今週は再びニューイングランド地方のボストンに滞在していました。当地の人々は今年の冬は例年に比べて雪も少なく気温もそれ程寒くはない有り難い冬だと口々に言っていました。また、先週の日曜日のスーパーボールで地元のパトリオットチームが劇的な逆転で優勝を飾った事もあり、ボストンの街の人々は明るいスポットライトで照らされた照明の中にいるんじゃないかと感じたのは、太陽が沈んで辺りが闇に包まれた中で照明に照らされたバーの中の活気からであった。極寒のニューイングランド地方の冬はこのまま穏やかに過ぎ去るのであるかと思われた...。
ボストン滞在中に我らの横を通り過ぎたコネチカットナンバーのランドクルーザーFJ62。
嵐の前の静けさを感じる夜。
滞在最後の夜。明日は朝から雪だとウェザーチャンネルは伝えている。明日ニューヨークに向けて出発だっていう時に雪嵐(スノーストーム)が来ているから明日は外出を控えろ、車は運転するな、学校は全て休みになるぞ、...なんというタイミングなのだろうか、ニューヨークへの移動日に今年最大のスノーストームだとは。
テレビのニュースでは雪の日の車の緊急対策が紹介されていた。窓に付いた雪や氷を落とすには財布の中にあるクレジットカードを使うといいとか、雪が降る前にサイドミラーにプラスチックのサンドイッチバックをかぶせる。とかである。
出発の日の朝8時、既に吹雪は始まっていた。ボストンからニューヨークまでは約200マイル(320キロ)、本来ならば車で4時間程の距離なのだが、今日は平均速度30マイルでフリーウェイを走行。吹雪の為に視界30メートル、気温は氷点下。交通量はかなり少ない。フリーウェイでは途中に多くの車が立ち往生している。5分置きにハザードを点滅させながら助けを待っている車両を目撃する。
巨大な18輪トレーラーといえど滑る。このトレーラーはスリップし進行方向に対して車体を180度転換してガードレールに張り付いている。その他にもジャックナイフというトレーラー事故を目撃した。スタックしている多くの車はFFの小型。中型車やミニバンが多かった。我々の目の前で一台のシルバーのトヨタ4ランナーが白煙の粉雪を舞い散らしながら路肩から脱出してきた。こんな厳しい吹雪の環境の中では普段は燃費が悪いと低評価な四駆がその機能で窮地から自力で這い出す事が出来るのだと改めて思った。
雪道のフリーウェイをストレスレスに走る為には、
先方の車両のテールランプの明かりが見える範囲で十分な距離を保ってくっ付いて走るのが良い。
視界が悪い吹雪の時は先方の車両の存在を失うと大変危険である。
轍は雪で白く消され先方が見えなくなると自分が何処を運転しているのかが分らなくなってしまう。
その結果、左右の路肩に深く入り込んでしまい車はコントロールを失いスタックしてしまう。
そうやって多くの車両がスタックするのだ。
...実は、
我々のフレイトライナーも脱線、脱路したのだ。
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運転していたドライバーが先方の車両を追走せず、独走状態。
視界が極端に悪く、轍は新雪でおおわれ、
自分が今何処を運転しているか分らなくなってしまった。
窓を開けろ!
(窓を開けると路肩の感覚がつかめ、車内にいるよりも20%程位置感覚がよくなる。)
SLOW DOWN!
焦っているドライバーを見て、
とまれーっ!
ハザードを点灯させなら停車し落ち着いて周りを観ると、車道から20メートル程外れた路肩の土の上。この先には窪みがありそのまま進行していたら最悪の場合横転していただろう。危機一髪。さて、問題は8インチ程の新雪の上で車両がスタックしてしまいタイヤは空回り、前にも後ろにも動かない。3トンを超えるフレイトライナーは孤独な吹雪のフレーウェイの路肩で立ち往生となったのである。
さーて、ここからいかに脱出(リカバリー)するのかである。
スコップは無い、解雪の塩も無い。では何があるのか? 持ち合わせたある物を使ってのリカバリーとなった。車内には数枚のダンボールと2枚のブランケット(毛布)があった。英国では毛糸のチェーン等がある事を知っていたので毛布は駆動輪のトラクションを助けるはずだと思った。
視界の利かない吹雪の中に飛び出して、ダンボールで車輪の周りの雪をかき車輪と地面の間に毛布を噛ませる。両タイヤ共にトラクションが掛からなければスリップし全く進む事はない。何度かのトライアンドエラーにより最初に1メートル程車体をバックさせる事が出来た。
IT'S WORKS!
(おっ、いけるぞ!)
毛布は雪道での必需品!
だったのだ。
寒さに耐えながらも要領を掴む事が出来た。同じ事をダンボールでもやってみたが滑ってだめだった。一時間程格闘した結果本線まであと1メートルの所までリカバリーが進んだ。そして、そこに突如として現れたのがステートトルーパーのSUVに乗ったポリスオフィサーだった。オフィサーは我々が苦闘しているのを見て手にグローブをして押すのを手伝う様子で降りて来た。その時にドライバーがアクセルを強く踏んだ。後輪は横滑りをしながらも車体を前に押し出し車両は本車線に戻った。
GO-! GO-! GOー!
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ここで止まったらまたスタック、走る車を追いかけてドアを開けて中に飛び込んだ。
脱出成功!
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車内の暖房を上げて冷え切った手を温めた。今日のこの経験は何だったのであろうか?大変ではあったが良い経験になった事は間違い無い。体に付いて凍結した雪が車内の熱で溶け出した。靴もジャケットもびしょびしょだ。ジャケットの中は汗で濡れている。車内ではまた音楽と会話が続いた。外ではまだ吹雪が続いている。