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仮刑律的例35 2名殺害の殺人罪 等⇒斬罪

2024年06月29日 | 仮刑律的例
仮刑律的例35 2名殺害の殺人罪 等⇒斬罪

〈本件の概要〉
1 慶太郎は窃盗の初犯で死刑を免れ、再犯後も大赦によって罪が赦されたが、心から改心せず、密通した女性及び他一名を殺害し、夫及び他の者一名にも重傷を負わせた。更には従弟を殺害しようとして傷を負わせ、放火も行った。
熊本藩は斬罪を求め、明治政府もこれを認めた(【伺い②】 )。
2 死刑は勅裁を仰ぐべきという原則は守りますが、殺人や凶悪犯罪に関しては即決すべきであり、後に届けをすることで処理できないかと熊本藩は伺いを立てました。
明治政府は、死刑は必ず伺い立てるべきであるが、やむを得ない場合があり、事情があって即決しなければならない場合は願いの通りに取りはからい、おってその事情を詳細に届け出るべきであると返答しました(【伺い①】 )。

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肥後熊本藩からの伺い(明治2年2月13日)

【伺い①】
刑律は国家の大典であり、先だって御布令のありましたとおり、死刑は勅裁を仰ぐべきとのこと謹んで承りました。
重罪一件が生じましたので、別紙にてお伺い致します。
ところで、従来当藩では、死刑のうち通常の罪科はまず僉議して置き、その後に改めて復議した上で仕置をするの仕来りでしたが、今後は一々勅裁を仰ぐことといたします。
しかし、殺人や兇悪の重科は即決し、日を置かずして仕置きすべきものです。本件の慶太郎のような者が滞獄中に自然死した場合、生前に処刑できず、懲悪が果たせぬのは遺憾に存じます。このような者には、今後は即座即座に仕置をし、後程御届を申上げることができるようにしていただけませんでしょうか。朝廷の至仁の御趣意に違背する粗忽な取扱とならぬよう、即決をする場合は、特に断罪考議を作成の上、仕置きを致します。
以上のこと、お許し下さるようお願い致します。



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【伺い②】
肥後国益城郡河高村の慶太郎は、窃盗の初犯では死刑とはならず、入墨・百笞・徒三年刑に処せられた。しかしその後も窃盗を繰り返し、入墨を自ら抜き取りました。
昨年の春の大赦が出されましたので、昨年4月以前の罪は全て赦されたとの教示を致しましたのですが、心の底からの改心をしておりませんでした。
熊本城下蔚山町の弥作というものの旅行留守中に、同人の妻「やそ」と密通をしておりました。昨年8月、弥作が帰郷すると、「やそが俺を見捨ててしまうのであれば残念だ」と、同月9日夜に弥作宅に侵入し、脇差1本を盗みひそかに「やそ」を戸外に連れ出し、「一緒に出奔しよう。」といい、そうしないのであ殺すぞいう勢いで、「やそ」を連れていってしまいました。
その翌日夫の弥作は、大勢のものとともが追いかけて、「やそ」を連れ帰りました。
これに対して、慶太郎は、「やすやすと夫に付き従って家に帰ってしまったということは、俺との約束を破ったということだな!」と強く憤激し、ここに至って「やそ」への殺意を抱きました。また、弥作も「やそ」に味方するならば切り殺そうとも思いました。さらに、慶太郎と同じ村に住む従弟の長左衛門という者にも、いわれのない恨みをかけ、「ついでに従弟もころしてやる」と思うに至りました。
そして、同月11日夜に侍屋敷に忍び入り、大小一揃いの腰物を盗み取り、これをもって直ちに弥作宅へ行き、「やそ」が寝ていると思って数刀切付りつけたところ、「やそ」ではなくその夜同所に止宿していた者(2名)でした。慶太郎は人違いしたことに気付くと、「やそ」に切りかかって殺害し、さらに弥作にも疵を負わせました。弥作と止宿していた者のうちの一人は片腕を打ち落とされました。残り一人は疵により死亡しました。
慶太郎は弥作方を立ち去ると、すぐに長左衛門宅に行き、同人に切りかかりましたが、同人は疵を負ってその場から逃げ去りました。
そこで、慶太郎は長左衛門宅に放火し、そのまま逃げ去りました。
これらのことを自白しましたが、殺害出来なかった者がいたことは残念だとも述べております。
このように、窃盗初犯では死罪とはならず、再犯でも大赦によつて罪が赦されたにもかかわらず、心の底から改心することなく、正当な理由もないのに密通した女性を殺害し、夫や他の者にも重き疵を負せたり、死に至らせたりしています。
さらに、従弟 をも殺害しようとして疵を負わせ、放火しもしたことは、重畳の兇悪の者と言わざるをえず、当藩の領法(計画的に人を殺した者は斬)により斬罪と致したく、お伺いするものです。
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【返答】
同2月14日押紙により返答。
・死刑は必ず伺い立てるべきである。
やむを得ない場合があり、事情があって即決しなければならない場合は願の通りに取りはからい、おってその事情を詳細に届け出るべきである。
・罪人の処置については重罪であるため、斬罪で良い。

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