糸魚川の酒
侘輔 ノミちゃんが地酒を嗜むようになったのは、いつごろからなの。
呑助 オヤジと一緒に飲むようになってからだから、まだ最近のことですかね。
侘助 まだ新米だね。
呑助 ワビちゃんが地酒を飲むようになったのはいつごろからなの。
侘助 「越乃寒梅」が人気を博した頃からかな。
呑助 一九七〇年代の終わりごろですかね。
侘助 そうだね。その頃だよ。新潟酒が地酒をほしいままにしてた頃かな。
呑助 確かに新潟の酒は何となく今でも人気がありますよね。
侘助 やっぱり、新潟の酒というだけで何となく、おいしい酒というイメージがあるよね。
呑助 隣の県の悪口になっちゃうけど、茨城の酒というだけで、何となくまずそうな酒、ダサい酒というイメージがあるよね。
侘助 埼玉の酒も同じようなものかな。何となくダサイタマの酒と言われそうだよ。
呑助 新潟には新潟美人という言葉がありますね。
侘助 秋田も酒どころだけれども、秋田美人という言葉があるね。
呑助 石川に行くと金沢美人ですね。秋田も石川、金沢の酒も旨そうなイメージがありますよね。
侘助 そうだね。新潟の酒の中でも特に特徴が著し町があるんだ。
呑助 そこはどこですか。
侘助 糸魚川だよ。糸魚川というところは日本中でも特に珍しい地域なんだ。小さな町に五つもの酒蔵がある。その酒蔵の一つ一つの特徴がはっきりしていると聞くよ。
呑助 へぇー。なんで糸魚川という所がそんなに特徴ある地域なんですかね。
侘助 糸魚川は東日本と西日本との境目にある町なんだ。
呑助 言葉にも違いがあるんですかね。
侘助 そうらしいよ。東日本では「酒を買った」と言うが西日本では「酒を買うた」と言うじゃない。糸魚川あたりでは「買あた」と東と西が合わさったように言い方をするらしいよ。
呑助 へぇー、面白いですね。よくお正月のお雑煮が東と西では違うと言いますよね。
侘助 東では角餅を焼いて雑煮に入れるのに対して西では丸もちを生で雑煮入れるね。糸魚川から富山あたりでは、角餅を生で雑煮に入れるしいよ。やはり、雑煮も東と西が入り混じっている。
呑助 酒の方はどうなんですか。
侘助 いつだったか、「根知男山」という銘柄の糸魚川市にある酒蔵の酒を飲んだことがあるんだ。しっかり味ののった綺麗な酒だったよ。
呑助 突然、思い出しましたよ。糸魚川というと中学の頃、フォッサマグナという地溝帯が通っているところでしたよね。
侘助 突然、地学の学のある所が出て来たな。
呑助 そう、私、中学の頃は秀才の誉れをほしいままにしたものですよ。
侘助 ほう、なるほどね。どうもノミちゃんが言うように関係があるんじゃないかと言われている。糸魚川市の東と西側では水質が違うようだよ。西側にある二つの酒蔵の酒は頸城山系から流れ出る水で醸している。その水は超軟水だからしっとりと滑らかな酒質の酒になるし、東の方の酒は新潟の酒の特徴を持っていると言われている。