11/9 似ていた 第9話
京太郎は和彦にすごく勇気づけられた。
でも、優子とさらに前進する行動には移らなかった。
優子との付き合いは程度は他にもたくさんあった。
東京だけでも幸子、樹梨、華、京子、真理 等々 いた。
繰り返す、東京だけでも。
京太郎はCMを製作する会社にいたから時には有名な俳優とかタレントと
一緒にいることがある。
美男美女といるのは慣れていた。
個人的につきあっている女性陣も美しい人が多かった。
京太郎にとって美しいことは人生をともにする理由にはならなかった。
京太郎の元妻は当時は可愛い人だった。
年より若く見えて、若いのに料理がうまくて
京太郎はその可愛さ、家庭的な元妻にほれ込んだ。
あの頃はまだ家庭に憧れがあったかもしれない。
元妻も京太郎に惹かれた。
どこがいいのかわからなかったけど、
京太郎の体もセックスも好きだった。
でも結婚すると、本来の怠け者の地が出た。
京太郎が出勤するとベッドに戻り、時に夕方まで寝ていることもあった。
洗濯機は汚れたもので一杯だった。
シンクも汚れた食器で一杯で夏なんか臭いを発していた。
子供が生まれるとさらにひどさが加速した。
別れる決心をしたころ、2人目を妊娠した。
2人目は女の子だった。
その子がが一歳近くになるまで我慢したけど
これ以上増えたら離婚なんて不可能と思い、断固離婚に踏み切った。
別れてみると、元妻は生活費とセックスだけが欲しかったんだと思った。
京太郎を追う気なんて起こらなかった。
でも金は必要だった。
京太郎に電話をしては金をねだった。
そんなときに電話越しに聞こえた娘の悲鳴。
京太郎は出張からもどると元妻のところにかけつけた。
金を渡すより先に抱きついてきた元妻を満たした。
元妻がげんなりするまでしてやってから、
子供に手を出すなとこぶしをあごに当てた。
あのとき、2、3発殴ってやればよかったんだ。
金を置いて京太郎は去った。
京太郎が優子にしろ、幸子にしろ結婚に踏み切れないのは
結婚の悪い面が拭い切れなかったかったから。
そこには自分はまた同じことをやるのではないかという強迫観念があった。
京太郎は女の前ではカッコいいプレイボーイを演じ
会ったこともない他の女への競争心をあおり、
ふられるかもしれない恐怖心を炊きつけた。
京太郎はある地方町の小さなバーで昔の出会ったばかりの元妻に似ている
若い女にあった。
学生? 学生じゃないわで始まった会話。
そのバーでかなり飲んでそれから誘われるままに彼女のアパートに行った。
元妻の若いころになにもかも似ていた。
年がいもなく何度もやってから、さらに抱き着いてくる女の
首に手が行った。
このまま付きまとわれてなるもんかと思った。
そしてどうやったか思いだせないけど
気がついたときは女は動かなくなっていた。
まだ2時半ごろだった。
京太郎は手ぶらで来てよかったと思った。
ホテルに戻ると翌朝チェックアウトの時間ですよと電話で起こされるまで
眠っていた。
チャックアウトをし、そのまま東京に戻った。
当日から仕事に追われ、あの夜の女のことなんかまったく思いださなかった。
それから何件、殺人事件があっただろう。
あちこちで殺人はあったけど、あちこち過ぎて、誰も同じ犯人をを疑う人はいなかった。
京太郎は知らないうちに地方の女は地方で処分することに決めたのだ。
うとましかった。
幸いにして優子も真理も幸子も結婚をせがむ女ではなかった。
京太郎が久しぶりの昼食に優子の家を訪ねたとき、優子はまだ寝ていた。
京太郎、姉ちゃんを起こしてきてよ
とお腹を空かせた和彦が言った。
京太郎は初めて2階に上がり、優子の部屋のドアをたたいた。
音がしない。
もう一度たたいた。
返事はない。
そっとドアを開いて見た。
優子が向こうを向いて眠っていた。
足音をしのばせて入ってみた。
優子の寝顔を覗き込んでみると、口をやや開けてぐっすり眠っていた。
優姉ちゃん、京太郎が来たよ と和彦の口調で言った。
聞えていない。
もう一度言ったところ、京太郎? って優子がつぶやいた。
そうだよ と耳元で京太郎が言った。
目を開けた、そして顔を覗きこんでいる京太郎を見た。
優子はニヤっと笑った。
起きなさいよ、今何時だと思っているの と京太郎が言った。
僕が朝早くから仕事しているのに、
優子は寝ているのかい?
優子はまゆをしかめて、頭をかきかき起き上がった。
パジャマの前のボタンが外れて胸が見えていた。
それから私だって、夕べは遅くまで仕事したんだからと言いながら
京太郎のほうを向いた。
なんでいるのよ?
昼飯に来たんだ。
和彦が起こしてこいって言ったから・・・
優子は知らないうちに京太郎が家族とすごく親密になったと思った。
京太郎は優子の着替えを手伝った。
それから京太郎は先に階下に行った。
和彦が優ねえちゃんは?と聞いた。
今来るよ。
京太郎は夕べの残りものの昼飯をみんなと食べ、
会社に戻ると帰って行った。
夕方になって優子が訪ねてきた。
京太郎はまだ仕事をしていたけど
6時半を回っているのを見て、
ちょっと僕んちにお出でよ。
と、エレベーターで建物の5階に行った。
降りるとドアが2つあって、そのひとつを開けると
ここが僕んちだ。
中はきれいに片付いていた。
部屋は2つ、それからキッチンと浴室、トイレだった。
家具は最小限だった。
京太郎は室内を見せてくれた。
通勤時間の節約でここに住むことにしたんだ。
すごくいいアイディア。
優子は片道40分の通勤時間を考えた。
ソファというか座布団のようなクッションを並べて長椅子があった。
これは便利なんだ。
眠っても差支えない。
何飲む?
冷蔵庫を開けて聞いた。
自分用にビールを出した。
私もビールでいいわ。
食器棚からステキなグラスを出して優子に渡した。
寝室はセミ・ダブルのベッドがあった。
壁中本棚だった。
リビングに戻ってビールを飲みながら京太郎はテレビをつけた。
ニュースをやっていた。
どこかの町で殺人、
嫌ねー、こんなニュースばかり。京太郎が言った。
それからテレビを消して、今夜はどこで食べると聞いた。
ここは冷凍食品しかなんで。
僕は何か人間らしいものを食べたい。
冷凍食品は量も少ないし、味も共通点があるんだ。
何食べても同じだ。
優ちゃん、料理できるの?
優子はできないと即答した。
できるのは、サラダと肉じゃがとカレーと
そういうの料理って言わない。
と、京太郎が無愛想に言った。
あらそう!! 男の人、肉じゃが好きじゃないの?
どの女も肉じゃがはできるんだ。
他のものを習いなよ。
冷凍食品の人に言われたくないわ。
僕だって作る気になれば作れるサ。
何ができるの?
京太郎はちょっと考えて、カレーと言った。
2人で爆笑した。
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