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ネコ20匹を世話するため、本を書いたりバイク乗ったり。見えない世界ととその狭間を見ながら日常を生活する一人の男の物語。

アトランティスの記憶<中期アトランティス 8>

2013-02-06 10:26:12 | 『日常』


夏の間は、その後高潮対策に追われていた。
現地の視察、長や役人達との打ち合わせ。
実際に動いてもらう議員との役割分担。

さすがにシャレ一人では荷が重いので、もう二人ほど臨時で秘書にも入ってもらい、
仕事を進めて行った。

議長室が賑やかになる。

「これは、一気に華やかになったなぁ。」
長老議員のジョルフが来た時に入ってそうそうそんなことをいう。
「こちらはオトコの秘書しかいないのに。なんで議長は若い女性秘書ばかりなのかね。不公平じゃないか?」

「秘書組合に俺の希望する能力を言うと、くるのがみなこういう感じになっているだけだ。俺が選んでいる訳じゃない。」
実際、秘書組合の選定には疑いをもっていないので、能力的にはなんら問題のない人選でありがたいのだが。
なぜにこうも若い女性ばかりなのか、となると何か他意を感じないこともない。
登録されている秘書の男女比は半々なのだから。

そんな話をしていると、ジョルフは笑いながら
「皆、議長が早く結婚しないかと思っているのだよ。」
「なんで?」
「長に引き込まれる前に、若い女性にでも捕まってもらったほうが私たちは助かるじゃないか。逃げられることもない。」
確かに、なぜかみな料理が上手いとか、容姿がそれなりに整っているとか、妙に「世話やき」な人選だと思っていたが。
「しかし、それはあるまい。たまたまだろう。」

「若い娘を周りにおいておけば、一人くらいと間違いを犯すこともあろう。
そしたらそのまま結婚させてしまえば手っ取り早かろう。私ならそう考えるな。」

「それは勘弁してくれ。」
「ははは、冗談だ。まあそれだけ議長には皆期待しているということ。だから、秘書も議長の仕事、プライベート双方を補佐できる人選になっている。
そういうことだ。」

そう言ってジョルフは笑っていたが。
もしも本気で秘書組合がそんな意図を持っていたとしたら、今度組合長に一言言いに行かないと。



ジョルフが去ったあとシャレを呼び出し、今日の打ち合わせをする。
基本的にシャレが第一秘書、あとはその補佐、という感じでやっているのである。

二人の新しい秘書は、一人は長い茶色のの髪を後ろでまとめたノルロンというシャレより少し年上の女性で。切れ長の目が書類を見ると、即座に間違いを探し出すという、あら探しのエキスパートで。何度も助けられているところがある。
見かけは仕事一筋の飾り気の無い感じなのだが、意外とお菓子が上手という特技があって。
先程ジョルフに出した菓子も、実はノルロンのお手製であったりする。あとは細々としたところに気がつくのと、手先が起用なので。なにげに引っ掛けていた破れたシャツの裾をいつの間にか直してくれていたりもする。

もうひとりは髪を短く切って、クルッとした目が印象的な、ややシャレよりも年下のヒャラントという女性、女の子、といったほうが早いくらいの幼い容姿なのだが。
書類作成能力が驚く程高く、指示したものをあっという間に仕上げてしまう。
今の時期、本当に助かる技能の持ち主だった。基本的に部屋の癒し系担当だな。

こちらの特技はマッサージ。
見た目よりも力があるので、たまに俺もやってもらうが。
かなり痛いが、スッキリする。
家が家系的にそういう技術仕事をしているらしいのだが、家は兄が継いでいるので、妹としては世界をもっと広く見たい、ということで秘書になったということだった。

そのように、いろいろな部分で能力がかなり高い秘書が来てくれているので助かるが。
それと結婚は関係ないだろうに。

「ジョルフさん、面白いこと言ってましたね。」

シャレがそんなことを言ってくる。

「あの人の戯言だったらいいのだが。」

「あながち、戯言でもないかもですよ。今度来た2人は家庭的で可愛い人ですから。議長が間違いを起こすかも?だから二人きりにはさせられませんね。」

そう言ってふふっと笑う。
頭痛い。

「そういう君はどうなんだ。別に花嫁候補生として送り込まれたわけじゃあるまい。」
「私は、議長の第一秘書ですから。パートナーとして、仕事するためにやってきてます。」
「そう言ってくれるとありがたい。」
「でも、別に日常生活の面倒も見てもかまいませんよ。」
「遠慮しとく。前みたいに毎朝起こされたらかなわん。」

今日の仕事の打ち合わせをザックリをすませて、そして目的の場所へと移動する。
俺たちが居ない間のことはシャレが2人の秘書に伝えてくれるので、細かい仕事がなくなるだけでもかなり助かる。

最初は高潮を防ぐ堤防と排水施設の設置。
このあたりではその場を受け持つ議員とのやり取りで時間を使ったが、あの一件以来シャレには役人とのやり取りを任せられるようになったので、そこはかなり楽になった。
バンダナを使って情報粒子をどんどん使っている。
俺が神殿に情報を送っておくと、それを利用して勝手にいろいろと引き出したり書き込んだりして手直しもしてくれる。
俺の意図がスムーズに伝わるので、仕事の進みも早くなる。

デスクワークは二人の秘書に任せて、俺が現地の担当、シャレに神殿方面の情報管理、と分担して行えるようになった。

急いで資料の概要を作って手渡しておくと、出先から戻ってきたらもう完成しいてる。
ということができるようになり、他の議員に素早い対応が出来るようになって助かる。

「私も外に出てみたいですぅ。」
とヒャラントが言う時もあるが、そういう時はシャレが
「粒子使えたらね。」
と言って勝ち誇ったような顔をする。

「自分も最初は伸びていたくせに」
と思うが口には出さず。

さすがに長と会うときは俺が同行しているが、シャレはもう伸びる事はなくなり、長とのやりとりにちゃんと付いてきてくれている。
この数カ月ですっかり頼もしくなったものだ。


しかし、昔の資料を見たりするにつけ、どうして今の時期に高潮のような被害が広がってきたのか。そのあたりが謎になってくる。
昔は陸地ももっと広く存在していたと記録にはある。あの水晶の街のようなものがもっと沿岸に多く存在していたらしいし。なぜ、今の大陸は以前よりも縮小しているのか。
そして、どうして各町のあいだでの情報交換ができないのか。

町から町へと移動する手段が存在していないのだ。
ギャロットは基本的に町の中でしか使えないもので。粒子の存在していない町の外へ行くには、徒歩しかなくなる。
そして、町と町の間には、緑深い森や灼熱の砂漠が広がり。
とてもではないが、外の街へと移動することはほぼ不可能となっていた。

だが、昔の資料を見ると。その危険を顧みずほかの街から移動してきた人物の話も希に書いてある。
しかし、そういう人々は長の神殿へと連れて行かれて、そこから元の街へと戻されてしまうという記述もある。
であれば、長はほかの町との連絡を取っているか。もしくは移動している可能性もあって。

「長たちは、何を目的としてこういうふうな統治を行うのだろうか?」

分離している状態がなぜ必要なのか。連絡が可能であれば、互いに協力すればよりよいアイデアも出るだろうに。

長たちの目的、それも今回の計画には重要なポイントかもしれない。

その後、俺は一足先に議長室に返ってノルロン、ヒャラントたちと今回の流れについて打ち合わせをすることにして。シャレには神殿へと行って資料をまとめてもらうようにした。
最近はシャレも神殿の役人に可愛がられているみたいなので、俺としても任せて安心になってきたものだ。
シャレは神殿専用のギャロットに乗り込みながら、
「間違いを起こさないでくださいね。」
と笑顔で言いながら去っていった。
俺はそんなに見境の無い男では無いのだが。


・・・・・・・・・・・・・・長・・・・・・・・・・・・・・

「それで、今回は何をしにこられました?」
長の目の前にはシャレが居た。それも一人で。硬い表情で座っているのは、長と直接一人で会うのが初めてだから。
というのが理由のようで。情報粒子から伝わるものには、それ以外にもいくつかあるようだったが、長はその思考を見るのとやめた。
なんとなくフェアではない気がしたのだ。

シャレは緊張しつつも、
「今日は、議長の代理で。今後の仕事の事でお伺いしに来ました。」

はっきりとそう言って、情報粒子のほうへ資料を流し始めた。
情報粒子、バンダナでのやりとりは部屋に入ったときから、神殿に入ったときからすでに始まっていて。

シャレがバンダナを巻いて、すぐにあの塔のある壁画を見て「美しい」と感じている感覚。それも伝わってきていたりする。金の髪の翼を持つもの。その絵をじっと見つめている様子も感じられる。

まだまだ、情報粒子の扱いには慣れてないものですね。

仕事の情報の合間に、バンダナを巻いてからの、シャレの心が動いた出来事が一緒に漏れ出てくるのだ。
長はそれを見ないふりをして、やりとりと資料の問題点を指摘し、変更していく。
シャレもそのスピードに慣れてきたのか、テンポよく続けられている。
この数ヶ月で、すっかり上達しましたね、この子は。

長がそんなことを考えたが、シャレには長の思考を読むほどの余裕がない。
必死でやりとりしている様子が伝わってくる。

こんな一生懸命な子が男性は好きなのかしら。

ふと思ってしまった瞬間、シャレが怪訝そうな顔をしてこちらを見たので、慌てて長は思考を仕事へと絞った。
どうやら数字のところで引っかかっていただけのようであったが。
長は自分がうかつなことを思ってしまったことを反省した。

それを知ったところで、どうしようもないのですし。
世界は動き始めているのですし。
私はそれを導く存在。
そこの主人公になってはいけない。

それを知っていても、分かっていても。
自分が主人公である世界を感じてみたい。
そんな気持ちもあって。

このシャレの行動力は長にとっては羨ましいものであった。

情報のやりとりが終了して、シャレが頭を押さえてバンダナを外すと、すかさず金髪の直轄役人が飲み物をもって現れてきた。

礼をいってそれを受け取る。

「かなり、上達しましたね、驚きました。」
長が微笑みながらシャレに言うと、照れ笑いを浮かべながら
「まだまだです。」と言って謙遜する。
その様子を微笑ましくみていた長は、シャレに話かけた

「ちょっと、お聞きしたいことがあるのですが。よろしいですか?」

「は、はい」

「そんなに固くならないでください。すこし、雑談みたいなものです。」

長はそう言って微笑み、シャレは何を聞かれるのかと待ち構える。
時間が数秒経ったあと

「あなたは、ヤッシュ議長がお好きなのですか?」

シャレはその言葉に満面の笑を浮かべて
「はい。私は一生懸命仕事をする、ヤッシュ議長が大好きです。」
と答えた。
その言葉を聞いて、長は一瞬顔がこわばったが、笑顔に戻して
「そうですか。それでは、これからもヤッシュ議長を支えて上げてください。」
「はい」
「あの人はひとつの事しか目に入らない人ですから。そこをあなたが手綱を握って調整してもらえれば、この計画はきっとうまく行きますよ。」
そう言って微笑むと、
「ありがとうございます。」
と言ってシャレは笑顔で返してきた。
そして、
「それでは、長はどうなのですか?長はヤッシュ議長のことをどう思ってます?」
とまた笑顔で言ってくるが、その表情は無邪気というよりは、探りを入れる感じの笑顔であった。
さすが、この子は気が回る子だわ。
長は息を吐いて。そして吸う。
「私は・・・・」
「長、そろそろ次の所へと移動しませんと。」
と言いかけのところで先ほどの金髪の直轄役人が声をかけた。
その意味、気配を察した長は、すぐに言葉を切り、うなずく。

「そうですか、分かりました。
それではまだお話の途中でしたが、次はもっとゆっくりおはなしできる時間があるといいですね。」

「今日は長と話せて良かったです。」

そう言って二人は別れた。
シャレは神殿を出て、ギャロットに乗るときに後ろを振り返り。
長のさっきの続きの言葉を考えた。もしも、自分が思っていた言葉がそこで出てきていたら、一体どういう反応をしてしまったのだろうか?

「なんであんな朴念仁な人が好かれるのかしら。」
自分のことは棚に上げて、シャレはそう呟いてギャロットに乗った。
そういえば、このやりとりも粒子に残っているのかしら?

そう思うと、顔が赤くなっていく。
勢いとは言え、あんなこと言ってしまうとは。
今度来たときに消しておこう。

・・・・・・・・・・・・・・ヤッシュ・・・・・・・・・・・・・

何か、神殿から帰ってきてからシャレの様子がちょっとおかしい。
何かを考えるような素振りをしたり、すこしぼーっとしてたり。
また粒子に酔ったのか?
と思って声をかけてみると、そうではない様子。一体何があったのやら。
仕事が少し空いた時にシャレが

「議長?」
「なんだ。」
「長と話した事あります?」
「普通に話しているだろう」
「いえ、プライベートな事とか。」
「そういうことを聞くような人じゃないだろうに。それに、話してもたぶん乗ってきてくれないよ。」

と俺が言うと、シャレはじーっと俺を見ている。
なんだ、何か変な事言ったかな。

「今度、雑談でもしてみてください。たぶんそれが必要だと思いますよ。」
シャレはそう言って、手元の書類に目を戻した。
なんなんだ、いったい。










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