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古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】
2023(令和5)年8月31日号(No.349)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(3)集英社文庫・
東野圭吾『白夜行』青春の思い出も背景に散りばめられた一冊」
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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2023(令和5)年8月31日号(No.349)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(3)集英社文庫・
東野圭吾『白夜行』青春の思い出も背景に散りばめられた一冊」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
一回遅れてしまいましたが、
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から」の三回目
「集英社文庫 ナツイチ2023 この夏、一冊分おおきくなろう。」
からの一冊を紹介します。
先号でも書きましたように、
大阪も連日35度を超え、時に37度、38度といった猛暑の日々、
予定していた、東野圭吾『白夜行』が読み切れず――
文庫本860ページ、十年ほど前に一度読んでいるので大丈夫、
と軽く見ていたのですが、メモ取りしながら読むと……。
時間切れとなり、予定を変更することになってしまいました。
新潮文庫の100冊 2023
https://100satsu.com/
角川文庫 カドブン夏推し2023
https://kadobun.jp/special/natsu-fair/
集英社文庫 ナツイチ2023 この夏、一冊分おおきくなろう。
http://bunko.shueisha.co.jp/natsuichi/
よまにゃチャンネル - ナツイチ2023 | 集英社文庫
http://bunko.shueisha.co.jp/natsuichi/yomanyachannel/
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◆ 2023年テーマ:青春の思い出も背景に散りばめられた一冊 ◆
新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(3)
集英社文庫・東野圭吾『白夜行』-昼と夜または光と闇、明と暗-
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
●集英社文庫 ナツイチ2023 この夏、一冊分おおきくなろう。
どんな作品が選ばれているのかといいますと――
★映像化する本よまにゃ(3) [既読作品]0
★ワクワクな本よまにゃ(18)0
★ハラハラな本よまにゃ(19)人間失格 白夜行
★ドキドキな本よまにゃ(15)0
★フムフムな本よまにゃ(26)23分間の奇跡 舞姫 星の王子さま
夢十夜・草枕
全81冊中、既読作品は、6冊だけ。
海外作品や古典的名作が選ばれていない
ということも理由ではありますが、ただただ、私自身、
最近の日本の作家の作品をほとんど読んでいない、ということですね。
新たな作家さんと出会ういい機会なはずなのですが、
今年は、子供の頃や思い出をテーマに選んだ感じですので、
少ない既読作品の中から、最も最近の作品である、
東野圭吾さんの『白夜行』を取り上げます。
・東野圭吾『白夜行』集英社文庫 2002/5/25
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●東野圭吾『白夜行』
前回の角川文庫は、「わが青春の思い出の一冊」として、
筒井康隆『時をかける少女』を紹介しました。
今回は、わが青春の日々の思い出を背景に散りばめた、
といいますか、
私の青春時代の1970年代辺りから90年代辺りまでの
約20年を背景にしたクライム・ストーリーです。
巻末解説の馳星周さんによれば、ノワールとのこと。
ノワールというのは、私の思うところでは、
暗黒界、闇の世界の住人たちによるクライム・ストーリー
というところでしょうか。
11歳の小学生時代から30歳まで19年にわたり
太陽の光の下を歩いたことのないという、少年と少女の日々の物語。
19年の歴史を綴るわけですから、
やっぱり文庫本で860ページは必然だったのでしょうね。
読み応え十分で、あっという間に読み終えられる名作です。
(こういうと、ちょっと矛盾を感じるかもしれませんね。
でも、年のせいなのか、集中力がないのですね。)
●始まりは19年前、主人公たちは小学5年生
冒頭、いきなり「近鉄布施駅」が登場します。
私の家の最寄り駅でもあります。
小説では、駅を出ると西に行くのですが、私の家は東です。
西へ行きますと、わが故郷・東大阪市ではなく、大阪市になります。
東野圭吾さんは大阪市出身ですので、いってみれば、
故郷を描くということになるのでしょうか。
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「第一章」
「事件」の舞台も、わが故郷に近い場所で、
描かれる時代も、わが青春の日々の1970年代のようです。
《三月に熊本水俣病の判決がいい渡され、新潟水俣病、四日市大気汚染、
イタイイタイ病と合わせた四大公害裁判が結審した》とありますので、
これは昭和48年(1973)のこととわかります。
公園近くの、今では子供の秘密の遊び場となっている、
工事途中で廃ビルになった建物で、近所の質屋の主人・桐原洋介が
細身の刃物で刺し殺される事件が起きます。
これが発端。
担当刑事の笹垣らが、捜査に当たります。
質屋の主人には妻・弥生子と一人の小学5年生の息子・亮司がいて、
店には店長の松浦がいた。
桐原は当日、銀行で100万円をおろしたのち、手土産にプリンを買って、
店の常連客の一人、小学5年生ながら美人の雪穂という娘を持つ、
シングルマザー・西本文代の元を訪れていた……。
結局、事件は迷宮入りとなり、
容疑者とも目された西本文代はガス中毒事故で死亡。
発見者は娘の雪穂と部屋の鍵を開けた不動産屋。
「第二章」
雪穂は、母の死後、
父方のお花やお茶の先生をしている親戚の上品な婦人の養女となり、
今や私立女子校の中学三年生となっていた。
他校の男子生徒から盗撮されるほどの美人の人気者であった。
テニス部の美少女が襲われ、偶然発見したのは、雪穂と友人の江利子。
一方、桐原の息子・亮司は地元の荒れた公立大江中学校の生徒であった。
ここの生徒が雪穂の盗撮をしていたのだった。
●ストーリーの時代背景
こういう風にストーリーを追っていると、
いくらスペースがあっても追いつきませんので、
物語の背景などについて書いてみましょう。
冒頭の四大公害裁判の結審に現れているような、
その時代を示す社会的出来事の記述が各所で登場します。
何しろ19年の流れを持つ小説ですので、
その時代時代の背景がストーリーにも適宜織り込まれることで、
臨場感といいますか、時代感覚が明らかになります。
また、主人公たちの成長が、特に亮司の生業が
ちょうどパソコンやゲームの普及や発展の歴史と相まっていて、
インベーダーゲームや、ワープロ、PCなどの固有名詞が
時代背景を現実的にみせています。
私のようにそれなりに、
この時代を青春時代のひとときとして過ごしてきたものには、
とても郷愁の湧くものがあります。
松田聖子の聖子ちゃんカットなんていうのも出てきましたね。
●昼・光・明の雪穂と夜・闇・暗の亮司
雪穂は、お花やお茶の先生をしているという、
上品なご婦人の養女となり、家庭教師を付けてもらったり、
私立のお嬢さま学校に進学、中学高校大学と進んでゆきます。
そして、大学のソシアルダンス部に入部、
合同練習相手の永明大学の大企業の御曹司のエリート男性と知り合う。
結婚後も貪欲に自分の夢の実現に向けて努力を続け、
自分の資産で遂にアパレルの店を持ち、離婚後も事業を拡大、
経営者として成功を収める。
というように、
雪穂は光、昼日中花咲く明るい世界を歩んでいるように見えます。
一方、亮司は、荒れた地元の公立の中学に進学し、
危ない世界にも足を踏み込んでゆきます。
1985年(事件から12年後)の年末12月31日、
当時一緒にやっていたパソコンやゲームの店『MUGEN』の閉店後、
同僚の従業員の友彦や弘恵が来年の抱負を話すとき、
《亮司の答えは、「昼間に歩きたい」というものだった。/
小学生みたい、といって弘恵は桐原の回答を笑った。
「桐原さん、そんなに不規則な生活をしてるの?」/
「俺の人生は、白夜の中を歩いてるようなもんやからな」》p.436
ともらすように、亮司は日の当たらぬ闇、暗い世界の住人のようです。
「俺の人生は、白夜の中を歩いてるようなもんやからな」――
まさにこれがタイトルになっているのですね。
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●雪穂の場合
しかし、そんな雪穂も、物語の終わりの方で、こう言います。
《「(略)人生にも昼と夜がある。(略)人によっては、
太陽がいっぱいの中を生き続けられる人がいる。
ずっと真っ暗な深夜を生きていかなきゃならない人もいる。
で、人は何を怖がるかというと、それまで出ていた太陽が
沈んでしまうこと。自分が浴びている光が消えることを、
すごく恐れてしまうわけ。(略)」》
《「あたしはね」と雪穂は続けた。
「太陽の下を生きたことなんかないの」/
「まさか」(略)「社長こそ、太陽がいっぱいじゃないですか」/
だが雪穂は首を振った。
その目には真摯な思いが込められていたので、夏美も笑いを消した。
「あたしの上には太陽なんかなかった。いつも夜。
でも暗くはなかった。太陽に代わるものがあったから。
太陽ほど明るくはないけれど、あたしには十分だった。
あたしはその光によって、夜を昼と思って生きてくることが
できたの。わかるわね。あたしには最初から太陽なんかなかった。
だから失う恐怖もないの」/
「その太陽に代わるものって何ですか」/
「さあ、何かしらね。夏美ちゃんも、
いつかわかる時が来るかもしれない」》p.826
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「太陽の下を生きたことなんかないの」
「あたしの上には太陽なんかなかった。いつも夜。」といい、
それでも「暗くはなかった。太陽に代わるものがあったから」と。
太陽に代わるものが何かはわかりませんが、
「その光によって、夜を昼と思って生きてくることができたの」
といいます。
さらに、
「あたしには最初から太陽なんかなかった。だから失う恐怖もないの」
という。
こういう振り切った生き方をすることになる原因とは何だったのか、
そして、
そんな自分に力をくれた太陽に代わるものとは何だったのでしょうか。
いよいよラストでは、謎解かれる部分もあれば、
何だったのか明らかにされない部分もあり、
深い内容の物語です。
●現実に負けないで戦う者同士?
全編、主人公を視点にするのではなく、周辺の人物を視点に、
主人公たちの行動を垣間見せてゆくという技法を取っています。
この手法が時に謎を深めながら、時に謎解きをほのめかせながら、
読者を引っ張ってゆく力になっています。
最終的に、雪穂と亮司の関係はどうだったのでしょうか。
明らかにされているのは、小学生時代、図書館で二人は会っていた、
同じ本を読んでいたということ、ぐらいです。
二人の関係は、
昼と夜または光と闇、明と暗の補完しあう関係だったのでしょうか。
あるいは、闇の中を光を求めて、互いに手に手を取り合い、
助け合って歩む者同士、という関係だったのでしょうか。
それとも全く違う形の何かであったのでしょうか。
作者は何も書いていませんので、私たち読者にはわかりません。
ただ自分なりに想像するだけです。
ラストを思いますと、なんらかの形で、ほのかな希望を胸に、
反骨精神でもって、現実の社会の重さに負けないように、
歯を食いしばって上を目指す者同士だったように思います。
そして、その戦いはまだ終わってはいないようです。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
本誌では、「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(3)集英社文庫・東野圭吾『白夜行』青春の思い出も背景に散りばめられた一冊」と題して、今回も全文転載紹介です。
わが青春時代の思い出が色々と時代背景の説明として登場する一編です。
冒頭、わが故郷である東大阪市一の繁華街を持つ近鉄布施駅が登場します。
1973年から始まる19年間の物語で、主人公の一人の少年~青年は、パソコンやゲームの世界を背景に生きていくので、インベーダー・ゲームやスーパーマリオ、ワープロやPCなどの固有名詞が出てきます。
松田聖子の聖子ちゃんカットや、ソノレゾレノ時代を代表する歌手の名なども次々と出てきます。
オイル・ショックの時のトイレット・ペーパー騒動なども背景の話として登場します。
ストーリーそのものではないのですが、こういう時代を思い返す読み方も楽しいものです。
映画やドラマにもなったようですが、私は見ていないので、本文中でもふれていません。
見ていたら、また別の楽しみもあるのでしょうね。
あの役はこの俳優さんじゃないよとか、この俳優さんがよかったとか。
「見てから読むか、読んでから見るか」みたいな……。
・・・
*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』
『レフティやすおのお茶でっせ』
〈メルマガ「楽しい読書」〉カテゴリ
--
『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
<夏の文庫>フェア2023から(3)集英社文庫・東野圭吾『白夜行』-楽しい読書349号
--
2023(令和5)年8月31日号(No.349)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(3)集英社文庫・
東野圭吾『白夜行』青春の思い出も背景に散りばめられた一冊」
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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2023(令和5)年8月31日号(No.349)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(3)集英社文庫・
東野圭吾『白夜行』青春の思い出も背景に散りばめられた一冊」
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一回遅れてしまいましたが、
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から」の三回目
「集英社文庫 ナツイチ2023 この夏、一冊分おおきくなろう。」
からの一冊を紹介します。
先号でも書きましたように、
大阪も連日35度を超え、時に37度、38度といった猛暑の日々、
予定していた、東野圭吾『白夜行』が読み切れず――
文庫本860ページ、十年ほど前に一度読んでいるので大丈夫、
と軽く見ていたのですが、メモ取りしながら読むと……。
時間切れとなり、予定を変更することになってしまいました。
新潮文庫の100冊 2023
https://100satsu.com/
角川文庫 カドブン夏推し2023
https://kadobun.jp/special/natsu-fair/
集英社文庫 ナツイチ2023 この夏、一冊分おおきくなろう。
http://bunko.shueisha.co.jp/natsuichi/
よまにゃチャンネル - ナツイチ2023 | 集英社文庫
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◆ 2023年テーマ:青春の思い出も背景に散りばめられた一冊 ◆
新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(3)
集英社文庫・東野圭吾『白夜行』-昼と夜または光と闇、明と暗-
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●集英社文庫 ナツイチ2023 この夏、一冊分おおきくなろう。
どんな作品が選ばれているのかといいますと――
★映像化する本よまにゃ(3) [既読作品]0
★ワクワクな本よまにゃ(18)0
★ハラハラな本よまにゃ(19)人間失格 白夜行
★ドキドキな本よまにゃ(15)0
★フムフムな本よまにゃ(26)23分間の奇跡 舞姫 星の王子さま
夢十夜・草枕
全81冊中、既読作品は、6冊だけ。
海外作品や古典的名作が選ばれていない
ということも理由ではありますが、ただただ、私自身、
最近の日本の作家の作品をほとんど読んでいない、ということですね。
新たな作家さんと出会ういい機会なはずなのですが、
今年は、子供の頃や思い出をテーマに選んだ感じですので、
少ない既読作品の中から、最も最近の作品である、
東野圭吾さんの『白夜行』を取り上げます。
・東野圭吾『白夜行』集英社文庫 2002/5/25
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●東野圭吾『白夜行』
前回の角川文庫は、「わが青春の思い出の一冊」として、
筒井康隆『時をかける少女』を紹介しました。
今回は、わが青春の日々の思い出を背景に散りばめた、
といいますか、
私の青春時代の1970年代辺りから90年代辺りまでの
約20年を背景にしたクライム・ストーリーです。
巻末解説の馳星周さんによれば、ノワールとのこと。
ノワールというのは、私の思うところでは、
暗黒界、闇の世界の住人たちによるクライム・ストーリー
というところでしょうか。
11歳の小学生時代から30歳まで19年にわたり
太陽の光の下を歩いたことのないという、少年と少女の日々の物語。
19年の歴史を綴るわけですから、
やっぱり文庫本で860ページは必然だったのでしょうね。
読み応え十分で、あっという間に読み終えられる名作です。
(こういうと、ちょっと矛盾を感じるかもしれませんね。
でも、年のせいなのか、集中力がないのですね。)
●始まりは19年前、主人公たちは小学5年生
冒頭、いきなり「近鉄布施駅」が登場します。
私の家の最寄り駅でもあります。
小説では、駅を出ると西に行くのですが、私の家は東です。
西へ行きますと、わが故郷・東大阪市ではなく、大阪市になります。
東野圭吾さんは大阪市出身ですので、いってみれば、
故郷を描くということになるのでしょうか。
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「第一章」
「事件」の舞台も、わが故郷に近い場所で、
描かれる時代も、わが青春の日々の1970年代のようです。
《三月に熊本水俣病の判決がいい渡され、新潟水俣病、四日市大気汚染、
イタイイタイ病と合わせた四大公害裁判が結審した》とありますので、
これは昭和48年(1973)のこととわかります。
公園近くの、今では子供の秘密の遊び場となっている、
工事途中で廃ビルになった建物で、近所の質屋の主人・桐原洋介が
細身の刃物で刺し殺される事件が起きます。
これが発端。
担当刑事の笹垣らが、捜査に当たります。
質屋の主人には妻・弥生子と一人の小学5年生の息子・亮司がいて、
店には店長の松浦がいた。
桐原は当日、銀行で100万円をおろしたのち、手土産にプリンを買って、
店の常連客の一人、小学5年生ながら美人の雪穂という娘を持つ、
シングルマザー・西本文代の元を訪れていた……。
結局、事件は迷宮入りとなり、
容疑者とも目された西本文代はガス中毒事故で死亡。
発見者は娘の雪穂と部屋の鍵を開けた不動産屋。
「第二章」
雪穂は、母の死後、
父方のお花やお茶の先生をしている親戚の上品な婦人の養女となり、
今や私立女子校の中学三年生となっていた。
他校の男子生徒から盗撮されるほどの美人の人気者であった。
テニス部の美少女が襲われ、偶然発見したのは、雪穂と友人の江利子。
一方、桐原の息子・亮司は地元の荒れた公立大江中学校の生徒であった。
ここの生徒が雪穂の盗撮をしていたのだった。
●ストーリーの時代背景
こういう風にストーリーを追っていると、
いくらスペースがあっても追いつきませんので、
物語の背景などについて書いてみましょう。
冒頭の四大公害裁判の結審に現れているような、
その時代を示す社会的出来事の記述が各所で登場します。
何しろ19年の流れを持つ小説ですので、
その時代時代の背景がストーリーにも適宜織り込まれることで、
臨場感といいますか、時代感覚が明らかになります。
また、主人公たちの成長が、特に亮司の生業が
ちょうどパソコンやゲームの普及や発展の歴史と相まっていて、
インベーダーゲームや、ワープロ、PCなどの固有名詞が
時代背景を現実的にみせています。
私のようにそれなりに、
この時代を青春時代のひとときとして過ごしてきたものには、
とても郷愁の湧くものがあります。
松田聖子の聖子ちゃんカットなんていうのも出てきましたね。
●昼・光・明の雪穂と夜・闇・暗の亮司
雪穂は、お花やお茶の先生をしているという、
上品なご婦人の養女となり、家庭教師を付けてもらったり、
私立のお嬢さま学校に進学、中学高校大学と進んでゆきます。
そして、大学のソシアルダンス部に入部、
合同練習相手の永明大学の大企業の御曹司のエリート男性と知り合う。
結婚後も貪欲に自分の夢の実現に向けて努力を続け、
自分の資産で遂にアパレルの店を持ち、離婚後も事業を拡大、
経営者として成功を収める。
というように、
雪穂は光、昼日中花咲く明るい世界を歩んでいるように見えます。
一方、亮司は、荒れた地元の公立の中学に進学し、
危ない世界にも足を踏み込んでゆきます。
1985年(事件から12年後)の年末12月31日、
当時一緒にやっていたパソコンやゲームの店『MUGEN』の閉店後、
同僚の従業員の友彦や弘恵が来年の抱負を話すとき、
《亮司の答えは、「昼間に歩きたい」というものだった。/
小学生みたい、といって弘恵は桐原の回答を笑った。
「桐原さん、そんなに不規則な生活をしてるの?」/
「俺の人生は、白夜の中を歩いてるようなもんやからな」》p.436
ともらすように、亮司は日の当たらぬ闇、暗い世界の住人のようです。
「俺の人生は、白夜の中を歩いてるようなもんやからな」――
まさにこれがタイトルになっているのですね。
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●雪穂の場合
しかし、そんな雪穂も、物語の終わりの方で、こう言います。
《「(略)人生にも昼と夜がある。(略)人によっては、
太陽がいっぱいの中を生き続けられる人がいる。
ずっと真っ暗な深夜を生きていかなきゃならない人もいる。
で、人は何を怖がるかというと、それまで出ていた太陽が
沈んでしまうこと。自分が浴びている光が消えることを、
すごく恐れてしまうわけ。(略)」》
《「あたしはね」と雪穂は続けた。
「太陽の下を生きたことなんかないの」/
「まさか」(略)「社長こそ、太陽がいっぱいじゃないですか」/
だが雪穂は首を振った。
その目には真摯な思いが込められていたので、夏美も笑いを消した。
「あたしの上には太陽なんかなかった。いつも夜。
でも暗くはなかった。太陽に代わるものがあったから。
太陽ほど明るくはないけれど、あたしには十分だった。
あたしはその光によって、夜を昼と思って生きてくることが
できたの。わかるわね。あたしには最初から太陽なんかなかった。
だから失う恐怖もないの」/
「その太陽に代わるものって何ですか」/
「さあ、何かしらね。夏美ちゃんも、
いつかわかる時が来るかもしれない」》p.826
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「太陽の下を生きたことなんかないの」
「あたしの上には太陽なんかなかった。いつも夜。」といい、
それでも「暗くはなかった。太陽に代わるものがあったから」と。
太陽に代わるものが何かはわかりませんが、
「その光によって、夜を昼と思って生きてくることができたの」
といいます。
さらに、
「あたしには最初から太陽なんかなかった。だから失う恐怖もないの」
という。
こういう振り切った生き方をすることになる原因とは何だったのか、
そして、
そんな自分に力をくれた太陽に代わるものとは何だったのでしょうか。
いよいよラストでは、謎解かれる部分もあれば、
何だったのか明らかにされない部分もあり、
深い内容の物語です。
●現実に負けないで戦う者同士?
全編、主人公を視点にするのではなく、周辺の人物を視点に、
主人公たちの行動を垣間見せてゆくという技法を取っています。
この手法が時に謎を深めながら、時に謎解きをほのめかせながら、
読者を引っ張ってゆく力になっています。
最終的に、雪穂と亮司の関係はどうだったのでしょうか。
明らかにされているのは、小学生時代、図書館で二人は会っていた、
同じ本を読んでいたということ、ぐらいです。
二人の関係は、
昼と夜または光と闇、明と暗の補完しあう関係だったのでしょうか。
あるいは、闇の中を光を求めて、互いに手に手を取り合い、
助け合って歩む者同士、という関係だったのでしょうか。
それとも全く違う形の何かであったのでしょうか。
作者は何も書いていませんので、私たち読者にはわかりません。
ただ自分なりに想像するだけです。
ラストを思いますと、なんらかの形で、ほのかな希望を胸に、
反骨精神でもって、現実の社会の重さに負けないように、
歯を食いしばって上を目指す者同士だったように思います。
そして、その戦いはまだ終わってはいないようです。
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本誌では、「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(3)集英社文庫・東野圭吾『白夜行』青春の思い出も背景に散りばめられた一冊」と題して、今回も全文転載紹介です。
わが青春時代の思い出が色々と時代背景の説明として登場する一編です。
冒頭、わが故郷である東大阪市一の繁華街を持つ近鉄布施駅が登場します。
1973年から始まる19年間の物語で、主人公の一人の少年~青年は、パソコンやゲームの世界を背景に生きていくので、インベーダー・ゲームやスーパーマリオ、ワープロやPCなどの固有名詞が出てきます。
松田聖子の聖子ちゃんカットや、ソノレゾレノ時代を代表する歌手の名なども次々と出てきます。
オイル・ショックの時のトイレット・ペーパー騒動なども背景の話として登場します。
ストーリーそのものではないのですが、こういう時代を思い返す読み方も楽しいものです。
映画やドラマにもなったようですが、私は見ていないので、本文中でもふれていません。
見ていたら、また別の楽しみもあるのでしょうね。
あの役はこの俳優さんじゃないよとか、この俳優さんがよかったとか。
「見てから読むか、読んでから見るか」みたいな……。
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『レフティやすおのお茶でっせ』
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『レフティやすおのお茶でっせ』より転載
<夏の文庫>フェア2023から(3)集英社文庫・東野圭吾『白夜行』-楽しい読書349号
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