僕らが通されたそこは、薄暗いところだった。
ぼくらを載せたギャロットはゆっくりと地下にある施設へと入っていく。
「なんでこんなに暗いの?」
周りの風景を見ながら、サラッティが僕に聞くが
「宇宙人は太陽が苦手なんじゃないの。」
と答えてみるとそれに納得したようだった。
適当だったんだけどなぁ。
次第に暗くなっていって、道の両側にあるオレンジ色の明かりだけがほそぼそとと灯っている感じ。
長いこと走っていたので、海の底まで来たんじゃないかって感じだけど、
到着したところは普通の宇宙港にある建物の中みたいな感じだった。
今まで地底を走ってきた風景がなければ、その前にいた場所とそんなに変わらない。
皆でギャロットから降りて、指定の場所まで徒歩で移動する。
そこは青白い金属で周りを囲まれた空間で、そこに1本の細い道が奥へと続いている。
「はい、ここからは一列にならんで歩いていってよ。」
とセデック先生が声をかけて、皆を一列にまとめていく。
なぜか一定の間隔をもって歩いていくのが不思議な感じ。
そして、通路の先は広くて明るい空間になっていて、入ってくる時の無機質な感じではなくて、もっと暖かな、より自然な感じの光と空間だった。
「ここの光は、アルファ・サンクテウル星系の恒星から降り注ぐ光と同じもので、サンクテウルの恒星は太陽とほぼ同じだから。私たちでも問題なくそのまま過ごせるのよ。」
とはセデック先生。端末にはその星の情報が一気に流れ込んでくる。
全員が通路を抜けてきて集合してみると、なぜか人数が少し少なくなっているように思えた。周りをみてもシェラがいない。
おかしいな?と思って端末で探すと、なぜか別の部屋に移動している。シェラだけでなく数人の男女がそっちに移動させられているようだった。
?
疑問に思っていると
「今通ってきた通路は、君たちのもっている細菌のDNA検査とか病気やウイルスのチェックを行っていたところ。それに異常が見られたものは現在処置室に移動している。あとで合流するから先の謁見の部屋に移動しておきますよ。」
と先生が言う。
ただ歩いてきただけだったので、そんな調査されているなんて思ってもいなかったが。
謁見の部屋、と言われる場所に全員が入る。100人くらいが入るので結構広い部屋だ。ここでは会議とかそういうことが通常は行われているらしい。
部屋の色は基本的に水色で、硬質のガラス質のものが各所に埋め込まれていてそれが美しく光を跳ね返している。丸い部屋の中央天井には何か幾何学的な模様が書いてあって、あれはこのサンクテウル星の基本シンボルなのだそうだ。
この部屋の各場所にシンボルをかたどったものがおいてあって、その配置にも意味があるということが端末に表示されている。
それを見ていると、となりにシェラがやってきた。なぜか鼻と口を覆う大きなマスクをはめている。
「お、なんか病気もってた?」
と僕が聞くと
「そんなことあるか。俺の家系にある遺伝子がサンクテウルの人に影響与えそうなもの持っていたんだってさ。だから、唾液とか周りにかけないようにしろってこと。そんなにつば飛ばして話したりしないと思うのだがな。」
とくぐもった声で答えてくれる。遅れてきた人の中にはほかにもマスク姿も見られるので、同じような理由でさっき別の部屋に連れて行かれたようだった。
「唾くらいで遺伝子にまで影響あるのかな?」
「直接かかっても問題ないが、間接的に吸血生物が媒介したり、ウイルスが媒介することはありえるそう。だから、そういう薬も飲まされたよ。」
声にうんざりした感じが出ている。
「まぁ、退場にならなくてよかったじゃないか。」
と少し慰めていると今回旅行でついてきた先生のなかで、一番えらい人。男子学校の副校長をしているアロック先生が前に出て話始めた。この人は50歳くらいの女の先生で。少しふっくらとした優しい感じのする人だ。
これからサンクテウルの地球滞在責任者がいろいろと話をしてくれる、ということで。
それをしっかり聞いておくように、的な内容の事だった。
ま、こんなのは端末使えば一発なのだけど、ある種のセレモニー的なものがあるのでわざわざ前にでて話している感じ。
そして、中央の通路からサンクテウルの人が現れてきた。
一瞬息を呑む。
てっきり最初に会う宇宙人なので、ヒューマノイドなかんじかと思っていたのに。
いきなり爬虫類系の人だったからだ。
背が高く、細長い体つきで。赤や緑の強い原色の頭からかぶるような服を着ている。
体の表面は少しヌメっとしている感じがしているけど、ウロコの光がそう見せている感じ。
実際にヌメヌメはしてないのだろう。
たぶん。
体の色は青い色で、目も大きく、鳥の目を連想させるような感じ。とはいえ体毛は一切なく、ウロコで全身が覆われている。
大きな目と小さな頭部、それに細長い体つき、という感じなので動きがゆったりとしていて。仕草に高貴な感じを受けてしまうのが不思議なところだ。
先生と並ぶと僕らのほうがなんか、原住民的に見えてしまう。
いや、原住民ではあるんだけど。
その人物は大きな目でボクらを一通り眺めて少し口の端を持ち上げて。
椅子に優雅に座った。
あれは、ひょっとして愛想笑いしたのかもしれないなぁ。と思っていると。
笛のような響きの音が聞こえてきた。
それは先ほどのサンクテウルの人のほうから聞こえて来る。
同時に端末に言葉が現れてきた。
どうやら、この笛のような音がこの人の言語で、それを同時に端末が通訳しているらしい。
「こりゃあ、夜道でいきなり話しかけられても言葉とは思えないなぁ。」
とシェラが言っている。確かにそうだ。僕らの認識では言語に聞こえない。
端末を見ながら、話している内容を理解していく。
どうやらこの星の人は、前置きのような話の持って行き方はなくて、いきなり本題に入って一方的に話す感じ。
なぜこの星からやってきて今、こうやって地球で過ごしているのか、とか。
レムリアに滞在している時に何をしているのか、とかそういう話がほとんど。
銀河の中央からは成長を促すエネルギーが常に放出されていて。数十億年の時間を費やしてそれは銀河の端っこへと到達する。その際に、成長を促すエネルギーが集積するポイントがいくつかあって。この地球もそのうちのひとつになる、ということだった。
アトランティスの塔がこの星にたどり着いたのも偶然ではなくて。
前の宇宙からの記憶を持つそれは、銀河のエネルギーの流れを全てシュミレーション出来るほどの情報をもっていたため、最も情報を転写しやすい星系、星にたどり着くようプログラムされ送り出されてきたということ。
そして、この星では成長を促すエネルギーが自然と集まるので、自然発生的にも生物が生まれ。それ以外にも、作られた存在達も共に混じりあえるような状況も寛容に受け入れていた。
これは外からきた存在、宇宙人にとっても都合の良いことで、惑星が生命を拒否しない場所、というのは貴重であって。
それで、宇宙人たちはこの星へとポイントを作って、様々な調査研究、エネルギーの集積、配送、などの事を行っている。
基本的にこのサンクテウルの人たちは学者が多いらしく。このような地下施設にいるのも地球の持っているエネルギーと、銀河の成長エネルギーについての研究を行い。
自らの星が成長するための情報を集めているということだった。
一回聞いただけではよくわからないので。あとで調べながらまとめよう。
と思いながら端末を見ていると、後ろからつつかれた。
振り向くとサラッティがいて。
「これ終わったら、あとで3-23-5の角に集合よ。」
と言葉で伝えてくる。
了解、と手で答えてまた僕は端末に意識を向ける。
こうやって全部リンクしている時に端末でやり取りをすると、いくら秘密にしていても先生に見つかってしまうのだ。
こういう広い会場のときは、こそこそ話のほうが逆に見つかりにくかったりする。
宇宙人との初遭遇は、一方的な講義で終わってしまって。
思ったほどの接触感はなかったけど、それなりに感動はあったかなぁ。
見た目はかなり違っても、知的な雰囲気は伝わるもので。あの優雅な姿も記憶にしっかりと残っている。何の生物をベースに進化しているのか興味が湧いたので端末でちょっと調べてみたら、見た目通り爬虫類をベースに進化していて。体内に熱量を蓄積しなくても活動出来る惑星のため、体温は外部気温に合わせて変化する種族ということだった。
なので、優雅な動きに見えたのは体の温度が冷えてくると動きがゆっくりになるらしく。
地球の環境はサンクテウルの人にとっては寒いらしいので、全体的にゆっくりとした動作になるのだそうだ。
動画でサンクテウルで行動する映像もあったので見てみたら、意外とシャキシャキ動いていて。
なんだ、基本は優雅な動きじゃないんだ。
と微妙にがっかりしてしまった。
こんなに環境が変わる世界にくるのも、楽じゃなさそうだけど。
それだけの何かがこの星にはあるのかなぁ。
そしてまたあの長い通路を戻って、
「どうせなら、超美人のヒューマノイドがよかったなぁ。」
とマスクを外したシェラが言うので
「美人でも宇宙人は宇宙人だろう」
「集中力が変わってくるさ」
という会話を行ったりしていた。
その後ギャロットが到着するまで時間が少し空くので、それぞれに自由行動になるのだが、
僕は端末を見てこの広場の地図を確認する。そして、3-23-5の角へと行くと、そこにはすでに同じ班の連中が集まってきていた。
「で、なんで、わざわざ集合?」
僕が聞くと、サラッティが
「明日、私たちが決めていた自由行動のルート、そこがね、急に閉鎖になったんだって。遺伝的な変化物質がそこに侵入してきたからって。」
そう言って端末に情報を送ってくれる。確かに、施設閉鎖になっていた。宇宙船博物館、楽しみにしていたのになぁ。
ここに行こうとしていたグループは、みなルート変更を余儀なくされているらしい。
「こういうことってあるんだなぁ」
「あれだけ厳重にやっていても、やっぱりたまにあるんだって。地球に来るのは、ある特定な宇宙人にとっては危険な場合もあるみたい。」
そこまでして、なんでこんなところに来るのやら。そのあたりもあとで調べてみないとな。
そして、ルート変更になったグループ同士で連絡をとってみると、
「なんだ、お前も同じ境遇か。」とシェラからの連絡。
2グループ以上集まるとギャロットが借りられるらしいので、シェラのグループと宇宙船の内部見学に行くことになった。
内部見学は寄港している船によって異なるので、あまり実施されていることはないのだが。今回施設閉鎖の影響で、で船が飛べなくなったのがいくつかあるらしく。そのうちの大型船内部を見学させてくれる、という情報があったのでそこに申し込んだということだ。
船の内部見学か、これは楽しみであるな。
それに、セティファムとも行動ができるので、少し楽しみが増えた気がする。
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