ブラームス:ドイツ・レクイエム
第1曲 悲しんでいる人々は幸いである(マタイによる福音書、詩篇)
第2曲 人は皆草のごとく
(ペテロの第1の手紙、ヤコブの手紙、ペテロの第1の手紙、イザヤ書)
第3曲 主よ、我が終わりと、我が日の数の(詩篇、ソロモンの智恵)
第4曲 万軍の主よ、あなたの住まいは(詩篇)
第5曲 このように、あなた方にも今は
(ヨハネによる福音書、ベン・シラの智恵、イザヤ書)
第6曲 この地上に永遠の都はない
(ヘブルスへの手紙、コリント人への手紙、ヨハネの黙示録)
第7曲 今から後、主にあって死ぬ死人は幸いである(ヨハネの黙示録)
指揮:ブルーノ・ワルター
管弦楽:ニューヨーク・フィルハーモニック
ソプラノ:イルムガルト・ゼーフリート
バス・バリトン:ジョージ・ロンドン
合唱団:ウェストミンスター合唱団
録音:1954年12月20、28、29日
LP:CBS・ソニーレコード SONC 10445
これは、巨匠ブルーノ・ワルター(1876年―1962年)が、ニューヨーク・フィルを指揮し、イルムガルト・ゼーフリート(ソプラノ)、ジョージ・ロンドン(バス・バリトン)、それにウェストミンスター合唱団と、当時の最高級クラスの演奏家が集まり、ブラームスの傑作ドイツ・レクイエムを録音した記念碑的LPレコードである。ブルーノ・ワルター78歳の時の録音だ。このLPレコードのライナーノートの冒頭には、「このレコードは、このたびの<ブルーノ・ワルター大全集>の企画にあたり、世界に先駆けてCBS・ソニーレコードから発売するものです。ジャケットの裏表紙の写真は、スイス・ルガノ近郊サン・アボンディオ墓地にあるブルーノ・ワルターの墓碑。ここにワルターは夫人や愛嬢たちと永遠の眠りについている。(撮影 大賀典雄)」と記されている。これを読んだだけでこのLPレコードが、通常のLPレコードとは一線を画した特別なものであることを窺わせる。ブラームスのドイツ・レクイエムは、オーケストラと合唱、およびソプラノ・バリトンの独唱によった演奏会用の宗教曲。全7曲で構成され、1868年に完成し、翌年1869年初演された。通常、レクイエムは、死者の安息を神に願う典礼の音楽のことであり、教会で演奏され、ラテン語の祈祷文で歌われる。しかし、ブラームス自身がプロテスタントであることから、レクイエムを作曲するに当たり、マルティン・ルターがドイツ語に訳した、1537年初版の新約と旧約の聖書および聖書外典から、ブラームス自身が選んだテキストを歌詞に使っている。これがドイツ・レクイエムと言われる所以である(ブラームスが付けた正式な名称は「聖書の言葉を用いたドイツ語のレクイエム」)。キリストの復活にかかわる部分は省かれており、レクイエムといっても、通常のレクイエムとは異なる。つまり死者というより現生人のための演奏会用のレクイエムなのである。このLPレコードの演奏内容は、ブルーノ・ワルターがその音楽人生の最後に到達した心境を深く反映したものとなっており、聴き進むうちに精神的な高みをひしひしと感じとることができる。ワルター独特の温かみのある表現力が魅力的であるし、これに加えニューヨーク・フィルの深みのある響きは、ワルターの思いを的確に表現し切っており、見事な演奏というほかない。独唱、合唱陣も全身全霊で歌っている。ブルーノ・ワルターは、ドイツ・レクイエムの限りなく豊かな、人間味に溢れた名演奏を、このLPレコードで我々に遺してくれた。感謝というほかない。惜しむらくは音がぼけ気味なことだ。(LPC)