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ネコ20匹を世話するため、本を書いたりバイク乗ったり。見えない世界ととその狭間を見ながら日常を生活する一人の男の物語。

アトランティスの記憶 ③

2013-01-14 11:00:10 | 『日常』



通路は結構長い。

通路の窓からは、複雑な機械が見えている。
窓、と言っても通路全体がクリスタルみたいなものなので。金属のフレームの隙間から見える範囲、という感じ。
クリスタルの通路には複雑な金属フレームが張り巡らされていて。僕らはその上を歩いているけど、たまにその隙間が広いと下がみえてちょっとゾッとするときがある。

機械に関しての説明を受けながら、僕らはぞろぞろと歩いているのだ。
金色の球体と複雑に折れ曲がった管。それを見ていると、何か生物の内蔵を彷彿とさせる。

丸い金色の巨大な物体と、その周りにはやたらとアナログな針で動くメーターがついていて。その先にパイプがつながって。所々に機械とつながりながら四方にパイプがも伸びている。

「そこに見えるのは、力粒子の発生装置。ここでコンプレッサーで圧縮されて、目的の場所に送り込まれる。」

とヤベーヘが言った後、
「では、何かご質問はないかな?」
シルバーコートを翻して僕らに向かいあう。
「粒子が部屋に送り込まれすぎたらどうなるんですか?」

とシェラが聞くと、
「送りこまれた分、先にある粒子は回収されて、ここに戻ってくる。
そして、この塔の光エネルギーのリサイクル装置でもう一度エネルギーをチャージして。このコンプレッサーのところに戻ってくるようになっている。」

「食堂にも力粒子が満ちているけど、あれも回収されていたのか。」
とヤーフルがつぶやく。
「じゃないと、部屋中粒子だらけになってしまうよ。」
僕が答えると、
「そうなると、軽い思念で物が動いたりしないのかな?だいたい、粒子が集まり過ぎるとどうなるんだろう。」
「僕に聞かないで、ヤベーヘに聞けば。」

と僕が言ったので、ヤーフルはそのとおりにした。
しかし、情報粒子が無いと、互いのやり取りが面倒だ。いちいち口に出さないと伝えられないから。
街の中央にある情報を引き出して、それを伝えれば一瞬で終わるのに。
なんで、この中はそういう情報粒子が存在していないのだろう?

そういう事を考えていると、ヤべーへがヤーフルの質問に答えていた。

「粒子が集まり過ぎると、逆に思念での操作がしにくくなる。なぜかというと、多くの粒子を操作するには、それだけ純粋な思念が必要になるからだ。
1つの事に、集中すること。
純粋に意識を集中すること。
それができる人物しか濃い粒子は扱えない。
君達がもしも、濃い粒子の場所に来たばあいは、逆に粒子のエネルギーに翻弄されてしまうだろうね。」

その言葉で皆がざわざわしてきた粒子に翻弄される?
その様子を見て、ヤベーへは少し微笑んだ。
「たとえば、食事を取ろうとするとき、君たちは今日は強化食にしようと思って最初力粒子を使う。だが途中でちらっと横で普通食を食べているメンバーを見て、あ、普通食もいいかも。とちょっと思ったとしても、普通であれば最初の強化食だけを取るように粒子は動く。
しかし、濃くなりすぎると、このちょっと思った事でも動いてしまうようになるから、
この場合は強化食を取ろうとしていると普通食も勝手に来てしまうようになって。
それが困ると、その時にまた別のことを考えたら、それが実行されてしまう。
その時に来るな、と思ってしまうと、こんどは食事の両方を弾き飛ばしてしまったり。
その時に「こぼしてはダメだ」と思うと今度はそのためにテーブルやほかのものが動き出したり。
そして動き出したりしたのを止めようと思うと、それよりも巨大な別のものが動きはじめたり。
というぐあいに、その場は大変なことになってしまう。
だから、粒子の濃度は濃くならず、常に一定に保たれなければいけない。」

なるほど、粒子は濃ければ濃いほどいいわけじゃないのか。
町中に満ちている情報粒子も、放出されっぱなしかと思っていたけど、ちゃんと回収されているんだなあ。

「その粒子が際限まで濃くなりすぎるとどうなるの?」

とヤーフルが聞いている。
すると、ヤべーへが足をとめた。

「その事を、今から見せてあげるよ。」

そう言って、通路から1つの部屋に入って行った。
ここは、情報粒子を集めるコンプレッサーがあるところだ。

「情報粒子は、中央の塔から放出され、街中に満たされている。
そして、情報粒子は、街を取り囲む、塔から3番目の運河の外側から回収されるようになっている。
だから、街の外に出るときは移動用ギャロットの航路や、大陸を移動する飛行船のルートでしか、情報粒子は使えない。
そういうルートには、また別に発生装置と回収装置が組みこまれている。」

そう言って、ヤべーへは1つの部屋に入り、巨大な金色の丸い玉の前に、僕達を連れてきた。
そこで操作をしている大人たちも、ヤべーへと同じようにシルバーメタルのコートを着ている。

「このあたりの操作をしているのも、私と同じヒトヲのメンバーだ。
こっそりと、私達は活動しているんだよ。」
そう言ってヤベーへは微笑む。

ヒトヲ・メンバーというのは、ある時期に技術開発やその操作で注目を浴びたけど、そのあとはこうやって、重要な部分を管理する仕事をしていたのか。
実は、このことはさっき下ろしてきた情報には書かれていなかったからだ。
直接見る以外は、公開されていない情報なんだな。
情報粒子もそこにすべてが刻まれているわけではなくて。年齢によって下ろせる情報も制限されていたり、このように直接でしか公開されてない情報に関しては、情報粒子を介しても分からないこともあるし。

それにしても、ヒトヲメンバーは髪の色や姿がそれぞれに違っていて。
僕らのような感じじゃあないみたいだ。

普通、というか僕らを世話してくれる大人たちは、僕らと同じように基本的に白ぽい髪と、全体的に色素の無い肌の色と、華奢は体つきをしているのに。
このヒトヲメンバーの中には、赤い髪、褐色の肌、体格もそれぞれで僕らとはまた違った特徴を持つ人たちが多いように思える。

「なんで、ヒトヲメンバーは僕らと体の特徴が違うのだろうね?」
ヤーフルが僕に聞いてくるが、それに答えられるほどの情報を僕は持っていないし、アクセスもできない。
情報粒子は意外と万能ではないのだ。
たとえば、僕らが個人で情報交換する時も、送るのは表面的なものばかりだ。自分の思っていること、心の持っている感情みたいな情報はさすがに粒子には乗らないし。
でないと、ヤーフルに僕の心の中が伝わってしまう。

このヒトヲ・メンバーの事も、重要だからこそこうやって見学して直接会うようになっているのかもしれない。
肌の色が濃いと、何か情報とアクセスしやすいのかな?
そんなことを考えていると、

ヤべーへはその黄金の玉の前に立ち、そこにいるメンバーに指示を出している。

すると、その黄金の玉がゆっくりと動き出した。
「これは、粒子を結晶化させる装置だ。」

とヤべーへが言うと、その金色の玉が回転し、開いていく。
すると、中から青く輝く宝石のようなものが表れてきた。

水晶のクラスターのような、青い結晶が金色の玉の内側にびっしりと生えている。

それはとても美しく、空の深い色を写し取ったような、そんな結晶だった。

目の前には、巨大な半球の中にびっしりと詰まった、
青い結晶クラスター。

1つの結晶が僕の頭くらいはある大きさだ。

メンバーがわーっと言ってそれに近づこうとすると、ヤベーヘがそれを制止する。

「この周りには力粒子で囲んであるから、今君たちは大丈夫だが。近くに来ると死んでしまうから注意してくれ。」

あっさりと、怖い事を言う。皆はゾッとして、後ろに下がった。

「あんなに綺麗なのに、触れないのは残念だな。」
とヤーフルは言っているけど。さっきも真っ先に行こうとしていたからね。思い立ったら即行動だから困ったものだ。

なぜ危険なのか?僕も聞いたことが無いので、ヤベーヘの言葉を待つ。

全員がある程度落ち着いてから、その黄金の玉はゆっくりと閉じられて、青い結晶は見えなくなってしまった。

ヤーフルはいつまでも覗きこもうと体を伸ばしてみていたけど。

「粒子が密度を増して結晶化した時、それは巨大なエネルギーを放出するようになる。
そのエネルギーは、人間の体に触れると組織を破壊してしまうほど強力なのだよ。」

「でも、結晶化するということは、エネルギーが安定している状態なんじゃないですか?」

と誰かが聞くと、

「そう、普通の物質はそうなんだけど。この粒子というものは分子構造が細かくなればなるほど、安定する性質を持つ。

だから、粒子として空間に存在することができるのだよ。
そして、集まれば集まるほどエネルギーが増してきて。より不安定な状態を示す。」

「でも、個体として存在しているなら、それは安定しているといえるのではないですか?」

また誰かが聞くと。

「あれは、見た目は結晶だが。炎と同じようなものだ。エネルギーの揺らぎが、結晶のように見えているだけだ。ゆらぎの振動が細かすぎて、私達の目では動いて無いように見えているだけ、
だから、君たちが近づくと危ない。
炎は燃える物質が近づくと、そこに燃え移る。
粒子の結晶も、そこに粒子を受け入れる存在、細かい波動を受け入れる存在。つまり私達だが。
それが近づいてくると、そこに移動する。
そうなると、粒子のエネルギーが体内を一気に暴走するので。」

そこでパッと手を広げてみせて。
「肉体が消滅する。 細胞のつながり、元素の連なりが破壊されるのだ。」

みんなそういう話を聞いて、静かになっている。
そりゃあ、そうだ。今まで何気に使ってきた粒子も、ある条件では自分を破滅させるかも知れない事を知ったのだから。

「そういう風にならないように、私達はシルバーメタルのコートを身にまとって、この場所で働いている。
粒子を安全に、君たちが使えるようにするためにね。」



今回の施設見学では、いろいろと学ぶ事が多かった。
その後も粒子を結晶化させる技術の話や、それを保管する容器(さっきの金色の玉)の構造。そういう話を聞いた。
しかし、どうしてこのような、ある意味危険にもなる得る技術を作ることができたのか。
そして、この技術の元は何なのか。
そういう部分は今回教えてもらえなかった。まあ、まだ先にならないと教えてくれないのだろう。
他のメンバーが聞いても、そのあたりはハッキリと答えてくれなかった。

しかし、この施設ではヒトヲ・メンバーの人達が多く現役で働いているのに驚いた。
普通ならば、200周期過ぎたて肉体で存在しているのは奇跡に近いのに。現役で働いているところが不思議だ。

なので、塔の出入り口付近に集まっている時、帰り間際に質問してみる事に。
すると、ヤベーヘは、
「私達は、常にシルバーメタルのコートを着用している。
そして、必要最低限、粒子を使わないようにしている。
なぜだかわかるかい?」
と逆に聞いてきたので
「この施設では粒子の結晶とか、危ないものを扱うからでしょう?」

と答えると、ヤベーヘはちょっと笑って。
「人は、自分の生活を豊かにしようと思う時、必ず何らかの代償を支払う必要が出てくる。
それは、この粒子テクノロジーも同じなんだよ。
そして、粒子が選んだその代償は、『時間』なんだ。」

「それはどういう事?」
隣からヤーフルが割り込んできた。ヤベーヘは微笑んで。
「君たちはまだ時間がある。後でその事を知るようになるから。今は目の前にある粒子について、知ることからはじめて行くといい。
知った後で、君たちもその後を選択する事はできるのだから。」

ちょっと分かりにくい説明なので、質問しようとすると、

「ほら、もう見学時間は終わりだよ。これから君たちをシェアルームに案内するギャロットが来るから。それに乗って行きたまえ。
また、この施設に来る事もあるから、その時に再会しよう。」

そう言って、ヤベーヘは手を振って、戻っていった。






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