
脇坂さんが、声を発した。
「来た。うわっ、止まらん」
重量感タップリに、海底を這うように獲物が逃げていく。
「ドラッグ調整は、しっかりしてある」
「大丈夫です」
「少し、船で差を詰めようか」
「いや、このままでやってみます。浅場で船で追うと、相手に余計走られそうです」
「了解。頑張って」
指ドラッグも活用しながら、相手の走りを止めにかかるが…
強烈な突っ込みに、50ポンドリーダーが切られた。
最初のアタリが、強烈すぎる。
気を取り直す様に、船を戻してやり直す。
近くにある大敷き網のロープに絡まないように、一定の距離を置いている。
潮は上り潮が、1ノット前後で北東に流れている。

二流し目に入ると、魚探に大きなベイト反応が出始めた。
「大きなベイト反応が出てきたよ」
「何かが触ります。ジグが一瞬持ち上げられます」
ベイトには、何かが付いているようだ。
すると「来ました」と、再び脇坂さんが声を発した。
今度は、リーダーは60ポンドに上げてある。
ドラッグが「ギュギュー」と、鈍く重々しい音を発してラインが出ていく。
「今度は、追いかける?」
「少し、差を詰めましょうか」
船で少しずつ、ラインを回収しながら差を詰めていく。
「20キロ、30キロの根魚なら、多分上がると思うけど…」
「大きな鮫やろうか」
「いやー鮫なら3メートル近いのを上げているやろ」
「正体が見たいな」
底走りする獲物が、浮き上がる気配が感じられない。
「この辺りは、海底に瀬が有るよ」
そう言ったと、同時くらいに獲物の走りが止まった。
「あれ、走らなくなった」
「瀬に入られた」
色々と手を尽くすが、瀬に入ったと思われる獲物は出てくる気配が感じられない。
「出てこんかな」
時々、力を入れて引き出そうとしたが、リーダーが瀬に当たったのか切れてしまった。
朝のこの2度の攻防で、かなりの体力を消耗した。
この後は、昼近くになって、北西の風が強くなって白波が立ち始めた。

思ってもいなかった浅場での、大物とのギリギリのバトル。
2度も苦杯を飲まされるのは「何とかして、やり返したい」と、リベンジの気持ちが燃えてきた。