ダイナ・フリード著『ひと皿の小説案内 主人公たちが食べた50の食事』
“僕は本をサラダみたいに食った。まるで昼休みのサンドイッチだ。昼食にも夕食にも夜食にもした。頁を破りとり、塩をふり、薬味をたっぷりかけ、装幀にも噛みつき、舌でめくる。10冊、20冊、いや何十億冊だ。大量に背負って家に持って帰ったせいで、すっかり腰が曲がった。哲学、美術史、政治、社会学、詩、エッセイ、壮大な芝居。何でもござれ。みんな食べた。 レイ・ブラッドベリ著「華氏451度」”
冒頭の「華氏451度」の引用が秀逸。サラダを食べるみたいに本を読むなんて素敵だ。
人は恋愛や冒険をしなくても生きていけるが、食事をしなくては生きていけない。だから、読書していて最も心に残るのは食事のシーンだ。そこには登場人物の性格、置かれた状況、人間関係、精神状態のすべてが凝縮されている。
良く書けている本は、味覚や視覚だけでなく、触覚や嗅覚も訴えかけてくる。そして、遠い記憶を呼び覚ます。そんな小説を読むと、それがたとえ悲劇だったとしても満たされた気持ちになれるのだ。
本書で取り上げられている小説は、「白鯨」「失われた時を求めて スワン家のほうへ」「ロリータ」「レベッカ」「ミドルセックス」「人形の谷間」「アメリカン・サイコ」など、古典文学から現代の作品まで多岐に渡っている。「若草物語」「秘密の花園」「ガリヴァー旅行記」などの児童文学も。
左のページに小説の食事シーンの引用文、右のページにダイナ・フリードが作り盛りつけた料理の写真が載っている。
料理は、小説の場面に忠実に再現している訳ではなく、あくまでダイナ・フリード流。レシピも載っていない。著者の並々ならぬ努力には敬意を表するが、正直あまり美味しそうとは思えない写真の方が多かった。
読んだことのある小説の料理については「えっ、そんなのだったの?」というガッカリ感。全体的に装飾過多。現代アートのオブジェみたい。ジャムの瓶がインク瓶に見えてしまうなど、食べ物が食べ物に見えない写真もある。あと、灰皿が近すぎて食べ物に灰がかかりそうだとか、いくら漂流生活でも砂の上に直接食べ物を置かないだろうとか、衛生的に抵抗を感じる写真が何枚かあった。食事を出す相手への思いやりよりも、著者の自意識の方が強く前に出ている写真が多いように思う。
良かったのは、「失われた時を求めて スワン家のほうへ」「太陽がいっぱい」「ベル・ジャー」「灯台へ」など、奇を衒わない料理らしい盛り付けの写真だ。
巻末に50の小説の短い解説が載っているのだけど、これは小説の食事シーンを引用している左のページに一緒に載せたほうが見やすかったと思う。
文句が多い読書感想になってしまったが、小説のセレクションはセンスが良いと思った。
食欲は刺激されなかったが、読書欲は大いに刺激された。ジェフリー・ユージェニデス著「ミドルセックス」、トマス・ピンチョン著「重力の虹」、マイケル・シェイボン著「カヴァリエ&クレイの驚くべき冒険」など、この本で初めて知り、読んでみたいと思える小説が何冊かあったので、ハズレ本ではなかった。
“僕は本をサラダみたいに食った。まるで昼休みのサンドイッチだ。昼食にも夕食にも夜食にもした。頁を破りとり、塩をふり、薬味をたっぷりかけ、装幀にも噛みつき、舌でめくる。10冊、20冊、いや何十億冊だ。大量に背負って家に持って帰ったせいで、すっかり腰が曲がった。哲学、美術史、政治、社会学、詩、エッセイ、壮大な芝居。何でもござれ。みんな食べた。 レイ・ブラッドベリ著「華氏451度」”
冒頭の「華氏451度」の引用が秀逸。サラダを食べるみたいに本を読むなんて素敵だ。
人は恋愛や冒険をしなくても生きていけるが、食事をしなくては生きていけない。だから、読書していて最も心に残るのは食事のシーンだ。そこには登場人物の性格、置かれた状況、人間関係、精神状態のすべてが凝縮されている。
良く書けている本は、味覚や視覚だけでなく、触覚や嗅覚も訴えかけてくる。そして、遠い記憶を呼び覚ます。そんな小説を読むと、それがたとえ悲劇だったとしても満たされた気持ちになれるのだ。
本書で取り上げられている小説は、「白鯨」「失われた時を求めて スワン家のほうへ」「ロリータ」「レベッカ」「ミドルセックス」「人形の谷間」「アメリカン・サイコ」など、古典文学から現代の作品まで多岐に渡っている。「若草物語」「秘密の花園」「ガリヴァー旅行記」などの児童文学も。
左のページに小説の食事シーンの引用文、右のページにダイナ・フリードが作り盛りつけた料理の写真が載っている。
料理は、小説の場面に忠実に再現している訳ではなく、あくまでダイナ・フリード流。レシピも載っていない。著者の並々ならぬ努力には敬意を表するが、正直あまり美味しそうとは思えない写真の方が多かった。
読んだことのある小説の料理については「えっ、そんなのだったの?」というガッカリ感。全体的に装飾過多。現代アートのオブジェみたい。ジャムの瓶がインク瓶に見えてしまうなど、食べ物が食べ物に見えない写真もある。あと、灰皿が近すぎて食べ物に灰がかかりそうだとか、いくら漂流生活でも砂の上に直接食べ物を置かないだろうとか、衛生的に抵抗を感じる写真が何枚かあった。食事を出す相手への思いやりよりも、著者の自意識の方が強く前に出ている写真が多いように思う。
良かったのは、「失われた時を求めて スワン家のほうへ」「太陽がいっぱい」「ベル・ジャー」「灯台へ」など、奇を衒わない料理らしい盛り付けの写真だ。
巻末に50の小説の短い解説が載っているのだけど、これは小説の食事シーンを引用している左のページに一緒に載せたほうが見やすかったと思う。
文句が多い読書感想になってしまったが、小説のセレクションはセンスが良いと思った。
食欲は刺激されなかったが、読書欲は大いに刺激された。ジェフリー・ユージェニデス著「ミドルセックス」、トマス・ピンチョン著「重力の虹」、マイケル・シェイボン著「カヴァリエ&クレイの驚くべき冒険」など、この本で初めて知り、読んでみたいと思える小説が何冊かあったので、ハズレ本ではなかった。