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ネコ20匹を世話するため、本を書いたりバイク乗ったり。見えない世界ととその狭間を見ながら日常を生活する一人の男の物語。

レムリアの記憶 第一章 <第14話>

2013-05-27 07:23:16 | 『日常』



その日は街にある宿泊所に行って、夜は街を調整している役人の人達の話を聞いて勉強会。
正直「そんな情報端末でいいんじゃないの?」と思うような話だったけど。
食事のあとは自由時間、となる。
宿泊施設は皆同じ建物なので、談話室のようなところに自然と集まって来るもので。
僕も同じ部屋のラットヘッシュとともに談話室に向かう。
「なぁ、あすの自由行動どうする?」
髪の毛を長く伸ばしているラットヘッシュは前髪の隙間からこちらを覗くように見ながら会話をする。その仕草が意外と女子からは不評なのだが、それに気づいてない、というか気にしてないらしい。
「自由行動にどうするって、どう言う意味だ?」
「せっかくだからさ、男女でペアになって動かないか。ってことを提案しているんだよ。」
「何それ?」
「この機会に、女子というものをよく知るためにも、一対一でともに行動すべきだと思わないか?」
また出た、シェラと同じ思考回路のやつが。
と思っていたら
「女子と行動することで新しい思考パターンが生まれてくるかもしれない。そうなると、今度のプログラム実習の時になんか知恵が出てきそうにおもえてな。」
と自分のやっている専門的な話に持っていった。
そういう考え方もあるのか。と思いつつ、単にそれを理由に女子と仲良くしたいだけだろう。

まぁ、でもその提案には乗ってもいいかな。そっちのほうが面白そうだ。

談話室に行って、ラットヘッシュが端末で集合座標を飛ばすと、同じグループの女子たちも集まってきた。
そこで一気に話が盛り上がっていく。
女子もこういう展開を望んではいたみたいで、提案はすんなり通ってしまって。
「じゃあ、くじ引きで行くわよ!」と女子のなかでは一番身長も高く性格も良いため、何かとリーダー的に物事を引っ張っていく役割がついてまわっているスレッタが勢いよく立ち上がって、自慢の縦ロールの髪を揺らして言い放つ。
それでくじ引きで相手を決めて、という展開になっていったのだけど。

かなり盛り上がってしまったので、
それを見ていた他のグループにも影響を与えてしまったみたいで。
なんだか自由行動は「ペアで」という感じになってしまった。

「シェラ、どう?」
と途中で飲み物を買うときに、カウンターで会ったので結果を聞いてみたら
「・・・俺は運が無い。」
という返事。どうやらシェラはセティファムとは組めなかったようだ。
「じゃ、セティファムは誰と組んでるんだ?」
僕が聞くと
「アララ」
あ、グループ討議でも同じメンバーのアララか。ちょっと内心ホッとしてしまう。アララなら、セティファムに気がないから安心だ。
シェラはフッテロットという髪をいつも頭の上に丸くまとめている女のこになったみたいだ。僕も同じグループになったことはないので、ちょっと本人をシェラとともに見にいくと背の低い、かなり幼い感じに見える黒髪の女の子だった。目の色も真っ黒で、何か人形のようにこじんまりとした感じの少女で。セティファムとは雰囲気が全く違う。
シェラの好み、という点で言うとちょっと違う感じか。

「ま、いいじゃないか。可愛い女の子なんだし」
と僕が慰めると
「セティファムと一緒がよかった・・・。」
と部屋に引き上げるまでまだ引きずっていた。
別に一日一緒に行動したくらいで、なにか進展するわけでもないだろうに。
と慰めの言葉と、アララは大丈夫だから、という事を伝えて少し安心させて。

でも、それは僕自身に対しての言葉だったのかもしれない。


翌日、集合場所に集まって先生の端末に行動開始の記録を送って。
そして、グループごとの自由行動が始まった。

で、今日僕のとなりにいるのは
「えへへ、ご縁があるね。」
と言って笑っているのはサラッティ。
こうも一緒になるというのは、何か前世で関係が強かったんじゃないかと思えてしまう。

ギャロットに乗り込んで、内部は2人がけの席になっているのでペアになって並んで座ることになるのだが。
なぜか僕の後ろの席にはセティファムとアララが座っていた。
「今日はふたりで行動するの?」
早速サラッティが声をかけている、
「グループ活動でも顔見知りだから、あんまり新鮮さがないけどねぇ。」
と言ってアララが笑う。
後ろ、シェラが睨んでいるぞ。
「二人は最近、縁があるのね。」とセティファムが僕とサラッティを見て言うと
「何か前世的な御縁があるのかも。」
そう言ってサラッティは微笑んで僕の手を取る。
「あ、ああ、まあ、なんか最近流れが近いよね。」
と僕は言いながらさりげなくサラッティの手をずらしてみたりして。
なんか、セティファムの目が少し厳しいような感じがして。ものすごく居心地が悪い感じがするのだが。

早く目的地につかないものだろうか。

ギャロットの中では微妙な空気感のなか過ごしてきたせいが、外に出たらものすごく空気が美味しく感じた。
「空って、いいなぁ」
なんてつぶやいていると
「何おじさんっぽいこと言っているの?さ、行きましょう。」
とサラッティが手をとって走り出した。
「走らなくてもいいだろうに。」
引っ張られながら言うと、
「早く行って、船の中をじっくり見せてもらいましょうよ!」
と言って笑っている。もしかして、船マニア?

見学する船の内部は、基本ペアで行動になるので、二人ずつで好き勝手に見学して時間以内に戻ることになるのだけど。

今回見学するのはシグルサという星系にいる炭素系生命体の船、だそうで。
端末で調べると、炭素系生命体なんて書いてあるけど要はヒューマノイドタイプ、僕らとおなじような姿の人たち、ということらしい。
乗員達は僕らとは接触しないように、今は街の方へと移動しているのだとか。遺伝的な配列が近いといろいろと病気などのやり取りも発生しやすいから、という配慮なのだ。
なので、こうやって見学があったあとは殺菌を必ず行っている。
遺伝子レベルが近いのも問題で、遠いとコミュニケーションが取りにくくて。
宇宙人と接触する、というのは案外難しいものなんだな。というのを強く感じてしまう。

僕とサラッティは宇宙船のなかを縦横無尽に走り回る。
サラッティはこういう宇宙船の内部構造などがとても好きだということで、システムとかよりも、機械的な仕組みを調べたりすることが得意なのだとか。レル姉といい仲になれそうな感じだな。

宇宙船の全長は4キロほどあって、これでも外宇宙船のなかでは小型サイズ。惑星に降りるために使うシャトルみたいなものだとか。
艦橋のようなものは三角になった先端近くについていて、そこまで移動するのに何か長い乗り物に乗って移動しないと行けない。
僕とサラッティは目の前に来たそれに乗って移動していくと、どうやら車両には二人しか乗っていないようで。

「ふたりっきりだね?」
とかサラッティに言われてしまうとちょっとドキドキする。

で、ちゃんと端末があるので僕らがなにかしでかすとその通りの情報が先生たちのところに行くので。そのような行動にはでる奴はいないのだけれども、ドキドキがそれでなくなる訳ではない。

このペアで行動する、というのは案外精神的にハードなのかもしれない。

最初に提案してきたラットヘッシュの顔が思い浮かぶが。あいつはうまくやっているのか?アララとセティファムはどうなんだろうか?

そんなことを考えていると
「何?ぼんやりして。」
「い、いいや、この列車どうやって動いているのかな?って思って」
と言ってごまかしてみたが。
「この列車はね、磁力で動いているみたいよ。」
とサラッティは水を得た魚のように解説を始めた。
僕らが使うデシックルのように重力ではなくて磁力線がどうのこうのとか、難しいことを語り始めたのでなんとなく聞いて頷いていると、それが楽しいらしく、生き生きと話をしてくれる。
こういう一面は、なかなか学校では見られないからなぁ。
僕はそこまで興味はないけれども、楽しそうに語るサラッティを見ていると面白いので。
それなりに面白く話を聞いて楽しんでいた。

そしてたどり着いた艦橋は、ものすごくシンプルで。座席以外何もない、という感じだった。
「これでどうやって動かすのだろう?」
機械の情報ネットに端末をつないでみると、艦橋の動きを動画で見ることができた。
それによると、座席に座ると立体映像で周囲に画面が現れる感じで。
その画面に触れることで操作を行っていくらしい。
艦橋全体が端末の画面と同じ状態になっているということか。

「ほとんど自動化されているし。あとは、事故のときに突起物がないほうが生存確率が増すから、というのもあるみたいよ。」
端末の動画を見ながらサラッティは解説してくれるが、僕は窓の外から見える風景に釘付けになっていた。

宇宙船の艦橋から見えるのは、周囲に並ぶいくつもの宇宙船。
それが地上で整備され、飛び立つ順番に空港の滑走路へと移動されていく。
巨大な宇宙船がゆっくりと動く姿は壮大で。地上でみるときよりもその距離感の近さに圧倒される。

こんな船に乗って、宇宙へ出るというのはいったいどういう気持ちなのだろうか?
この港の先には何があるのだろうか?

「ホント、男子はこういうの好きね。」
そう言ってサラッティが横にやってくる。
「宇宙に飛び立つ、それはやっぱりすごいことじゃないか?憧れるよね。」
僕が言うと
「未知の世界に足を踏み込むのは、あんまりあなたには向かない気もするけどね。」
「そうかい?」
「アレットは、安定して家族と暮らしているのがちょうどいい感じ。」
そう言ってサラッティは笑っていた。
人から見られるとそう見えるのだろうか。僕は。
「アレットは優しいから、宇宙船とかそういうので外の世界にでると潰れてしまいそう。」
サラッティはそう言ってちょっと目を伏せる。
「僕はそんなに軟弱じゃないさ。」
「ううん、軟弱とかそういうのじゃなくて・・・。優しいの。」
サラッティはそう言って僕の横にすっと近づいて。
「だから、私のお父さんみたいになっちゃうんじゃないかって。ちょっと心配。」
と言って遠くを見ていた。
「お父さんって?船に乗っていたのかい?」
「うん、宇宙船に乗って宇宙に出ていたの。」
「それはすごいな。」
「でもね、事故で死んじゃった。それもお父さんだけ。」
明るい口調で言うが、目には悲しそうな色がにじむ。
「みんなを逃がすために、最後まで残っていたんだって。同じ船に乗っていたひとも、みんなお父さんを悪く言う人はいなかったし。優しくて素晴らしい人だったって、みんな言うの。」
「それだけ慕われていたんなら、サラッティの自慢のお父さんだね。」
「うん。そう。」
そう言ってサラッティは僕を見上げた。
「お父さん、アレットに似ているんだ。」
「どこが?僕はそんなに立派じゃないよ。」
「雰囲気ね。だから、私はアレットが気になるの。」
「それは、ありがたいのかな。」
僕は自分の心を隠すように、視線をそらして遠くにある宇宙船を見た。
父親に似ている、か。

今まで言われたことが無いので。何とも反応に困る。
これは、好意をもっているという表現なのか。それとも単に父親の面影を追っているだけのことなのか。

しばらく無言になっていると、ちょうど別の数人が艦橋に来たので、
「じゃあ、今度は他のところ見に行こうか。」
とサラッティを乗りもののところへと導いた。
いいタイミングで来てくれた。ありがたい。

ところが、結局また2人っきりになってしまって。
「だから、アレットに歌作ってもらって、本当に嬉しいの。」
とサラッティは笑顔で言って、音楽の入った端末を取り出してくれた。

その笑顔を見て、僕は心が少し痛んだ。

そして、今度は最後尾のエンジンルーム、と船内をふたりで時間一杯くまなく探索して。
タイミングが合わなかったのか、セティファムやシェラ達と会うことはなかったなぁ。





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