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ネコ20匹を世話するため、本を書いたりバイク乗ったり。見えない世界ととその狭間を見ながら日常を生活する一人の男の物語。

アトランティスの記憶 <終末期 24 >

2013-04-04 09:31:06 | 『日常』



その頃、中央ではお祭りのようなにぎわいを見せていた。
屋台が立ち並び、シェズを称える垂れ幕が下がり。
すべてが「粒子技術」の復活を祝っていた。

事前のテストでは何の問題も無く粒子は国中に放出される事は確認されている。
機械の動きも完全である。粒子を循環させるエネルギーとして、古代は太陽の光を使っていたらしいが、今は古代からある結晶の建物を切り取り、それで作った太陽電池により光をエネルギーに変えて塔へと送り込んでいた。

粒子の塔内での循環も順調であり。

何の問題も無い。

アレスはそこまでチェックして、コントロールルームから一旦外に出た。
制御室にはロールンが居て、いつものお茶を入れてくれていた。
この一杯で心が落ち着く。

すべては順調である。
アレスは、粒子技術の復活を確信していた。

午前8時

シェズは演説のために原稿を何度も読み、頭に入れておいた。
あとはその時の勢いでしゃべるとそれらしくなる。

そして、自分が歴史に残る瞬間なのだからと。メイクをする人、衣装を選ぶ人、それぞれが総動員され、最高のビジュアルで人前に立つために労力が費やされた。

塔に作られた、特別ステージ。
本来塔の外壁にはそのようなものは無いはずなのだが、シェズがそこにステージを作り上げた。
これまで、塔には誰も手を入れてはいけない、神聖な場所であったのだが、
シェズはそのタブーすらも無視していた。
これからは迷信のような儀礼神官の言うような事ではなくて。実際に粒子を使った、実益のある社会作りが必要なのだ。
労働者階級とか支配階級とか、そういうものはすべて失くして。
人が人として、平等に存在し得る社会。それを作るべきなのだ。

シェズはそう思っていた。
過去のしがらみを外して、すべての人が共に使える技術で国をまとめて行く。
共有する技術で世界がまとまる。

これまでの社会体制を大きく変え、新しい世界を作る。
そのための粒子なのだから。

今の一党独裁政権も、変化のために力を集めるための仕組みであり。
変化が安定したらこの政権も変化させていくことを考えていた。
シェズの頭には、10年後の自分の未来までも頭に浮かんでいた。
一党独裁から、政党政治に分けて。地方自治を促進させる。
新しい憲法を作り出して。植民地にも自治権を与え、そしてアトランティスという国をもっと広い範囲に広げていく。

自由な貿易、自由な思想。自由な交流。
それにより、長きにわたっての国家の安定。

それを作り出すためにも、今はこの役割を果たさねばならない。
独裁者という顔も、これからの未来を作るためには必要なことなのだ。

シェズは自分の思う理想を果たすため、権力と力を手に入れてきたのであった。
それは自由と平等を人々に分け与えるため。
幼き頃に自分が体験したことを、だれも体験しなくてすむような世界を作り上げるため。

シェズにとって権力は、そのための道具であった。
ステージの前で、シェズははるか先の未来を見ていた。
その第一歩が、ここから始まるのだ。


午前10時

アレスはコントロールルームにスタンバイする。
オペレーターが貼りつき、そして粒子を動かすためにプレーター達、新しい26の存在と言われるメンバーも「粒子の間」に準備する。
補助動力からメインに動力を伝達した後に粒子の放出となるのだが、ここは踊りによる情報粒子の操作が必要になる部分なので。
粒子の状態を感じながらプレーター達に踊ってもらう事になっていた。
テレビではシェズの演説が流れはじめていた。
計器のチェックをしつつ、それを横目で眺めるアレス。
そう、ついに、動き始めるのだ。
アレスの横にはシェズの押したスイッチから来る信号がともるランプが置いてある。
塔の上にあるステージで演説後、塔の前にある広いステージ上でセレモニーが行われ、そしてボタンが押される。

すべての状態は良し。

シェズがいつ押しても大丈夫なように準備は整った。

シェズは塔の上にあるステージに登り、下を眺めた。
下には何万という観衆があつまり。
そこにはすべての人々の笑顔があった。
シェズを称える歌が流れ。

そして、シェズは集まった人々に手を上げて答えた。
すべてのテレビが同じ内容を流し、すべてのメディアが写真を撮影し。
そして、国中の目がそこに注がれていた。

この瞬間を、俺は忘れないだろう。
シェズは心にそう誓い、息を大きく吸った。
これから、始まるのだ。

新しい、歴史が。

演説は国民の心に響き渡った。
すべての平等のために。そして永遠の発展のために。
数万の拍手がそれにこたえ、シェズは手を上げ、それに答え続けた。

シェズは下の広いステージに上がり、そこでセレモニーを行う。
楽団の演奏、有名な人々の演奏や歌、踊り。
そして、古代の舞いを踊る美しい少女達。
この舞いはフルカ達があの時踊っていたものであった。
石版の記録から導き出された踊り。

セレモニーは過ぎて行って。
そして、ついに稼働の時間。

午前11:50

アレス達には緊張が走っていた。
すべての画面に粒子の状態が写しだされ。補助動力、メイン動力の作動状況をすべてチェック。

「補助D、正常」
「補助O、正常」

「26から32番管、すべてグリーン。」
「128から169まですべてグリーン。」

オペレーターから数値が読み上げられ、コントロールルームが活気づく。
アレスを中心に、制御装置ごとに区分けされたブースに責任者が一人ずつ座っている。

それらが、一人一人、OKサインを上げて行く。

最後の塔の内部を担当する部署がOKサインを掲げた。
すべての準備は整った。

あとは、シェズからのサインを待つだけ。
テレビの画面では、シェズがスイッチに向かい歩く様子が映しだされていた。

インタビュアーから質問を受けてそれに笑顔で答えるシェズ。
アレスはその瞬間を待った。
この瞬間のために、すべてをささげてきたのだから。

午前11:59

ついに、シェズがスイッチの横に立ち、それを見守る観衆。
シェズも息を飲む。
この瞬間から、自分の理想がスタートする。
さすがに緊張する。そして、大きく息を吸い、

「では、世界の変わる瞬間を皆さんと共に」

その声と共に、スイッチが押された。

午後0:00

コントロールルームにランプがともり、同時にアレスがメイン動力のレバーを上げた。
補助動力装置が唸りを上げ、回転する様子が映し出される。同時に塔の内部にあるすべての機関が動き始める。
その操作はプレーター達の踊りにより行われていた。

「粒子の間」ではプレーターが踊り、そしてその動きはすべてモニターされ。
動力の伝わり、粒子の動きがすべてかくにんされていた。
順調だ。
すべては何も問題は無い。

粒子がメインの循環装置に入り、そして排出口を伝って、国中にそれが放出され始めた。

すべての排出口は安定し、何のトラブルも無い。
プレーター達にも異常はない。

そして、すべては正常に動いていた。

アレスは笑顔になった。そして、そこにいるすべての人々と握手をする。
コントロールルームが歓声に包まれる。
そして、外の民衆も歓声に包まれていた。
シェズはそれに手を上げ答える。


国中が、すべてがうまく動いていた。

午後0:05

脱出組が動き始めた。箱舟はカタパルトに載せられ、地底から地上に向けて移動する。
すべての箱舟が地上排出用カタパルトに載せられた、
すべて自動で行われ、それを操るのは26の存在達。

「シャーギル」「スフェンソ」「アリュー」「シェラシン」「エドレヌ」「スケンシーグ」「スレーソフ」「ヨレフォス」

達の船が先にカタパルトに乗る。
フルカ達と、そこに来た26の存在の4人
黄金の翼を持つ「ファレスタン」という白い髪の存在。
青い翼と金の髪を持つ「テゥロス」という存在。
赤い髪と赤い翼を持つ「セファレット」と言う名の存在。
まっすぐな脚元まである長い金髪をなびかせる、「スルェイン」という名の存在。
それらと共に、フルカ達は待っていた。

先の船が出港して、その後出発する予定になっているからだ。

赤茶色の箱舟は、ゆっくりとカタパルト上を移動し、地上へと運ばれる。
今は海底の底となってしまった部分にその出口はあった。
エアロックのように箱舟はそこで一旦閉じられそこから水が入ってくる。
その空間がみたされてから、一気に海面上に船は放出された。

8つの巨大なクジラが水面から飛び出すように、勢いよくすべての船が水面に現れ。そしてゆっくりと海原を進む。

その様子を見ていた海軍は攻撃を加えるべきかどうか上層部に連絡をしたが、
今はセレモニー中、と言う事で攻撃の許可は下りなかった。
しかし、すべての船の先頭に立つ、翼を持つ存在の姿を見た時、
戦意は皆の意識から消えていた。

「・・・26の存在」
伝説上の存在を目にして。


箱舟は存在達の導きによりゆっくりとそれぞれの方向に向かって進みだした。
南米、北米、アジア、オセアニア、北欧、地中海。

それぞれの地域へと旅立ったのであった。

その後、カタパルト上には4隻の船が乗って出番を待つ。
26の存在の一人、自分の船の担当になっているセファレットにフルカはいつになったら出発するのかと聞いてみると、セファレットは
「ヤベーへからの連絡待ちです。」
と妙に事務的に答えた。

26の存在、というと何か神々しく、もっと崇高な存在かと思っていたフルカは、その答え方に何か親近感を覚えてしまった。


午後 2:30

箱舟の出現はシェズの耳にも入ったが、脱出しようとする者はそのままにしておけばいい、後で追いかけて行って連れ戻せばいいのだから。
と思っていた。
何か混乱が起こった時にネタにさせてもらうか。
そんな事を考えていた。

シェズはセレモニーの終了後、塔の内部にあるアレスのいるコントロールルームに足を運ぶために移動を始めた。もちろん、カメラを数代引き連れて。


アレスは、国内への粒子散布濃度をチェックしていた。
すべての濃度が均一になるように調整する。


現在は順調である。
何も不都合は存在していない。

基準値は「粒子の間」の半分くらいで設定をしてあった。

問題は無い、1つ問題があるとすれば、シェズがこれから来る事くらいか。
アレスはそんな事を考えていた。
それくらいすべての動きは順調であったのだ。

シェズの到着予定時刻は2:45
それまでに出迎えの準備をせねば。

アレスが席を立とうとしたその時、小さな警報音が聞こえてきた。

「どこだ?即報告せよ。」
アレスが言うと、警告音を聞いていたオペレーターから連絡が来る。

「粒子循環装置の、この部分に発熱している部分があるのですが。」
とモニターにある一部を指差して示す。

これまでの動きでは発熱したことなどなかったのであるが、
そこの映像を出す。
循環装置の、その部分は力粒子の場所であり。
外部から戻って来た力粒子が一時的に入りこむ場所であった。

「発熱の原因を」
プレーター達にその原因を探るよう命じる。
額にあるプレートとハートに置いたプレートを使い、その情報を集めていった。
すぐに答えが返ってくる。

「力粒子が、外部から戻ってくる際にエネルギーが過剰に蓄積したまま戻ってくるので、それで加熱している模様です。
なので、力粒子のエネルギー放出量を設定し直せば問題ないと思われます。」

そういう事ならば、と粒子に対してエネルギーを送り込む装置のパラメーターを操作する。
力粒子のエネルギー値を低下させていく。
同時に、発熱の部分も消えて行った。

スタジアム実験の時もこのようなことは無かったのだが。国中に満たそうとする事で、少しの変化が大きく出るのかもしれない。

また警告音が聞こえてきた。
今度は、情報粒子の部分からであった。
同じように対処し、パラメーターを操作する。

粒子を扱う、というのは、この操作を一日中しないといけないのか。

そう思ってため息を1つつくと。
今度は粒子保管庫から連絡があった。
「今、力粒子が過剰蓄積中。その原因を探られたし。」

プレーターによりその原因を探ると、エネルギー低下により、量を集めないと結晶化しなくなっていると言う事であった。

そこで、エネルギー値をまた操作する。
その瞬間、粒子保管庫の映像が消えた。

カメラに何かの異変が起こったことが考えられた。しかも通信も使えない。
「プレーター!」
とアレスが聞くと、原因は分からないと言う事であった。
粒子保管庫には、シルバーコートを着て入っているので、粒子の何かであっても問題は無いはずであるが。

すぐに軍のメンバーがそこに行く。
同時に、鈍い音が響いてきた。
「なんだ?」
「今度は、力粒子の循環装置が破損した模様です。」
モニターには、その周囲で右往左往するシルバーコートの人々が映し出されていた。

「粒子は、力粒子はどうなった。」
「現在、室内に漏れている模様です。」
「すぐにその部屋を遮断。空調もカットだ!」
そこにプレーターより連絡が入る
「力粒子が暴走を始めた。外に出る、注意必要!」

「放出口をすべて閉じろ!」
「ダメです、力粒子の動きのほうが早すぎます。」

「なんという事だ。前の時と同じじゃないか。」

アレスは茫然とした。
力粒子の暴走。
それはすぐに塔全体に伝わり、シェズにも連絡が行った。
「何?こんなときにそんな失態をして。アレスは更迭だな。」

シェズは怒り、そして車へ乗り込み、行き先を議長官邸へと変えさせた。
カズール達反体制派を捕まえるほうに、計画変更だな。

シェズはすぐに次の事に意識を向けていた。
今回の粒子暴走も、外に言わなければ問題ない。
塔の内部ですべて方がつけば大丈夫だろう。

シェズはそのように考えていたが。
事態はもっと深刻であった。






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