鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

123 耐寒の蕾

2020-01-09 13:56:00 | 日記
---古壺開口待咲蕾---

(寛文美人画 江戸初期 絵唐津徳利と蒟醤香合 江戸時代)
古美術商の昔からのセールストークに「玉椿が見えて来るようだ。」と言うのがある。
一見地味な古器を客に薦める時の決め台詞で、徳利などに寒椿の蕾を挿した情景を想像してみろと言う意味だ。
こう言う幻視は我が得意技の上に可愛らしい椿の蕾は殊に好きな花材なので、古びて汚れた徳利が一気に輝いて見えてつい買ってしまう。

徳利の形は椿の一花三葉にぴったり合って、誰にでもバランスが取り易い。
耐寒の象徴として開花を待つ蕾を宝玉に見立てて活けるのだが、その玉椿に最も合うのが古い地味な色の陶器の徳利だ。
江戸時代の備前唐津美濃あたりの徳利との取り合せは日本の美意識の頂点と言っても良い。
古今の人々の待春の想いを、最も簡潔な姿で象徴していると思う。

(絵唐津徳利 江戸時代)
最近ではワインの影響か酒を漏斗で徳利に入れるのを面倒がって、瓶から直接酒盃に注ぐ人が多くなった。
そこであまり売れなくなった徳利を花入に使ってもらおうと、徳利ではなく一輪挿しと呼ぶ店も増えている。

もう一枚、下の写真は唐物の徳利に山茶花の蕾と咲きかけの一枝。

(磁州窯徳利 宋時代)
寒中に貴重な真紅の花は、炭の火種のように見えて格別の色味だ。
己が胸中にもこんな美しい火種を絶やさずにいたい。

今日の鎌倉は春のように暖かくて、庭の寒椿が一斉に咲いた。
我が荒庭には寒椿春椿合わせて10種ほどあって1〜4月まで咲き継ぎ、その蜜を吸いに小鳥達も集まってくる。

庭仕事の合間に椿の下でガーデンティーにしよう。
山茶花もまだ咲いていて彩りも賑やかだ。
冬の光は低く斜めに差込み、庭の一隅を穏やかに照らす。
例によって花精の分のカップも用意して、まだ遠い春を共に待つのだ。

©️甲士三郎