仮刑律的例 34 徒刑囚への対応
【伊那県からの伺】明治二年二月
明治2年2月、伊那県からの伺い。
【伺い】
一 徒刑となった罪人共には苦役を科します。行った仕事に応じて日当を定め、釈放となったときに手当てを支払う予定です。
一 脱走するものは罪の軽重を問わず、刎首します。但しこのことは常々獄中に掲示することとします。
以上のとおりでよろしいかお伺い致します。
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【返答】
一 脱走について
・脱走の初犯は、本来の刑期に年数を倍して科す。脱走の再犯者はすべて斬首でよい。
・全国一般にこの法を施行し、民間にまで広く布告しておくこと。罪人が脱走した場合は、厳重に手配し速やかに追捕すること。
・赦免とする場合は、眉と髪を伸ばしたまま、証標として木札を渡す。
一 作業及び手当について
・手当は、本牢の規定通りに行うべきである。但し、玄米二合五勺を増やすべきである。
・農期には、坪数をもって土地を分担させ、必ず耕作させること。
・農閑期には、わら細工などをさせる。
・病気にかかった場合は、全快してから追って作業をしなかった分も行わせること。
一 病気中の食事について
・病中の食事は朝夕二度に限る。
付紙
・病状によっては食事は三度以上を与えることもできる。虚病が疑われる場合は、医師に診察させること。
一 入浴について
・男は月に三度、女は六度の入浴を許可する。
付紙
・炎暑の季節は、男女ともこの限りではない。
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(コメント)
・伊那県(現在は長野県域)からの伺いです。
具体的な事件に関する伺いではなく、徒刑の場合の囚人の扱いについての一般的な質問です。
徒刑は新しい制度なので、実施主体としてはどのように運用するかを検討しなければなりませんでした。
・脱走囚について、伊那県では「罪の軽重を問わず刎首」すると言い切ってしまっているのが、びっくりします。明治政府は、そこまでは認めていませんが、「初犯は刑を2倍にし、再犯は刎首」としておりますが、現代と比べると厳しいことこの上なしです(現代では逃走罪が成立して、その分の刑期が延びるだけです)。
・作業については、もっぱら農作業という想定
です。
・病中の食事は朝夕二度に限る、と言い切ってしまっているのも驚きです。付紙で、「病状によっては食事は三度以上を与えることもできる」とその内容を実質的に変更しています。これは、別の担当者が1日に食事は2回に限るとする返答を見て、さすがに行き過ぎではないか、詐病を疑うのであれば、医師が診察することで対応すべきではないかと考えたことによると思われます。
・入浴については、当初の返答(男は月に三度、女は六度)では衛生上問題が生じる可能性があるとして、付紙で「炎暑の季節は、男女ともこの限りではない」として、当局の裁量を認めたものと思われます。