退屈しないように シニアの暮らし

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さて何をしようか

幸福な世界

2015-01-17 08:31:06 | 韓で遊ぶ


父の背中

結婚式を何日か後に控えたある日のことでした。
家族が皆集まった席で、私はあえて言ってはいけない言葉で、父の心に生涯癒すことのできない傷をつけたのでした。
「どうか、おじさんが私の手をとって入って行く様にしてください。」
言葉がまだ終わらないうちに兄さんに頬を打たれましたが、私はどうしようもありませんでした。そうでなくても家の中が傾いているのに、背中が曲がった父の手を取って式場に入っていくことは本当にいやでした。
「ふむ、心配するな。そうでなくても腰が痛くて、その日は式場にも行けないよ。」
嫁に行く娘の気持ちを傷つけるかと父は嘘までついたのでした。
私はその父の痛む心を知りながらも、結局結婚式場におじさんの手をとって入場するという不孝を犯しました。
しかし、私も子供です。小さな部屋に閉じこもって焼酎の杯を傾けている父を思い浮かべながら、二度とそんなことをしないと心に決めました。
父の心の中の涙のしみを消すこともできないまま歳月は流れ、私は子供ができた時、嫁ぎ先でつわりがあっても、姑にはそぶりにも出すことができず、毎日が苦しい日々でした。
そんなある日、市場から帰ってきた私は、町内の入り口で自分の目を疑わないではいられませんでした。帽子を深くかぶっていましたが、小さい背に曲がった背中、そして歩き方は間違いなく実家の父でした。
「お父さん、、、」
知らず知らず、目をしっかりと閉じて、父ではないとつぶやきながら家に帰って来ました。ところが、その日の夕方、仕事から帰ってきた夫が大きな風呂敷つづみをひとつ持って来ました。
「あの下の、店のおばさんがくれたんだけど、、、」
瞬間、後頭部を殴られたような感じが伝わって来ました。それは父の匂いがついている風呂敷つづみでした。
予感したとおり風呂敷の中には父の手紙が入っていました。
「ひとつは麴醬でもうひとつは浅漬けだ。お腹をすかせないようにおいしく食べなさい。」
嫁ぎ先の人たちの目に付くかと家に来ることができず、父は麴醬の風呂敷つづみを、店の人に渡して帰ったのでした。麴醬には父のしょっぱくて苦い涙が濃くしみていました。
コメント
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