雨宮雅子さんの最後の歌集『水の花』を、国会図書館から借りました。
お借りする時に、市立図書館の方に次のように言われました。
「これはとても貴重な本なので、返すときは汚れがないか、一緒に点検します」、と。
家に持ち帰ることができないので、半分をコピーして頂き、
あとの半分を図書館で書き写しました。特に心に残る歌を引用させて頂きます。
(もし間違いがありましたら、お許しください)
うすべにの香り放ちてゐし百合がひらききりしとき猛きかたちす
夜(よ)の更けの氷庫ひらけば斎場のやうなる霊気流れ出でたり
歳月の流れのまにま不穏なる蕊のごときか離教者われは
午後の陽は卓の向かうに移りきて人の不在をかがやかせたり
曲るホームに沿ひて列車の止まれるは体感のやうにさびしかる景
春の雲はや現はれぬ自由とは自然(じねん)にこの身委ねゆくこと
月光はしづかに冒(をか)す 繊(ほそ)き金のくさり垂らしてゐるわが胸を
パイの皮の畳める層に刃を入れつ ありありとさびし冬の快晴
靴音とひび交ふ鍵の鈴鳴らしまた一人なる夜へと近づく
シリウスは冬天にありわが額(ぬか)にカインのしるし息づけるまで
うつろへる「時」の波動はこでまりの花揺らしをり 小止みなし「時」
弧を守りうた書きてきし年月をなごませて嫩葉青葉めぐり来(く)
漏告のやうな月光 還るべきさがみの沖に立つ月ならむ
六月のそこが磁場でもあるやうに水の溜りに雨は輪を描(か)く
雨のなか小走りにきて動悸してふとしもかなし煌(きら)めくこころ
鍵盤の白きは窓の緑(りょく)映し避暑地の夏が過ぎし日を呼ぶ
曼珠沙華赫き傾(なだ)りに晩節の情念のごと雨ふりそそぐ
自傷とも見ゆる手首の火傷あとふと恥づかしみ釣銭を受く
曇天に木々の緑葉なまぐさしあらあらと風ひきよせながら
黄昏(たそがれ)は人に呼ばれてゐるやうでその先の闇へまたも近づく
熱(ほめ)きたつ炎天下来て骨拾ふならず日傘の骨畳みをり
海はいま荒れゐるならむ硝子戸に胡粉(ごふん)のいろの蛾の死を貼りて
お借りする時に、市立図書館の方に次のように言われました。
「これはとても貴重な本なので、返すときは汚れがないか、一緒に点検します」、と。
家に持ち帰ることができないので、半分をコピーして頂き、
あとの半分を図書館で書き写しました。特に心に残る歌を引用させて頂きます。
(もし間違いがありましたら、お許しください)
うすべにの香り放ちてゐし百合がひらききりしとき猛きかたちす
夜(よ)の更けの氷庫ひらけば斎場のやうなる霊気流れ出でたり
歳月の流れのまにま不穏なる蕊のごときか離教者われは
午後の陽は卓の向かうに移りきて人の不在をかがやかせたり
曲るホームに沿ひて列車の止まれるは体感のやうにさびしかる景
春の雲はや現はれぬ自由とは自然(じねん)にこの身委ねゆくこと
月光はしづかに冒(をか)す 繊(ほそ)き金のくさり垂らしてゐるわが胸を
パイの皮の畳める層に刃を入れつ ありありとさびし冬の快晴
靴音とひび交ふ鍵の鈴鳴らしまた一人なる夜へと近づく
シリウスは冬天にありわが額(ぬか)にカインのしるし息づけるまで
うつろへる「時」の波動はこでまりの花揺らしをり 小止みなし「時」
弧を守りうた書きてきし年月をなごませて嫩葉青葉めぐり来(く)
漏告のやうな月光 還るべきさがみの沖に立つ月ならむ
六月のそこが磁場でもあるやうに水の溜りに雨は輪を描(か)く
雨のなか小走りにきて動悸してふとしもかなし煌(きら)めくこころ
鍵盤の白きは窓の緑(りょく)映し避暑地の夏が過ぎし日を呼ぶ
曼珠沙華赫き傾(なだ)りに晩節の情念のごと雨ふりそそぐ
自傷とも見ゆる手首の火傷あとふと恥づかしみ釣銭を受く
曇天に木々の緑葉なまぐさしあらあらと風ひきよせながら
黄昏(たそがれ)は人に呼ばれてゐるやうでその先の闇へまたも近づく
熱(ほめ)きたつ炎天下来て骨拾ふならず日傘の骨畳みをり
海はいま荒れゐるならむ硝子戸に胡粉(ごふん)のいろの蛾の死を貼りて