ガラスと鏡に囲まれた六角柱の小箱。その底が取れてしまった。
ばあちゃんはとっくに天国だし、家の者はもうこんなものダサくていらないという。
箱の底には鏡が乗っていて、固定は接着のみ。戦前の接着剤は質が悪い。
散らばる削りくずは磨いたときに出たニスのようなもの。鉄にニスを塗って金メッキに見せかけたのかも。
かがみも蒸着がわるく、パラパラとメッキが取れた。じつに薄いガラス。
同じことを今すれば完全な手抜きの騙し売りだが、教養があるひとならこの製品がいかに頑張って時代を生き抜いて来たかわかるはずだ。しかも寡黙に。
戦時中ぼくの家は金属供出に応じなかったため、見せしめに箪笥の金具まではぎとられてしまった。ばあちゃんは宝石箱を隠したようだ。
修理はきわめて困難だった。
ピカールで磨こうと思ったが、この時代のメッキにはピカールは強すぎ。プラ用のコンパンドがせいぜいのところ。優しく磨いた。ので、あまり変わり映えしない。
だけど、
手曲げしてヤスリをかけて…、物がない分手間をかけて一生懸命つくられていた。
このごろは、いちいちガラスをカットして組み合わせてここまで正確な手間をかけたりしない。そんなことしなくても強力で下品なステンでガラスを縛り付ける。
どうして物の「味」が出せようか。
古くなった接着剤を恐るおそる剥がした。(↓これは剥がす前)ガラスの接合部の正確さを見てほしい。
時代が経過する間には、どこかにぶつけたこともあったようだ。欠けや割れはこの宝石箱の価値を低めない。むしろいろんな想像をさせてくれる。
新品がどうしてもできないことだ。
花が描かれていた。
ぼくは、唯一のぼくのぜいたく品、腕時計のGSを入れることにした。GSはこの箱に負けている。