鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

330 胡弓と詩

2024-01-04 13:00:00 | 日記

今週の鎌倉はやや暖かく、谷戸の路地にはもう水仙が咲いている。

我が荒庭でも椿の玉蕾がだいぶ膨らんで来た。


我家の正月は旧暦なのでまだ先だが、来客用に玄関だけは正月の飾りにしてある。



(春富士 リトグラフ 奥村土牛 古九谷徳利 幕末頃)

先師奥村土牛の富士の絵に橙と庭の寒椿を添えた。

土牛師の格調高い色彩は、この絵を飾るだけで家中の品性を上げてくれる。

ただこの富士には薄紅の椿しか合わなかった。

白は富士の雪と喧嘩してしまうし、紅は強すぎて画中の色彩の調和を乱す。

彩色画と生花を取り合わせるのは案外難しい物だ。


年末の中国の音楽番組で民族楽器の名人達の演奏を聴いて、私も昔弾いていた胡弓を引っ張り出してみた。



(直筆句軸 高浜虚子)

後ろの句軸は虚子の「手毬唄悲しきことを美しく」

胡弓や馬頭琴はヴァイオリンとセロの間の音域で、ゆったり落ち着いたメロディーに適した音色だ。

弦が指板から浮いた状態でビブラートをかけるので、ヴァイオリンやギターより音程を維持するのが難しい。

久々で全く下手になっている胡弓は早々に諦め、最近またやり出した漢詩を作ろう。

 幽曲

紅燭胡弓震

寒庵獨欲謡

残心花影寂

荒院暗香漂


紅燭に胡弓は震へ

寒庵に歌声低し

残心の花は影りて

荒庭に暗香漂ふ


漢詩で私が好きなのは江戸後期の京都の文人達の詩だ。



(漢詩集 頼山陽 田能村竹田 篠崎小竹 江戸時代)

後ろの掛軸は頼山陽の詩論(木版 江戸時代)だ。

彼らの漢詩は中国の表現ほど大袈裟では無いので日本人には親しみ易く、また和詩には珍しく韻律平仄もしっかりしている。

江戸時代までは詩と言えば漢詩の事を指し、明治時代に出て来た新体詩が日本語による初めての詩だった。

近年の日本では韻律が難しくて廃れていた漢詩が、ネットのAIの登場で楽に作れるようになったのは嬉しい。


鎌倉の正月の人出は昔ほどでは無い物の、疫病前の賑わいに戻った。

隠者もたまには活気ある街の詩でも作ろうと思い、今この押韻平仄をアシストしてくれるAIと七言律詩の対句作成に挑戦している。

乞うご期待。


©️甲士三郎



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