「ニッキイ、メイちゃあん。どこにいるの
よお。あんたたちこんな寒空にわたしを放っ
ておく気なの。ひどいったらありゃしないわ。
とってもいいこと、教えてあげようと思って
たのにい......」
両手で耳をおさえたくなるほどのケイの叫
びが、ふたりが汚れるのを覚悟で通りぬけて
きた穴の向こうから聞こえてくる。
洞窟の内部はとても寒かった。
底冷えがするような空気がメイの足もとか
らはいあがってきて、彼女を震え上がらせは
じめた。
ケイの様子が気になって、メイがのぞいて
みると、荒涼とした森の地肌に積もった雪が
ちらりと見えた。
「メイ、ちょっとそこをどいてくれる」
ふりかえると、重そうな石を両手でもった
ニッキがメイのすぐ後ろにたたずんでいる。
「それって何なの。あなた、いったい何を
する気なの」
メイが尋ねている間にも、ニッキは黙った
まま、足を踏みしめ、洞窟に通じている穴に
近づいて行く。
メイは、ニッキがやろうとしていることを、
おおよそ察することができた。
「メイには気の毒だが、今はこうするしか
ないんだ。敵か味方か、ケイの正体がはっき
りしない以上……」
「やめて。そんなことしたら、ケイが、わ
たしの友が入ってこれなくなるじゃないの」
メイがニッキの腰に両手をまわし、なんと
かして、彼がその石を、穴に押し入れるのを
妨げようとした。
だが、女が男の力にかなうはずもない。
ドサッと音がして、穴はほとんどふさがれ
てしまった。
メイはその場に泣きくずれた。
そして両手を合わせた。
祈りが大いなる力に届くよう、懸命に何か
を口ごもった。
自分でさえ、いったい何を言っているのか
わからないほどだった。
彼女の声は次第に大きくなり、洞窟の中で
わんわんと響いた。
「今、彼女に洞窟内部の実情を詳しく知ら
れたら、と思うと」
ニッキは言いよどんだ。
メイはそれに対してこたえず、ただ一心不
乱に祈るだけだった。
ふとメイの祈りがやんだ。
「だって、ケイは帰って来てくれたんじゃ
ないの。わたしたちのもとに。なのに、そう
やって……。どうして彼女の気持ちを無にす
るようなことをするの?」
メイのこころの中で、何かがポッと燃えあ
がった。
それはまるで油に火が付いたようで、すぐ
に火の勢いが強くなった。
メイのからだが徐々に熱くなる。
それは、まるで時速数百キロで走行するス
ーパーカーのエンジンが、フル回転するのに
似ていた。
メイのまわりの空気がしだいにあたたまり、
ついには洞窟全体の気温が、とてもいごこち
の良いものになった。
「メイ、いったい、きみは……」
ニッキは驚きを隠さない。
メイは決然と立ち上がった。
「わたし、ケイを連れて来るから」
「ええっ?とんでもない。そんなことでき
るわけがないじゃないか」
「まあ、見てらっしゃい」
洞窟に通じる穴のそばに寄るなり、メイは
ニッキが押し込んだ石に両手をのばした。
それは彼女によってかるがると運ばれ、ま
たたく間にもとの位置にもどされた。
穴がぽっかりとあき、外の様子が手に取る
ようにわかる。
雪がまた降り出し、あたりはまるで白いす
だれがかかったような状態だ。
「それじゃわたし、行ってくる」
メイはまるで巨大なモグラのよう。
両手両足を使い、がんとして崩れなかった
洞窟の壁を粉砕し、ひとひとり、楽に通り抜
けられるほどの空間を作りあげた。
ニッキはあっと言ったきり、押し黙ってし
まった。
メイは、その荒涼とした原野を、ものとも
せずに進んで行く。
「ケイ、ケイ。どこにいるの」
と叫びながら……。
どれくらい時間が経っただろう。
ニッキは洞窟の中でメイの帰りを待った。
彼女の父、ボリトンがニッキに言ったこと
を思い出していた。
「メイは、とんでもない力を発揮する可能
性があるからな、気をつけて」
その力はニッキが想像していた以上だった。
よお。あんたたちこんな寒空にわたしを放っ
ておく気なの。ひどいったらありゃしないわ。
とってもいいこと、教えてあげようと思って
たのにい......」
両手で耳をおさえたくなるほどのケイの叫
びが、ふたりが汚れるのを覚悟で通りぬけて
きた穴の向こうから聞こえてくる。
洞窟の内部はとても寒かった。
底冷えがするような空気がメイの足もとか
らはいあがってきて、彼女を震え上がらせは
じめた。
ケイの様子が気になって、メイがのぞいて
みると、荒涼とした森の地肌に積もった雪が
ちらりと見えた。
「メイ、ちょっとそこをどいてくれる」
ふりかえると、重そうな石を両手でもった
ニッキがメイのすぐ後ろにたたずんでいる。
「それって何なの。あなた、いったい何を
する気なの」
メイが尋ねている間にも、ニッキは黙った
まま、足を踏みしめ、洞窟に通じている穴に
近づいて行く。
メイは、ニッキがやろうとしていることを、
おおよそ察することができた。
「メイには気の毒だが、今はこうするしか
ないんだ。敵か味方か、ケイの正体がはっき
りしない以上……」
「やめて。そんなことしたら、ケイが、わ
たしの友が入ってこれなくなるじゃないの」
メイがニッキの腰に両手をまわし、なんと
かして、彼がその石を、穴に押し入れるのを
妨げようとした。
だが、女が男の力にかなうはずもない。
ドサッと音がして、穴はほとんどふさがれ
てしまった。
メイはその場に泣きくずれた。
そして両手を合わせた。
祈りが大いなる力に届くよう、懸命に何か
を口ごもった。
自分でさえ、いったい何を言っているのか
わからないほどだった。
彼女の声は次第に大きくなり、洞窟の中で
わんわんと響いた。
「今、彼女に洞窟内部の実情を詳しく知ら
れたら、と思うと」
ニッキは言いよどんだ。
メイはそれに対してこたえず、ただ一心不
乱に祈るだけだった。
ふとメイの祈りがやんだ。
「だって、ケイは帰って来てくれたんじゃ
ないの。わたしたちのもとに。なのに、そう
やって……。どうして彼女の気持ちを無にす
るようなことをするの?」
メイのこころの中で、何かがポッと燃えあ
がった。
それはまるで油に火が付いたようで、すぐ
に火の勢いが強くなった。
メイのからだが徐々に熱くなる。
それは、まるで時速数百キロで走行するス
ーパーカーのエンジンが、フル回転するのに
似ていた。
メイのまわりの空気がしだいにあたたまり、
ついには洞窟全体の気温が、とてもいごこち
の良いものになった。
「メイ、いったい、きみは……」
ニッキは驚きを隠さない。
メイは決然と立ち上がった。
「わたし、ケイを連れて来るから」
「ええっ?とんでもない。そんなことでき
るわけがないじゃないか」
「まあ、見てらっしゃい」
洞窟に通じる穴のそばに寄るなり、メイは
ニッキが押し込んだ石に両手をのばした。
それは彼女によってかるがると運ばれ、ま
たたく間にもとの位置にもどされた。
穴がぽっかりとあき、外の様子が手に取る
ようにわかる。
雪がまた降り出し、あたりはまるで白いす
だれがかかったような状態だ。
「それじゃわたし、行ってくる」
メイはまるで巨大なモグラのよう。
両手両足を使い、がんとして崩れなかった
洞窟の壁を粉砕し、ひとひとり、楽に通り抜
けられるほどの空間を作りあげた。
ニッキはあっと言ったきり、押し黙ってし
まった。
メイは、その荒涼とした原野を、ものとも
せずに進んで行く。
「ケイ、ケイ。どこにいるの」
と叫びながら……。
どれくらい時間が経っただろう。
ニッキは洞窟の中でメイの帰りを待った。
彼女の父、ボリトンがニッキに言ったこと
を思い出していた。
「メイは、とんでもない力を発揮する可能
性があるからな、気をつけて」
その力はニッキが想像していた以上だった。