南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

14級か12級か

2013年01月21日 | 未分類
 神経症状の後遺障害等級が14級か12級で損害賠償の額はかなり変わってきますが,その境目はどこにあるのか,なかなか難しい問題です。

 被害者側の12級の主張を否定して,14級を認定した裁判例を紹介します。

 神戸地裁平成23年8月17日判決(自保ジャーナル1861号73頁)
 1 画像所見で頚椎不安定性+,頚椎のC3~5では局所後変等を呈しているという変性所見があるが,これでは足らない。
 変性所見が交通事故による外力によるとの診断がされたことの十分な証拠がない。
 2 被害者には,脊髄,神経根に明らかな圧迫所見がない。
 神経の損傷や腫脹もない。骨折や軟部組織の腫脹などの外傷性変化も明らかではない。

→ このような状況からすれば,
 自覚症状が他覚的所見で明らかとなる程度にまで至っているとの十分な証拠がなく,12級認定ができない。

以上が判決の内容ですが(当方で適宜要約),
 自覚症状のみ → ×
 他覚的所見あり → ○
というのが12級となる基本的な要件で,他覚的所見があるといえる為には画像所見での異常所見があるというだけでは不十分で,それが交通事故による外力によるとの診断が必要というのが本判決の立場であるといえます。

 理屈としてはこのようになるのですが,被害者側からこのハードルを超えようとすると,医師の的確な診断が必要となってくるなど,そう簡単ではありません。


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14級後遺障害に13年間分の逸失利益を認めた判決

2013年01月15日 | 未分類
 神経症状で14級というと,逸失利益は長くても5年間とされることが多いのですが,裁判でチャレンジすることによりそれよりも長い期間分の逸失利益を認められる場合があります。
 今回はそんな判例を紹介します。

 京都地裁平成23年9月6日判決(自保ジャーナル1861号53頁)
1 逸失利益は症状固定から5年間は10%
  その後8年間は5%を認めた
1 後遺障害慰謝料は150万円(基準は110万円)

 このような判断となったのは,交通事故による傷害として左膝前十字靱帯損傷だったことや,左膝の疼痛が軽微とはいえないということが大きな要因であると思います。
 むちうちで14級というケースだとこの判決のようにはいかないであろうと考えられます。


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交通事故と公務員の逸失利益

2013年01月07日 | 未分類
 公務員は法律で非常に手厚く地位が保障されています。
 その関係で職場に復帰すると事故前に比べて減収なしという場合があります。
 このとき逸失利益はどうなるのか?というのはなかなか難しい問題です。

 最終的にはケースバイケースなのですが,最近の自保ジャーナルに掲載されていた裁判例を紹介します。

 神戸地裁平成23年9月7日判決(自保ジャーナル1861号36頁)
・41歳男性バス運転士(公務員)
・後遺障害→左下肢疼痛等で12級認定
・事故後はバス運転士から内勤職に転任

裁判所は,
・症状固定時から6年間は逸失利益ゼロ(これは事故から判決まで6年経過しており,その間減収がなかったことが理由です)
・それ以降10年間は5%の労働能力の喪失(12級の基準は14%なので,喪失率も低目に抑えられています)
としました。

 かなり低いなあと思われる方も多いのではないかと思いますが,後遺障害の程度(この判決では12級)や実際の勤務内容がかかわってくるところですので,訴訟となるとこの点についてどう主張し,立証していくかがポイントとなります。


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交通事故によるPTSD

2012年12月24日 | 未分類
 交通事故でPTSDの後遺障害が残ったと認めたケースがありましたので紹介します。

 京都地裁平成24年4月18日判決(自保ジャーナル1878号16頁)

(判決の骨子)
① PTSDによる後遺障害を認め,等級は12級を認めた。
② 労働能力喪失率,喪失期間は,いずれも赤い本における基準どおり認めた。
③ PTSDの特性等から10%の素因減額をした。

1 PTSDを正面から認めています。
 東京地裁ではPTSD認定を嫌う傾向にあるように思い,関西方面の地裁ではPTSDを正面から認める判決が出ています(神戸地裁平成17年1月18日判決交民集38巻1号90頁,京都地裁平成23年4月15日判決自保ジャーナル1854号)。
 この判決もその流れにあるものです。

2 PTSD認定されても喪失期間を基準どおりにしない裁判例もあるのですが,この判決では基準どおり67歳まで認定。
 その理由としては,
「PTSDは,一般には予後が良好で,将来症状が大幅に改善する可能性があるとされるが,原告の場合,発症から症状固定までに3年半以上経過しており,大幅改善の蓋然性が高いとはいえない」
と判示しています。

3 素因減額をするのはPTSDでは通常の手法です。
 判決では、
「PTSDは心的外傷というストレス因子と個体の脆弱性の内因が相まって発症するが,6~7割は2~3ヶ月以内に自然治癒し,慢性化する者の割合は少ない。あるいは3年以内に消失するなどとされていることが認められる。これによると原告のPTSDが慢性化したことについては,原告
の内因が参与したものと考えざるをえず,慢性化する者が少数であることからすると,公平の観点から素因減額するのを相当と判断する」
と理由を述べています。


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脳脊髄液減少症の裁判例

2012年12月17日 | 未分類
 脳脊髄液減少症の疑いが相当程度あるということで,9級後遺障害を認めた裁判例がありますので紹介します。

横浜地裁平成24年7月31日(自保ジャーナル1878号1頁)。

1 この判決は,被害者が脳脊髄液減少症であると認定したわけではありませんが,9級の後遺障害を認定しています。
 これが本判決の最大の特徴でしょう。

a.原告が脳脊髄液減少症を発症したとは確定的には認めることはできないが,その疑いは相当程度ある。
(理由)
 ① 起立性頭痛であると診断されている
 ② 厚生省中間報告基準における参考所見が複数みられる
 ③ ブラッドパッチが一定程度効果があった

b.脳脊髄液減少症との「確定」ではないが、「疑いが相当程度ある」レベルではある。だから,同症によらない可能性もあるけれども,諸般の事情を考慮すれば,原告の現在の神経症状は本件事故によるものと認められる。

以上が,この判決の考え方です。

 横浜地裁の合議での判決であり,この考え方が東京高裁でも支持されるのか注目したいところです。

 なお,労働能力喪失期間は10年間としており,基準よりも下げた形となっています。


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交通事故と統合失調症

2012年12月03日 | 未分類
交通事故により統合失調症を発症した(事故と統合失調症の因果関係を肯定した)ケースが、自保ジャーナルに掲載されましたので、紹介します。

仙台地裁平成24年3月23日判決(自保ジャーナル1882号36頁)

当初の診断は頚椎捻挫、腰背部挫傷というもの。
事故日から8日間入院していますが、その後は通院だけです。
事故から49日後に精神科に通院開始となりました。

自賠責では、頚部について14級認定。統合失調症は相当因果関係を否定して、後遺障害とは認定されていません。

仙台地裁は、事故と統合失調症との相当因果関係を肯定。
統合失調症について後遺障害等級9級認定。
労働能力喪失期間は、症状固定後10年間のみ。
素因減額60%。

仙台地裁が相当因果関係を認めた理由は以下のとおり
1 主治医の意見(「交通事故というライフイベントが十分な強度のストレスとして統合失調症に関与した可能性がある」)
2 精神疾患の既往症なく、精神科受診歴もない
3 事故前は社会生活上、大きな問題はなかった
4 事故直後より不眠が出現し、連続して、幻覚・妄想が短期間で出現している
5 幻覚・妄想の内容は交通事故に関連するもの

事故と統合失調症との因果関係を否定した裁判例もあるなかで(東京地裁平成22年2月18日判決自保ジャーナル1829号)、統合失調症との相当因果関係を肯定した事自体は注目に値します。


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自賠責が後遺障害を否定するときの定型文言

2012年11月05日 | 未分類
自賠責保険で、後遺障害は認定できないときには、「お支払い不能のご通知」というものが来ます。

そこには、
<結論>
自賠責保険における後遺障害には該当しないものと判断します

と書かれています。

理由は、いろいろありますが、例えば、頚部痛と後遺障害診断書に記載があるケースではこんな感じです。

 「頚部痛等については、提出の頚部画像上、骨折等の器質的損傷は認めがたく、後遺障害診断書上、自覚症状を裏付ける有意な神経学的所見に乏しいことに加え、治療状況等も勘案した結果、将来においても回復が困難と見込まれる障害とは捉えがたいことから、自賠責保険における後遺障害には該当しないものと判断します。」

このような書き方は、自賠責保険が頚部痛などの神経症状を後遺障害に該当しないとするときの、典型的な書き方です。
少しずつ説明していきます。

上記の文章では、否定の理由は3つあります。

1 提出の頚部画像上、骨折等の器質的損傷は認めがたい
2 後遺障害診断書上、自覚症状を裏付ける有意な神経学的所見に乏しい
3 治療状況等

これら3点から、「将来においても回復が困難と見込まれる障害とは捉えがたい」、つまり、後遺障害と捉えることはできない
というのが自賠責が後遺障害を否定するときの定型的な文言です。

逆に言えば、これらの3点の条件を満たしていけば、自賠責においても後遺障害と認定されるといえます。

なお、3の「治療状況」というのがちょっとわかりにくいですが、主に通院日数を意味すると考えていただいてよいと思います。
自賠責では形式的な審査をする関係上で、通院日数を重視しているようです。
通院日数が少ない場合は、神経症状の後遺障害認定が否定される方向に動くことは間違いないようです。


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線維筋痛症と交通事故

2012年07月03日 | 未分類
線維筋痛症という疾患がある。

wikipediaには、「全身の耐え難い恒常的な疼痛(慢性的、持続的に休みなく続く広範囲の激しい疼痛)を主な症状として、全身の重度の疲労や種々の症状をともなう疾患である。 症状は季節的変動、日中変動があり、全身移行性である。 常時全身を激痛が襲い、慢性疼痛の呈を様する。」などと書いてある。

交通事故によりこの線維筋痛症になることがある。

ただ、交通事故と線維筋痛症の因果関係が認められるかどうかというのは難しい問題がある。

判決ではなかなか因果関係を認めなかったようだ。
例えば、神戸地裁平成20年8月26日判決(自保ジャーナル1794号)では、頚椎捻挫から線維筋痛症を発症したという原告の主張に対して、「頚部に加わった外力と線維筋痛症の直接の因果関係が不明である以上、本件事故と線維筋痛症との間に因果関係を認めることができない」という内容の判断をして、被害者の訴えを退けている。

しかし、因果関係を認めた裁判例もある。
 京都地裁平成22年12月2日判決(自保ジャーナル1844呉21頁)
である。

 この判決では、
「原告の線維筋痛症の発症に、本件事故によって負った骨盤骨折等の重傷による肉体的精神的ストレスが作用している蓋然性が優にあると認められる」
として、因果関係を認めている(後遺障害として7級を認定)。

 もっとも、京都地裁判決よりも後に出た
 横浜地裁平成24年2月28日判決(自保ジャーナル1872号10頁)
では、3級の線維筋痛症であるとする原告の主張を退け、7級の慢性広範痛症であると認定しており、線維筋痛症で判決を勝ち取ることは容易ではないところではあるようです。


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インプラントに関する健康被害の全国調査

2012年06月06日 | 未分類
 先日、歯牙欠損とインプラント治療についての記事をアップしましたが(→歯牙欠損とインプラント治療)、インプラントに関する健康被害の全国調査の記事が載っていましたので、参考までに。

人のやることですから、完全というものはないということは、インプラント治療でも同じくいえることなのだと思います。

インプラント治療に過失があり、障害がでたとういことになれば、医療過誤事件として医師の責任を追求することもありえますね。

インプラント治療で障害421件、神経まひ4割





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歯牙欠損とインプラント治療

2012年05月29日 | 未分類
交通事故で歯牙欠損となった場合には、インプラント治療費が認められるかどうかが争いとなることがあります。

先般、自保ジャーナルに掲載されていた判決ではインプラント治療費を認めていましたので、その判決をご紹介します(仙台地裁平成24年2月28日判決自保ジャーナル1870号)。

1 インプラント治療費(100万円強)は認められるか
 裁判所の判断→認められる
 加害者側は「義歯で足りる」「ブリッジで足りる」と主張していましたが、裁判所は、義歯は異物感等が強く、咀嚼力に劣るという欠点がある。ブリッジは欠損歯の両側の歯を大きく削る必要があるという欠点があるから、被害者の歯牙欠損の被害回復としては不十分であり、インプラント治療が相当であると判断しました。

2 矯正治療は認められるか
 裁判所の判断→認められる(100万円弱)
 インプラント治療をする前提として、矯正治療が必要であるからという理由です。

3 将来のインプラント更新費
 裁判所の判断→認められる(認容した額 60万円強)
 インプラント本体の耐用年数は20年は持つと考えられるから、更新費用が認められる

4 将来のインプラントメンテナンス費用
 裁判所の判断→認められる(認容した額 40万円強)
 インプラントを持たせるには定期的なメンテナンスが必要であるから。


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