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ウジ虫から抽出したエキスが傷の治療に役立てられそうだ。医療用のウジ虫がそのまま、火傷(やけど)や潰瘍のような重篤な傷の治療薬になる可能性がある。ウジ虫のわいている傷口の方が清潔な傷口よりも治りが早いという臨床事実は、戦場で血まみれの傷を診てきた衛生兵らによって何百年も前から指摘されていた。だが、今回の最新研究によって、初めてそのメカニズムが解明されることになった。
現在、世界中の医療施設では特別に選別されたウジ虫の無菌培養が進められている。ウジ虫のエキスを染み込ませた絆創膏や軟膏が、薬局で売られる日も近いかもしれない。
ぞっとするような話に聞こえるかもしれないが、この手法が有効であることは疑いのない事実である。とはいえ、ウジ虫が傷の治癒にどのように効くのかという仕組みについては、長いこと議論が続けられてきた。
その謎が今回明らかにされたのである。傷の治りを早めていたカギは、ウジ虫が壊死した組織を分解して食べるときに分泌する消化液にあった。
治りの遅い傷には組織が壊死した状態のものが多く、そのような場所はバクテリアが繁殖しやすいため、炎症が起きて治癒がさらに遅れることになる。
イギリスのノッティンガム大学薬学部で研究を実施したデイビッド・プリチャード氏は次のように語る。「ウジ虫が出す液体は傷口から壊死した組織を除去し、その下にある組織の回復を早めていた。われわれはこの液体から酵素を抽出することに成功した。ウジ虫による治癒メカニズムが明らかになったので、今後より効果的な治療薬の開発が進むだろう」。
具体的には、ウジ虫の分泌液を染み込ませた絆創膏などが考えられる。しかし同氏によれば、開発される可能性が最も高い治療薬はウジ虫の酵素を成分とするゲル状軟膏だという。この軟膏を傷口に塗布すれば、傷の治りが早くなる可能性がある。
ウジ虫からできた薬というと不快感を持つ患者もいるかもしれないが、ウジ虫エキスは副作用も少ない良薬になると期待されている。
「ウジ虫に対する拒絶反応はほとんど報告されていない。しかも、われわれが治療薬に使おうとしている酵素は、既に医療用のウジ虫の分泌液を介して傷口の治療に用いられているものだ。この酵素に有害性があるとは思えない」と同氏は説明する。
もっとも、扱うモノがモノだけに、この研究が成功するまでの道のりには、周囲とのトラブルなどもあったようだ。「研究室のある施設内にハエが大量発生したときには、真っ先に犯人扱いされてしまった。ハエの種別を特定したら、屋根裏のハトの死体が発生源だとわかったんだがね」と、同氏はこれまでの苦労を振り返った。