っているわけだけどね。そのカビが米のでんぷんをブドウ糖に変える。ブドウ糖を酵母が食べてアルコールをだす。そのアルコールが日本酒だ。
呑助 そんな技術を昔の日本人はどのようにして手に入れたのかね。
侘助 甘い水があれば、その水は酒になる可能性を持った水なんだ。その甘い水に酵母が入れば酒になる。原始の人は自然の中に酒を発見した。同じように炊いた飯米にカビが生え、その飯が甘くなることを知る。その偶然を意識的に作り出そうと試みたわけなんだ。
呑助 そりゃ、長い年月がかかったことだろうね。
侘助 もちろん、数千年かかったことだろうね。カビとはもともと毒だったんだから。その毒のカビの中から旨味を作り出すカビを作り出していったのだからね。それも経験を蓄積し、経験に経験を繰り返してカビづくりをした。
呑助 カビとはデンプンを糖に変えるものだよね。
侘助 そうだよ。そのカビが大豆のでんぷんを糖に変えると醤油や味噌になる。穀物のでんぷんを糖に変えると酒や酢になる。昆布に生えると熟成した昆布になる。魚のカツオに生えると鰹節になる。そのカビをアスペルギルス・オリゼというんだ。
呑助 へぇー。なんか、難しい名前だね。そのオリゼとかいうカビが日本食の味を作っているということなのかね。
侘助 そうなんだよ。アスペルギルス・オリゼというカビがわれわれの祖先が作り出した物なんだ。