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中国の古典編―漢詩を読んでみよう(17)漢代(8)古詩十九首(2)-楽しい読書321号

2022-07-01 | 本・読書
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2022(令和4)年6月30日号(No.321)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(17)漢代(8)古詩十九首から(2)」
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 しばらくあきましたが、久しぶりに漢詩を読んでみましょう。

 「中国の古典編―漢詩を読んでみよう」の17回目です。

 後漢末期、五言詩が中国の詩の中心となるきっかけとなった
 作品群の一部が、後世「古詩十九詩」としてまとめられました。
 今回も引き続き、そのなかから<妻の悲しみ>についての詩を――。

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◆ 知識人の悲しみ ◆
 中国の古典編―漢詩を読んでみよう(16)漢代(6)
  後漢末期・古詩十九首 から(2)妻の悲しみ
  ~ 其の二/其の十九/古詩 ~
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今回の参考文献――

『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』
 江原正士、宇野直人/著 平凡社 2010/4/20
「五、知識人の挫折――古詩十九首」より

 ●古詩十九首 其の二

漢詩の伝統の中には、妻の悲しみをテーマにする系譜があるそうで、
その出発点となったのが、この「古詩十九首」あたりで、
今回はそういう詩を紹介しましょう。

 ・・・

 其二  其の二  無名氏

青青河畔艸  青青(せいせい)たる河畔(かはん)の草(くさ)
鬱鬱園中柳  鬱鬱(うつうつ)たる園中(えんちゅう)の柳(やなぎ)

盈盈楼上女  盈盈(えいえい)楼上(ろうじょう)の女(じょ)
皎皎当窓牅  皎皎(きょうきょう)として窓牅(そうゆう)に当(あた)る

 青々(あおあお)と萌(も)え出(い)でる河辺(かわべ)の若草
 鬱蒼(うっそう)と茂っている庭の柳

 満ちあふれるような美しさを発散させている高楼(たかどの)の上の女性
 輝くように色白のその姿が、窓辺に寄り添っている


娥娥紅紛粧  娥娥(がが)たる紅紛(こうふん)の粧(よそほひ) 
繊繊出素手  繊繊(せんせん)として素手(そしゆ)を出(いだ)す

昔為倡家女  昔(むかし)は倡家(しようか)の女(じょ)に当(あた)る
今為蕩子婦  今(いま)は蕩子(とうし)の婦(つま)為(た)り

 なおやかに美しいその姿を
  紅おしろいのお化粧がさらに引き立てている
 彼女はほっそりとした白い手を見せている

 彼女は以前、演芸場に勤める娘であった
 今では旅ばかりしている夫の妻になっている


蕩子行不帰  蕩子(とうし) 行(ゆ)きて帰(かえ)らず
空床難独守  空床(くうしよう) 独(ひと)り守(まも)ること難(かた)し

 夫は家を出たままずっと帰って来ない
 さだめし彼女は、夫のいない寝床で独り過ごすことがつらいんだろう

 ・・・

行商人なのか、旅に出ている夫の妻となった歎きを詠う詩ですが、
その裏に暗号が隠されているといいます。

 《旅する夫と別れている若妻に託して、当時の知識人の、
  仲間と会えない、
  朝廷の天子さまに会えない歎きが表現されています。》p.179

第二句の「鬱」という字、これが植物を形容することは、めずらしく、
『詩経』の歌に
(秦風―晨風)――
 「鴥(いつ)たる彼の晨風/鬱たる彼の北林/未だ君子を見ず/
  憂いの心 欽欽たり」
 「さっと激しく吹く朝風、うっそうと茂る北の森。
  そちらの森の方角にいる賢者に会えない、私の心は悩んでばかり」
とあり、

 《“鬱蒼と茂る樹木”というのは、立派な人、
  慕わしい人に会えないことを言う枕詞のようになっている》p.179

そこがこの詩とダブる、といいます。

『詩経』の知識がないと分からないのですが、そこで、
『詩経』が広く定着した後漢以後に作られた詩だと推測できるわけです。

こういうダブルミーニングな部分が、「古詩十九首」の特徴です。

主人公が女性で、
その裏に作者である知識人層の悲しみが込められている、といいます。


 ●「閨怨詩(けいえんし)」

漢詩の大きなジャンルの一つ「閨怨詩(けいえんし)」――
「閨」は、“女性が部屋で歎くことを歌う歌”の意味。

 《表面的には男性の愛が得られない女性の歎きを歌いながら、
  その裏に、才能があるのに君主に用いられない作者の歎きを
  重ねるわけです。》p.180

女性の姿を美しく表現することで、
作者の才能が優れていることを示すので、
そういう詩が清朝末期まで脈々と作られたのだそうです。

これは、中国の多くの詩人たちが
役人だったことに関係するのではないでしょうか。
これは女心なんだと言い逃れしやすかったから。


 ●古詩十九首 其の十九

次に、「閨怨」のテーマとして有名な歌を紹介しましょう。

 ・・・

 其十九  其の十九  無名氏

明月何皎皎  明月(めいげつ) 何(なん)ぞ皎皎(きょうきょう)たる
照我羅牀幃  我(わ)が羅(うすぎぬ)の牀幃(しようい)を照(てら)す
憂愁不能寐  憂愁(ゆうしゅう)して寐(い)ぬる能(あた)はず
攬衣起徘徊  衣(ころも)を攬(と)りて 起(た)ちて徘徊(はいかい)す
客行雖雲楽  客行(かくこう) 楽(たの)しと云(い)ふと雖(いへど)も
不如早旋帰  早(はや)く旋帰(せんき)するに如(し)かじ
出戸獨彷徨  戸(こ)を出(い)でて独(ひと)り彷徨(ほうこう)し
愁思当告誰  愁思(しゅうし) 当(まさ)に誰(たれ)にか告(つ)ぐべき
引領還入房  領(うなじ)を引(ひ)いて
        還(かえ)りて房(へや)に入(い)れば
涙下沾裳衣  涙(なんだ)下(くだ)つて裳衣(しょうい)を沾(うるは)す

 ・・・

遠く旅に出た夫を待つ妻のようすを歌うものです。

 《彼女は月の明るい晩、眠れぬまま外へ出てゆきます。
  しかしなすすべもなくまた部屋に戻り、涙にくれてしまう……。
  この詩の“夜中の不眠→不安のため歩き回る”という設定は
  ひろく支持されまして、後漢から三国時代にかけて、
  同じような詩がたくさんが作られています。》p.181


 ●古詩

次に、「古詩十九首」に収められていない当時の古詩を紹介します。

 ・・・

 古詩  古詩  無名氏

上山採蘼蕪  山(やま)に上(のぼ)つて蘼蕪(びぶ)を採(と)り
下山逢故夫  山(やま)より下(くだ)つて故夫(こふ)を逢(あ)う
長跪問故夫  長跪(ちようき)して故夫(こふ)に問(と)ふ
新人復何如  新人(しんじん) 復(ま)た如何(いかん)と

 山に登って蘼蕪(おんなかずら)という草をつみとり、
 山から降りたところで元の夫に出会った
 丁寧にお辞儀をして尋ねた
 “今度の奥さんはいかがですか”

新人雖言好  新人(しんじん) 好(よ)しと言(い)ふと雖(いへど)も
未若故人姝  未(いま)だ故人(こじん)の姝(しゆ)なるに若(し)かず
顏色類相似  顔色(がんしよく)は類(おほむ)ね相(あひ)似(に)たるも
手爪不相如  手爪(しゆそう)は相(あひ)如(し)かずと

 新しい妻はいい人ではあるが
 君の美貌には敵わない
 容貌が要望がだいたい同じだとしても
 手芸の腕前は君に敵わないよ

新人従門入  新人(しんじん) 門(もん)より入(い)り
故人従閣去  故人(こじん) 閣(かく)より去(さ)る
新人工織縑  新人(しんじん)は縑(けん)を織(お)るに工(たくみ)にして
故人工織素  故人(こじん)は素(す)を織(お)るに工(たくみ)なり

 新しい妻が表門から入った時
 元の妻は台所から去って行った
 新しい妻は手の込んだ[かとり](傍点)絹を織るのが上手で
 元の妻は[しろ](傍点)絹を織るのが上手だった

織縑日一匹  縑(けん)を織(お)ること日(ひ)に一匹(いつぴき)
織素五丈余  素(そ)を織(お)ること五丈(ごじよう)余(よ)  
将縑來比素  縑(けん)を将(もつ)て
        来(きた)つて素(そ)に比(ひ)すれば
新人不如故  新人(しんじん)は故(こ)に如(し)かず

 新しい妻がかとり絹を織るのは一日に四丈で
 元の妻がしろ絹をおるのは一日に五丈を超えていた
 かとり絹をしろ絹に比べて見ると
 新しい妻は元の妻には敵わない

 ・・・

久しぶりに出会った元の妻と夫、
妻は今も夫を思い、夫も元の妻の方がみばもよければ、
織物の仕事の腕も優れていると、未練も残っている様子。

解説の宇野さんは、
当時の手工業者の集りの余興に歌われたものではないか、
と想像されています。

 《内容面では、今なお愛情を抱いている二人が、
  何かやむを得ない事情のために離別している感じがあって、
  後漢後半の非常に過酷な世の中で懸命に生きる民衆の姿が見えます》
   p.184
と。

『詩経』の草つみのたとえ――妻が離れている夫や恋人の健康や
再会を祈ることを表す――を受け継いでいるように、
《たいへん素朴で暗号もなく》、
《後漢に流行していたオリジナルに近い》もので、
当時歌われていたそのままの姿で伝わったのではないかといいます。

「古詩十九首」は、すべて暗号が入り、起承転結もきちんとして、
完成度が高い。

それは、『文選』によって表面に出るまで300年間、
《宦官の勢力を恐れながら密かに歌い継がれるうちに
 いろんな人の知恵が入ってアレンジされ、完成度が高くなった》p.184
と考えられると言います。

 ・・・

歌というものは、その時々の人々の様々な思いが込められ、
歌い継がれてきた、といいますが、
まさにそういう人々の思い、ときに男女の思いが歌われているのは、
いつの世も変わらぬもののようです。

個人の思いよりも、世の中の、社会の圧力といったもののなかで、
生きてゆかねばならなかったということでしょう。

戦後の日本では、かなり個人の思いが叶う可能性が高くなっています。
そういう時代に生きている喜びというものを
もう一度大事にしたいものです。

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 ★創刊300号への道のり は、お休みします。

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