渡辺武著わかりやすい漢方薬
第二章漢方薬はどう診断するか
3 血の道症(血毒症-血証)
餅肌の大敵は便秘症
便秘症の人は、左肩がこってきます。
便秘は血症と同じ症状を呈するのです。
腸にヘドロがつまった状態、臭い汚物を腸いっぱいためているのだから、肝臓は大変な大忙しなのです。
肝臓は汚物が腐敗しないように、えっさえっさと解毒作用をしなければなりません。
一日二日ならいざ知らず、三日も四日も、あるいは一週間も便秘していたら、肝臓もへとへとになってしまうのです。
肝臓は解毒作用ばかりではありません。
栄養を吸収して血液を製造する器官でもあるのです。
肝腎かなめに負担をかけるわけですから、単に〝糞づまり〟なんてバカにできません。
左肩がこってくるのも、間接的には血症と関係が深いということです。
消化官はもちろん、肝臓から腎臓、心臓だって犯しかねないわけです。
便秘症は女性に案外多いものです。
とかく排泄という人間の毎日の生理作用の大小便の話は、きたない話として女性はしたがらないもの、よくいえばガマン強くて、ちびちび出している人が多いのです。
もちろん、女性が大声で大小便の話をしたら艶気も消え失せてしまいますが、かといって、臭いものは一日も早く出した方がいいにきまっています。
女性にとって、便秘は艶気を消してしまう大敵なのです。
一日便秘すれば、女性の餅肌は台無しになり、肌艶がすっかりおとろえて、荒地のようになってしまうのです。
科学的に説明しますと、皮膚や粘膜に大変に負担がかかってくるということです。
皮膚は呼吸して気体を発散していますが、水分を皮膚から気体にしてどんどん出して、汚物を濃縮しているのですから、頭痛がし、のぼせ、皮膚表面は汗腺が開きっ放しで、荒れてかさかさになってしまいます。
いくら水もしたたる美人でも、肌がかさかさではおしまいです。
便秘はちょうど、人間を乾燥機にかけているようなもの、呼吸器、皮膚、頭部から水分を蒸発させているのだから、フル労働をして、フルに頭を使っている状態と同じです。
食べれば食べるほど水分だけ抜けて出て行き、排泄の期待を裏切られるのですから、いつ出てくるかの取り越し苦労だけで、イライラ、ハラハラ、神経質になって、だんだん食欲も減退する。
減退すればいっそう出る気配はなくなるというわけです。
トイレで三十分も一時間もじっとがまんして、お出ましを待っているのは、悲惨というほかありません。
こうした便秘症の人は、動物性蛋白質の食事を好んで摂る人に多いのです。
つい先ごろ、紅茶キノコが日本全国を席巻しました。
一時はどの家庭にも紅茶キノコが置いてありました。
この紅茶キノコが大ブームを起したのも、もとをただせば「便秘に効く」という一言だったのです。
それが「雑菌を飲んでいる」と批判されると、雲霞の如くキノコもどこかに消えてしまいました。
キノコの効用は別にして、それだけ日本人に便秘症が増えていることはたしかです。
青息吐息、汗まで出して糞便を濃縮して、おまけに皮膚がかさかさになっては、いくら厚化粧しても映えません。
まずは便秘症の起る原因をつきとめて、それを改善すれば、みずみずしい肌が戻ってくるのです。
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