お金を貸したなら返してねと言わなくちゃ
句郎 借金しても時効が来れば返さなくともいいんだよね。
華女 でも請求されていると時効は成立しないんじゃないの。
句郎 でも時効という制度は不思議な制度だよね。
華女 気の弱い人、お人よしの人には厳しい制度よね。だって気の毒かなと思って請求しないと貸したお金を返してもらえなくなってしまうんでしょ。
句郎 だから気の弱い人やお人よしの人は優しく、都合のいい時でいいから返してねと請求した日時を記入し、お金を貸した相手にサインしてもらっておくようにしないと時効が成立しちゃうからね。
華女 どうしてこんな制度が成立したのかしら。
句郎 これは近代社会が成立してからじゃないかな。
華女 そうよね。江戸時代には、このような時効というような制度はなかったんじゃないのかしら。
句郎 近代社会は西洋から入って来たものだから、ヨーロッパ社会に時効という制度があったので、日本にも取り入れたんだと思う。
華女 ヨーロッパではなぜ時効という制度が成立したのかしら。
句郎 フランス革命の成果の一つがナポレオン民法典だから、この中に時効の制度があったんじゃないのかな。
華女 なぜ近代社会の誕生と同時にこのような時効という制度が生まれたの。
句郎 それは権利という概念が生まれたからじゃないかな。
華女 権利の誕生が時効の成立になつたの。
句郎 そうだと思う。権利と義務は一体ものだよね。物の裏と表の関係でしょ。権利を主張することによって義務が生まれる。権利のことを英語でrightというでしょ。正しいことを主張することによって義務が生まれる。正しいと思っても主張しないと義務は生まれない。正しいと考えることは主張しなさい。これがヨーロッパ近代社会の在り方だったんじゃないかな。
華女 国民が正しいと考えることは主張しなさいと強制する社会が近代社会だというの。黙っていては正しいことは実現しないよと、いうことなの。
句郎 世の中には強者と弱者がいるでしょ。だから世の中は強者に都合のいいような社会になっているんだ。少々間違ったコトであっても強者の都合のいいようにしてしまうことがあるんだ。だから弱者が正しいと考えることは主張しなければ正しいことは実現しない。
華女 夫婦関係にあっても収入のある夫の方が強いとどうしても妻は主張しないと夫の言うようになってしまう傾向があるわ。
句郎 近代社会は「~する」社会なんだ。人間はそもそも積極的な存在なんだ。日本国憲法12条は次のように規定している。「国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」。そう、普段の努力をすることを国民は強制されている。普段の努力をしないと権利はなくなってしまうよ。貸したお金は返して下さいと勇気を出して請求しないと貸した金は戻ってこなくてもいいものと思われ、永久に戻ってこない。これが近代社会なんだ。時効とは権利の上に眠る者を許さないということなんだ。近代社会とは厳しい社会なんだ。