ベルリオーズ:交響曲「イタリアのハロルド」
指揮:ロリン・マゼール
管弦楽:クリーブランド管弦楽団
ヴィオラ:ロバート・ヴァーノン
録音:1977年10月2日
発売:1978年
LP:キングレコード SLA1168
ベルリオーズの交響曲「イタリアのハロルド」には、如何にもベルリオーズらしい作曲の経緯がある。ベルリオーズの有名な「幻想交響曲」は、1830年12月に初演されたが、当時大きな話題を集め、その話を聞きつけて「幻想交響曲」を聴き、いたく感激した一人に、超人的技巧で名を馳せていた大ヴァイオリニストのパガニーニがいた。当時パガニーニは、ストラディバリウスのヴィオラの銘器を入手したが、これといったヴィオラ用の協奏曲がなかったため、ベルリオーズに新しいヴィオラ協奏曲の作曲を依頼したのであった。ところが出来上がった第1楽章の楽譜を見て、当初期待していたようなヴィオラが華やかに活躍する協奏曲とはなっておらず、このためパガニーニは作曲の依頼から降りてしまう。そうなると、後はベルリオーズの意図のみで作曲が進められることになる。テーマとしては、バイロンのメランコリックな夢想者の物語を内容とした長篇詩「チャイルド・ハロルドの巡礼」が取り上げられ、さらにベルリオーズがイタリアに留学中の想い出の地、アブルッチを回想して「イタリアのハロルド」と命名された。曲は1834年に完成し、初演で大成功を収めたという。各楽章には標題が付けられている。第1楽章「山におけるハロルド、憂鬱、幸福と歓喜の場面」、第2楽章「夕べの祈祷をうたう巡礼の行進」、第3楽章「アブルッチの山人が、その愛人に寄せるセレナーデ」、第4楽章「山賊の饗宴、前景の追想」。ハロルド役はヴィオラの演奏。固定楽想を奏し、嘆いたり、取り乱したりするが、やがてハロルド自らが求めて山賊の洞窟に踏み入れ、そして、凶暴な山賊によって、昇天するという、如何にもベルリオーズ好みの怪奇的ストーリーとなっている。そんな内容の交響曲「イタリアのハロルド」を、ロリン・マゼール指揮クリーブランド管弦楽団は、各楽章に付けられた標題を、リスナーが思い浮かべられるかのように、実に丁寧に、しかも明快に劇的に演奏する。ロバート・ヴァーノンのヴィオラは、ベルリオーズの構想どおりオーケストラと一体化して、決して協奏曲的な表現は取らない。このLPレコードは、ロリン・マゼール(1930年―2014年)がクリーヴランド管弦楽団の音楽監督時代の録音。当時、ロリン・マゼールはまだ47歳であり、如何にも颯爽とした雰囲気の指揮ぶりに加え、既に巨匠の片鱗を覗かせており興味深い。この後の1982年にはウィーン国立歌劇場の総監督に就任し、ロリン・マゼールは世界の頂点に立つことになる。(LPC)