昌栄薬品です
薬学博士故渡邊武著 自然とのバランス健康法『わかりやすい漢方薬』
P15 草根木皮はくすりの王様 漢方薬は自然物です。
自然体である人間が変調を起したときに、自然物である生薬=なまの薬で調整する。
これが漢方薬の一番基本になることです。
人間という生物が生きている基本的条件は、生活環境であり、そのときの気候風土であり、食べている食物です。
人間はその三つの調和をとって生きています。
その調和が破れると、薬物という特殊なもので補正してきたのです。
人間は土から生まれた変形物です。
その変調を自然物で補ってきました。
これが長い体験を通して薬物として利用されたのです。
漢方薬の自然物の効用はいろいろで、発汗作用するものがあれば、止汗作用をするものもあります。
鎮静する作用のものがあれば、興奮作用を起すものもある。
プラスとマイナスを用いればゼロになるのが普通の人間の常識であるはずですが、自然物というのは常識では考えられない効用を持っています。
たとえば草根木皮の王様といわれる朝鮮人参は、これからがんばらなくてはならない時に飲めば、興奮作用が働いて徹夜しても仕事ができる。
ところが、寝なければならないというときにこれを飲むと、こんどはその鎮静作用の方が働いて静かに眠れるのです。
また、異物があるとき飲むと吐いたり下したりする漢方薬を、何でもない時に飲めば何の作用も起らないのだから不思議です。
自然物と人間の関係は微妙です。
誰でも、並んだ食物を食べるとき、嫌いな食物から頂く人はいません。
必ず好きな物から食べるからこそおいしく頂けます。
その選択権は食べる人間にあります。
それと同じように、漢方薬という自然薬を飲む場合も、人間に選択権があり主体性があるということです。
体の状況によって自然の薬物は効き目も変わってくるのです。
ところで、現代というのは、経済成長、科学万能、大量消費の時代で、自然界に存在しない物質、PCB(ポリ塩化ビフェニール)や合成着色料などがどんどん生産されてきました。
それを漢方の世界から眺めると、新物質に対して人間の機能が、人間の歴史になかった異常な体験を強いられているのです。
自然界にある物質なら処理できるが、新物質が体内に入ると、全く初めて会った人をどうもてなしていいのかわからないと同じ状態、もっと簡単にいえば、東京都のゴミ処理場がPCBを焼却することも、捨てることもできないと嘆いていると同じ状況に人間の体内の機能がある、とうことです。
新物質を許容量以上に人間が摂れば、人間の機能に新たな障害が出ます。
主体性を失った人間が増え、自律神経失調症が横行するでしょう。
漢方では、よく人間を小宇宙として考えます。
たとえば地球にヘドロがたまれば、生物は死滅すると同じように、人間の身体の中にヘドロがたまれば人間も死滅します。
では人間にヘドロがたまらないようにするにはどうするか。
これが漢方でいわれる、〝自然の原理〟であるのです。
つづく
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