ジェフリー・フォード著『記憶の書』は三部作の第二部。第一部『白い果実』で、〈理想形態都市〉が崩壊してから八年後の世界を描いている。
『白い果実』同様、翻訳は金原瑞人・谷垣暁美が手掛けているが、リライトは山尾悠子に代わって詩人の貞奴が担っている。
山尾悠子がリライト担当を下りたという時点で、半分くらい読む気が失せていたのだが、一応このシリーズの結末まで付き合おう、と気を取り直して読み始めた。…貞奴の文体は、悪くはないけど、良くもない。それでも、高名な金原氏の訳文のリライトということで、かなり努力していたのだなぁということは、あとがきを読んでわかった。あとがきの文章がとにかく読み難いのだ。この文体が貞奴本来のスタイルだとするなら、ご本人も述べているように、小説を書くのには向いていない。
やっぱり山尾悠子の硬質な文体がこのシリーズには合っていた。山尾さん、何で降りちゃったのだろう?遅筆だからか?
〈理想形態都市〉の崩壊から8年。
市外に逃れた人々が谷間に建設した集落は、〈旅人〉エアの故郷と同じくウィナウと名付けられた。
元観相官のクレイは、家族と共に〈彼の地〉へ旅立ったアーラを想いながら、薬草の処方をしたり、お産の介助をしたりして、静かに暮らしてきた。
ある日、上空で金属製の鳥がビロウの声で挨拶したと思うと、黄色いガスを噴射した。
ガスを吸った者はその場で昏睡し、いくら起こそうとしても目覚めない。クレイはアーラから貰った緑のヴェールで口と鼻をふさぎ、難を逃れる。
「眠り病」は、その場に居なかった者にも伝染し、集落全体に広がっていく。
クレイはビロウが解毒剤を持っていると考え、〈理想形態都市〉の廃墟へ向かうことを提案するが、同行を申し出てくれる者は一人もいなかった。その代わりに村人たちから、老いぼれ馬と痩せ犬、ボロボロのクロスボウを提供されたクレイは、まったく期待されていないことを感じて自嘲を禁じ得ない。それでも、薬草の袋、エアに貰った石のナイフ、干し肉少々、毛布、アーラから託された緑のヴェールを装備し、“自称勇者”は出立するのだった。
廃墟へ向かう途中、人狼の群れに襲われたクレイは意識を失う。
クレイは、「ビロウの息子、ミスリックス」と名乗る眼鏡をかけた魔物にビロウの住居に連れて行かれ、介抱された。ミスリックスの言うことには、ビロウは自らの作った黄色いガスを誤って吸い込み、「眠り病」にかかっているのだそうだ。ミスリックスはクレイに、解毒剤を探すために「浮島」に行って欲しいと頼む。「浮島」とはビロウの頭の中にある「記憶の宮殿」で、ビロウはそこに自分が記憶しておくべきことをすべて物の形にして置いている。したがって、そこにあるものは住人も含めてすべてが何かを象徴しているのだ。その中に、解毒剤を表している物があるはずだ、というのがミスリックスの見立てだ。
達人(アデプト)は、自らの記憶の中に宮殿を作る。その宮殿が記憶の中に根付いたら、次はそれを様々な物で満たす。それらの一つ一つが、必要な時にいつでも思い出せるようにしておきたい何かを表している。ビロウはこの方法で〈理想形態都市〉を設計した。そしてそれを珊瑚と鋼鉄で実世界に作り上げた。建築を構成する要素の一つ一つは、ビロウにとって概念や理論や経験など、記憶する価値のあることを物質で表現したものだった。しかし、「白い果実」を食べたことでビロウの脳内の「記憶の宮殿」が爆破され、現実世界の〈理想形態都市〉も破壊されたのである。
ミスリックスは人の頭に手を置くことで、その人の意識を転送することが出来る。
ミスリックスの導きで、ビロウの記憶の中の「浮島」に送られたクレイは、そこでブリスデン、ナンリー、ヘルマンと名乗る男性3人とアノタインという名の女性1人からなる研究者グループに出会う。ここでは、クレイは検体として彼らの元に送られてきたことになっているらしい。
四人の研究者たちは本当の人間ではなく、ビロウの想念の一部に過ぎないのだが、本人たちはそのことを知らない。彼らは、過去の記憶はないが、自分たちはどこか別の場所からビロウによって「浮島」に連れて来られて来た身で、外の世界には自分の本当の生活や愛する人たちが存在していると信じて疑わず、そこに戻る日を待ち望んでいる。
「浮島」の崩壊の時が近づいてきた。
その中で、クレイは研究者たちの協力を取り付けるために、「浮島」から脱出できた暁には、ビロウに会って彼らをこの島に来る前の生活に戻すよう説得する、と嘘をつく。クレイを信じた4人はクレイの脱出に協力するが、その中で3人の男性は次々と命を失う。
クレイとアノタインは、記憶世界で眠るビロウの化身の元に辿り着く。
クレイは、ビロウの眠るドームのそばで幻覚を見た。まず、ビロウの妹の死を目撃した。ヘルマン、ナンリー、ブリスデンは何れも、ビロウの人生に実際に登場した人物だった。ビロウが記憶の中から彼らを選び出し、それぞれにある概念を象徴させた理由は謎のままだったが。
三人の研究者たちに加えて、観相官だった頃のクレイもたびたび登場した。サイレンシオ、マターズ伍長、剣闘士にされたカルー、エアとアーラ、グレタ・サイクス、ウィンサム・クレーヴス、ピアス・ディーマー…その他、クレイの知っている人も知らない人も次々の登場した。
記憶の断片をつなぎ合わせると、ビロウとアノタインにまつわる一種の愛の物語が出来上がった。
妹に死なれたばかりの13歳の夏、ビロウは二度と戻らぬ決意で家を出た。窮迫したビロウは、スカーフィナティという年老いた男の召使として雇われる。スカーフィナティは科学と魔術の交差する分野で様々なことを成し遂げていた。スカーフィナティの屋敷には弟子のアノタインがいた。スカーフィナティに認められたビロウは、使用人から弟子になる。それから数年間というもの、富と権力を生み出すスカーフィナティの秘密のすべてを、ビロウは驚くべきスピードで身に着けた。最初はビロウのことを認めていなかったアノタインとも修行に関する意見を交換し合うようになって、やがて二人は愛し合う中になった。
ビロウとアノタインが20歳になった年。
スカーフィナティは、これからは二人一緒に授業を受ける必要はないと告げた。ビロウはこれまで通り、錬金術・哲学・数学を学ぶ。一方、アノタインには〈記憶の書〉を学ばせるとのことだった。
ビロウの心に嫉妬の炎が燃え上がる。〈記憶の書〉こそが、達人(アデプト)の奥義であることを知っていたからだ。〈記憶の書〉には、記憶に命を吹き込み、記憶を創造の原動力にする方法、記憶のシンボルとそれらが表す意味のリストが含まれていた。
ビロウは、今回のスカーフィナティの決定を自分が低く評価されたと受け止めた。
〈記憶の書〉の個人授業が始まると、ビロウは何とかアノタインから学んだことを聞き出そうとした。しかし、アノタインは一言も漏らしてくれないばかりか、詮索するならもうビロウとは会わないと言い放つ。
そこで、ビロウはスカーフィナティに、どうして私には〈記憶の書〉を学ばせてくれないのか、と訊ねた。それに対して、スカーフィナティは、ビロウはまだ準備が出来ていない、と答えた。
それ以降、ビロウは〈記憶の書〉について一切口にしなくなったが、心の中ではいつもそのことを考えていた。〈記憶の書〉を学び終えたらアノタインは自分とかけ離れてしまう。相手にしてもらえなくなるに違いない。そう考えたら気が狂いそうだった。正常な判断が出来なくなったビロウは、こっそりと〈記憶の書〉の1頁を切り取り、その紙に記されているシンボルを自分の「記憶の宮殿」の中に移植した。
その奇妙なシステムについて漸く何かをつかみ始めたある日、ビロウは自分の記憶世界がゆっくりと崩壊し始めていることに気が付く。それはビロウ自身に留まらず、アノタインとスカーフィナティにも思わぬ影響を及ぼしていくのだった――。
前作で改心したクレイであったが、傲慢な態度は鳴りを潜めたものの、快楽に流されやすいジャンキー気質は健在だった。
奇病に侵されたウィナウの人々を救うために、単身ビロウの「記憶の宮殿」に乗り込んだのは良いが、美女アノタインとの情事におぼれて、あっさりと目的を見失ってしまう。その後、追いかけてきたミスリックスに叱られて軌道修正するが、もはや彼に真っ当な勇者像を求めるのはアホらしいという心境になった。
今回、「記憶の宮殿」に入ったことでビロウの過去が明らかになり、クレイとビロウの二人が似た者同士だという印象がますます強くなった。二人とも愛されたいという欲求が強く、叶えられないと極端な方法で目的を遂げようとする。身勝手な男に愛されたことでアーラもアノタインも酷い目にあった。それでも、人相を変えることで性格を変えてしまおうと、勝手にアーラの顔にメスを入れたクレイに比べると、思いがけず深刻な事態になったものの、「記憶の書」のシステムを盗むことで、アノタインを繫ぎ止めようとしたビロウの方がまだ可愛げがあると思った。それに妹を失った直後や妹の霊を呼び出した時のビロウの様子から、どうしても彼に対する評価が甘くなってしまう。ウィナウに「眠り病」のガスを撒いた理由も、「ウィナウの連中を眠り病に感染させた後で私が登場し、連中を治療してヒーローになるためにな。」というバカっぽさ。その上、うっかりガスを吸い込んで自分も「眠り病」に罹ってしまうというマヌケぶり。自分の王国に〈理想形態都市(ウェルビルトシティ)〉なんて名付けるダサセンスも、スカーフィナティの言う通り噴飯物である。いろんな意味で少年の心を捨てきれない人なのだ。
最終章は『緑のヴェール』。
金原氏によると、次の主人公はクレイではないらしい。とは言うものの、このままクレイの出番がなくなるとは思えないのだが。
クレイが「眠り病」の特効薬である美薬を持ち帰ったものの、その副作用で混乱に陥ったウィナウはどうなってしまうのだろう?ウィナウを追われたクレイはリスミックスと共に〈彼の地〉に辿りつけるのだろうか?アーラとエアには再会できるのかな?
『白い果実』同様、翻訳は金原瑞人・谷垣暁美が手掛けているが、リライトは山尾悠子に代わって詩人の貞奴が担っている。
山尾悠子がリライト担当を下りたという時点で、半分くらい読む気が失せていたのだが、一応このシリーズの結末まで付き合おう、と気を取り直して読み始めた。…貞奴の文体は、悪くはないけど、良くもない。それでも、高名な金原氏の訳文のリライトということで、かなり努力していたのだなぁということは、あとがきを読んでわかった。あとがきの文章がとにかく読み難いのだ。この文体が貞奴本来のスタイルだとするなら、ご本人も述べているように、小説を書くのには向いていない。
やっぱり山尾悠子の硬質な文体がこのシリーズには合っていた。山尾さん、何で降りちゃったのだろう?遅筆だからか?
〈理想形態都市〉の崩壊から8年。
市外に逃れた人々が谷間に建設した集落は、〈旅人〉エアの故郷と同じくウィナウと名付けられた。
元観相官のクレイは、家族と共に〈彼の地〉へ旅立ったアーラを想いながら、薬草の処方をしたり、お産の介助をしたりして、静かに暮らしてきた。
ある日、上空で金属製の鳥がビロウの声で挨拶したと思うと、黄色いガスを噴射した。
ガスを吸った者はその場で昏睡し、いくら起こそうとしても目覚めない。クレイはアーラから貰った緑のヴェールで口と鼻をふさぎ、難を逃れる。
「眠り病」は、その場に居なかった者にも伝染し、集落全体に広がっていく。
クレイはビロウが解毒剤を持っていると考え、〈理想形態都市〉の廃墟へ向かうことを提案するが、同行を申し出てくれる者は一人もいなかった。その代わりに村人たちから、老いぼれ馬と痩せ犬、ボロボロのクロスボウを提供されたクレイは、まったく期待されていないことを感じて自嘲を禁じ得ない。それでも、薬草の袋、エアに貰った石のナイフ、干し肉少々、毛布、アーラから託された緑のヴェールを装備し、“自称勇者”は出立するのだった。
廃墟へ向かう途中、人狼の群れに襲われたクレイは意識を失う。
クレイは、「ビロウの息子、ミスリックス」と名乗る眼鏡をかけた魔物にビロウの住居に連れて行かれ、介抱された。ミスリックスの言うことには、ビロウは自らの作った黄色いガスを誤って吸い込み、「眠り病」にかかっているのだそうだ。ミスリックスはクレイに、解毒剤を探すために「浮島」に行って欲しいと頼む。「浮島」とはビロウの頭の中にある「記憶の宮殿」で、ビロウはそこに自分が記憶しておくべきことをすべて物の形にして置いている。したがって、そこにあるものは住人も含めてすべてが何かを象徴しているのだ。その中に、解毒剤を表している物があるはずだ、というのがミスリックスの見立てだ。
達人(アデプト)は、自らの記憶の中に宮殿を作る。その宮殿が記憶の中に根付いたら、次はそれを様々な物で満たす。それらの一つ一つが、必要な時にいつでも思い出せるようにしておきたい何かを表している。ビロウはこの方法で〈理想形態都市〉を設計した。そしてそれを珊瑚と鋼鉄で実世界に作り上げた。建築を構成する要素の一つ一つは、ビロウにとって概念や理論や経験など、記憶する価値のあることを物質で表現したものだった。しかし、「白い果実」を食べたことでビロウの脳内の「記憶の宮殿」が爆破され、現実世界の〈理想形態都市〉も破壊されたのである。
ミスリックスは人の頭に手を置くことで、その人の意識を転送することが出来る。
ミスリックスの導きで、ビロウの記憶の中の「浮島」に送られたクレイは、そこでブリスデン、ナンリー、ヘルマンと名乗る男性3人とアノタインという名の女性1人からなる研究者グループに出会う。ここでは、クレイは検体として彼らの元に送られてきたことになっているらしい。
四人の研究者たちは本当の人間ではなく、ビロウの想念の一部に過ぎないのだが、本人たちはそのことを知らない。彼らは、過去の記憶はないが、自分たちはどこか別の場所からビロウによって「浮島」に連れて来られて来た身で、外の世界には自分の本当の生活や愛する人たちが存在していると信じて疑わず、そこに戻る日を待ち望んでいる。
「浮島」の崩壊の時が近づいてきた。
その中で、クレイは研究者たちの協力を取り付けるために、「浮島」から脱出できた暁には、ビロウに会って彼らをこの島に来る前の生活に戻すよう説得する、と嘘をつく。クレイを信じた4人はクレイの脱出に協力するが、その中で3人の男性は次々と命を失う。
クレイとアノタインは、記憶世界で眠るビロウの化身の元に辿り着く。
クレイは、ビロウの眠るドームのそばで幻覚を見た。まず、ビロウの妹の死を目撃した。ヘルマン、ナンリー、ブリスデンは何れも、ビロウの人生に実際に登場した人物だった。ビロウが記憶の中から彼らを選び出し、それぞれにある概念を象徴させた理由は謎のままだったが。
三人の研究者たちに加えて、観相官だった頃のクレイもたびたび登場した。サイレンシオ、マターズ伍長、剣闘士にされたカルー、エアとアーラ、グレタ・サイクス、ウィンサム・クレーヴス、ピアス・ディーマー…その他、クレイの知っている人も知らない人も次々の登場した。
記憶の断片をつなぎ合わせると、ビロウとアノタインにまつわる一種の愛の物語が出来上がった。
妹に死なれたばかりの13歳の夏、ビロウは二度と戻らぬ決意で家を出た。窮迫したビロウは、スカーフィナティという年老いた男の召使として雇われる。スカーフィナティは科学と魔術の交差する分野で様々なことを成し遂げていた。スカーフィナティの屋敷には弟子のアノタインがいた。スカーフィナティに認められたビロウは、使用人から弟子になる。それから数年間というもの、富と権力を生み出すスカーフィナティの秘密のすべてを、ビロウは驚くべきスピードで身に着けた。最初はビロウのことを認めていなかったアノタインとも修行に関する意見を交換し合うようになって、やがて二人は愛し合う中になった。
ビロウとアノタインが20歳になった年。
スカーフィナティは、これからは二人一緒に授業を受ける必要はないと告げた。ビロウはこれまで通り、錬金術・哲学・数学を学ぶ。一方、アノタインには〈記憶の書〉を学ばせるとのことだった。
ビロウの心に嫉妬の炎が燃え上がる。〈記憶の書〉こそが、達人(アデプト)の奥義であることを知っていたからだ。〈記憶の書〉には、記憶に命を吹き込み、記憶を創造の原動力にする方法、記憶のシンボルとそれらが表す意味のリストが含まれていた。
ビロウは、今回のスカーフィナティの決定を自分が低く評価されたと受け止めた。
〈記憶の書〉の個人授業が始まると、ビロウは何とかアノタインから学んだことを聞き出そうとした。しかし、アノタインは一言も漏らしてくれないばかりか、詮索するならもうビロウとは会わないと言い放つ。
そこで、ビロウはスカーフィナティに、どうして私には〈記憶の書〉を学ばせてくれないのか、と訊ねた。それに対して、スカーフィナティは、ビロウはまだ準備が出来ていない、と答えた。
それ以降、ビロウは〈記憶の書〉について一切口にしなくなったが、心の中ではいつもそのことを考えていた。〈記憶の書〉を学び終えたらアノタインは自分とかけ離れてしまう。相手にしてもらえなくなるに違いない。そう考えたら気が狂いそうだった。正常な判断が出来なくなったビロウは、こっそりと〈記憶の書〉の1頁を切り取り、その紙に記されているシンボルを自分の「記憶の宮殿」の中に移植した。
その奇妙なシステムについて漸く何かをつかみ始めたある日、ビロウは自分の記憶世界がゆっくりと崩壊し始めていることに気が付く。それはビロウ自身に留まらず、アノタインとスカーフィナティにも思わぬ影響を及ぼしていくのだった――。
前作で改心したクレイであったが、傲慢な態度は鳴りを潜めたものの、快楽に流されやすいジャンキー気質は健在だった。
奇病に侵されたウィナウの人々を救うために、単身ビロウの「記憶の宮殿」に乗り込んだのは良いが、美女アノタインとの情事におぼれて、あっさりと目的を見失ってしまう。その後、追いかけてきたミスリックスに叱られて軌道修正するが、もはや彼に真っ当な勇者像を求めるのはアホらしいという心境になった。
今回、「記憶の宮殿」に入ったことでビロウの過去が明らかになり、クレイとビロウの二人が似た者同士だという印象がますます強くなった。二人とも愛されたいという欲求が強く、叶えられないと極端な方法で目的を遂げようとする。身勝手な男に愛されたことでアーラもアノタインも酷い目にあった。それでも、人相を変えることで性格を変えてしまおうと、勝手にアーラの顔にメスを入れたクレイに比べると、思いがけず深刻な事態になったものの、「記憶の書」のシステムを盗むことで、アノタインを繫ぎ止めようとしたビロウの方がまだ可愛げがあると思った。それに妹を失った直後や妹の霊を呼び出した時のビロウの様子から、どうしても彼に対する評価が甘くなってしまう。ウィナウに「眠り病」のガスを撒いた理由も、「ウィナウの連中を眠り病に感染させた後で私が登場し、連中を治療してヒーローになるためにな。」というバカっぽさ。その上、うっかりガスを吸い込んで自分も「眠り病」に罹ってしまうというマヌケぶり。自分の王国に〈理想形態都市(ウェルビルトシティ)〉なんて名付けるダサセンスも、スカーフィナティの言う通り噴飯物である。いろんな意味で少年の心を捨てきれない人なのだ。
最終章は『緑のヴェール』。
金原氏によると、次の主人公はクレイではないらしい。とは言うものの、このままクレイの出番がなくなるとは思えないのだが。
クレイが「眠り病」の特効薬である美薬を持ち帰ったものの、その副作用で混乱に陥ったウィナウはどうなってしまうのだろう?ウィナウを追われたクレイはリスミックスと共に〈彼の地〉に辿りつけるのだろうか?アーラとエアには再会できるのかな?