渡辺武著 わかりやすい漢方薬
第三章 漢方薬は何に効くか
2 悪性腫瘍・ガンの漢方治療法
P171 漢方薬は不治の病の薬ではない
漢方薬にたどりつく人は、現代医学に見放された病人が多い。
とくにガン患者の場合は不治の病とされ、本人も家族もすがれるものならワラをもつかむ思いで「漢方で何とか一ヵ月でも二ヵ月でも生かしてやってください」という状態、現代医学で引導を渡されて来る相談が多いのです。
漢方薬でも不治の病には効き目があるはずはありません。
しかし不治の病やガンなどでも、オールマイティの万能薬こそありませんが、条件次第では有効なこともあります。
二十年前、奈良の日吉館に泊り込みで正倉院薬物の調査研究に専念していたとき、杉本建吉画伯が乳ガンの婦人を連れて訪ねて来られ、
「奈良県在住の弟子の若婦人だが乳ガンで、その父親が外科医だというのに若い娘の乳ガンの手術は、手術後の醜態を思うととても手がつけられないというから、漢方薬で何とかならないものだろうか」という相談をされました。
体質や自覚症状などくわしく点検しても、冷えのぼせと芍薬の証以外にはとくに炎症や血証も認められないので、産後のことでもあり、『小建中湯』という漢方薬をお教えして、数ヵ月後には腫れも痛みも消失し、以後今日まで異常なく、三児の母親として元気に暮しておられます。
ただしこの漢方薬はどんな乳ガンにも奏効するとは保証できません。
一定の条件(証)のある人に効果が見られるものなのです。
漢方薬は身体のひずみを正常化する薬です。
正常化ということは皮膚粘膜の賦活や不調を調えることです。
だから、医師に引導を渡されてからでは遅く、むしろ病状の初期段階が一番よく効き、正常化がスムースに行くわけです。
癌研などに行くと、神経質な人がかかるガンノイローゼという人がいます。
自分がガンにかかっていると思っている人です。
こんな人に『帰脾湯』という漢方薬を飲ませると、ガンノイローゼの人は治ることがあります。
子宮の調子がおかしい人は『桂枝茯苓丸』などで子宮ガンや子宮筋腫を予防できます。
引導を渡されたガン患者の場合は少なくとも漢方薬で延命ができ、ガンに対する苦痛をとることができます。
もっと早期に漢方薬で正常化していれば、ガンで苦しむことから開放されるのです。
近年、わが国でも欧米並みにガンが急速にふえてきました。
高度成長したのは経済だけではありません。
その原因には、第一に食物汚染、環境汚染があげられます。
環境は自然破壊が進み、食物は食べ方すらまちがっています。
血剤や気剤を食べていないブヨブヨ人間、病気に無抵抗な体質が横行しています。
発散できなくて身体がヘドロのたまり場になっているため、栄養が完全でなくて皮膚の回復力がおくれています。
婦人は子宮ガンにおびえ、男性は胃ガンにつきまとわれていながら身体を正常化する時間も暇もないまま、やがて身体のバランスまでが狂ってしまうのです。
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