南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

女子の逸失利益は男子よりも低い 10

2005年10月08日 | 年少女子の逸失利益問題
 以上のように、全労働者の平均賃金を認めた東京高裁及び大阪高裁は、
1 「近い将来に男女の平均賃金の格差が解消するという見込みがあるとは言いがたい」
という認識については共通しているものの
2 未就労年少者の将来の可能性や女性の労働環境の改善
という見地から、全労働者の平均賃金を認めたものといえます。
 これに対し、あくまで女子の全年齢平均賃金を適用すべきだとする高裁判決は、上記の1項、つまり男女の平均賃金の格差が解消する見込みはないという点を重視しているのです。
 いずれの見解を採用しても不合理ではないと最高裁が述べてしまっている以上、どちらの結論を採る裁判官にあたるかで勝敗が決せられてしまうのが現状といえるでしょう。
 改善の方向性を示している裁判例が出てきたことは、重視されるべきで、被害者側としては挑戦を重ね、全労働者の平均賃金を認める裁判例を多く出していくことが必要になります。
 そのためには、女性の労働環境の改善という点を粘り強く証拠によりアピールする必要があります。
(続)

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女子の逸失利益は男子よりも低い 11

2005年10月07日 | 年少女子の逸失利益問題
女性の賃金の動向は今後どうなっていくでしょうか。
2005年7月27日付日経新聞の夕刊によると、
 2004年の女性の労働力人口は2737万人(3年ぶりに増加)
       男性の労働力人口は3905万人(前年より減少)
とのことです。
 少子化問題の解決には女性の力を活用すべきであると述べる論者も多いです。
 女性の労働の特徴は、
  1 非正社員が多い(正社員比率48.4%)
  2 30代で労働力率が下がり、40代で再び上昇する
ということがあげられています。
 女性が出産後も続けて仕事をしている割合は約3割にすぎないといわれており、出産を機に仕事をやめてしまう人も多いということです。
 このような現状がどのように変わっていくのかについて注目する必要があります。
 女性の意識も変化してきています。
 子どもが生まれても職業を続けるほうがよいと考える女性は、2004年調査で、41.9%。一度仕事をやめて子どもが大きくなったら再び職業を持つほうがよいという女性は37%で、初めて前者の割合が後者を上回ったということです。
 このような女性が増えていけば、女性の労働力人口、労働力率に影響を与えていき、ひいては男女の平等が実現されていくかもしれません。
 例えば、川勝平太氏(国際日本文化研究センター教授)は、「短大を含めると今から10年前には女性の大学進学率が男性を上回った。この世代が社会をくぐりぬけリタイアすることには女性が経済的にも完全に自立し、男性と対等になる。」(日経新聞2005年10月2日付け朝刊)と述べています。
(続) 

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女子の逸失利益は男子よりも低い 12

2005年10月07日 | 年少女子の逸失利益問題
 年少女子労働者の逸失利益については、現在、全労働者の平均賃金を基礎とするのか、女子労働者の平均賃金を基礎とするのかの争いがあることは、これまで見てきたとおりです。
 一方、年少男子労働者の逸失利益は、男子労働者の平均賃金を基礎として行われていますから、年少女子労働者が全労働者平均賃金で算定されたとしても格差が残ることになります。
 しかし、日本の裁判所はそう一足飛びには判断を変更させないのです。
 法律実務に携わっている弁護士としては、現在の論点での勝利を収めることを主眼に置かざるを得ません。
 例えば、年少女子の逸失利益を男子労働者の平均賃金で行うべきだと主張しても、今の状況では省みられる状況にはありません。
 もっとも、男性と女性の平等という理念は忘れてはならないものであり、それについて常に裁判所に主張していくべきことは当然のことです。
 これは「正義」に関する問題であり、法哲学的な思考も踏まえて主張する必要があると思っています。
 この点について、野崎綾子「日本型『司法積極主義』と現状中立性ー逸失利益の男女間格差の問題を素材として」(「正義・家族・法の構造変換」所収)が大いに参考になります。
 この論文は、平成13年の各高裁判決が出される前にかかれたものですが、「交通事故紛争の解決における正義の実現に関し、日本の裁判所が果たしてきた役割について、問題を提起することを目的とする」もので、法哲学的な観点からこの問題が取り上げられています。
 同論文では、「訴訟を提起して自己の権利を主張し、既存の規範について正義適合性の再吟味を促すものが存在しなければ、規範の変革の可能性は著しく損なわれる」とし、訴訟提起による主張の大切さを述べています。
(続)

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女子の逸失利益は男子よりも低い 13(完)

2005年10月06日 | 年少女子の逸失利益問題
 年少女子の逸失利益については、最高裁レベルでも決着がつかず、高裁でも判決例が割れているため、今後も問題が続くことになると思います。
 ”裁判所の判断がおかしい”というのは簡単ですが、そのおかしいところを変えていくためには、大変な努力が必要になります。
 日本人は、「公務員は適正な判断をしてくれるはずだ」と考える傾向が強く、特に東京近辺に住んでいますと、そのような考え方を抱かれる方が多いように思います。
 しかし、裁判官が適正な判断をするかどうかは、われわれ自らが監視していかなければならない問題であり、適正な判断に導くためには、良質な証拠を提出していく責任を当事者が負っているのです。
 事故にあった被害者側が、このようなことをしなければならないのは、非常に苦しいことですが、現在の裁判制度上やむをえないところであり、自分の権利は自分で勝ち取らなければならないのです。
 弁護士は当事者と共に戦うパートナーとなりえますが、弁護士は裁判官以上に色々な考えの方がおりますので、今回扱った問題のような論争の多い問題については、弁護士の考え方を見極められたうえで、依頼されることをお勧めします。
(完) 


 

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