昨年のスキャンダルから再起をかける市川中車(香川照之)に加え
その妻役は、先月の事件の影響で、4代目市川猿之助から
配役変更で中村壱太郎に。
初日を迎え、評判がかなり良いので、急遽チケットを取りました。
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ところで『傾城反魂香』「土佐将監閑居」の主人公
浮世又平は、「吃音症」の設定です。
今日では、程度により障害者手帳取得も
可能な症状の一つです。
本作が、特定の疾患(障害)を題材にしていますが
差別への苦悩や、支え合う夫婦愛、又平の意外な特技等を描いており
現代に通じる、普遍的な内容だと感じました。
(ただし古語である特性上、一部は今日では差別用語もありました)
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吃音症の絵師である又平(市川中車)には、
おしゃべりな妻おとく(中村壱太郎)がいる。
又平は、師匠を見舞いに訪れたが、
「土佐」の名字を授かることが叶わない。
そこに農村の村人たちが虎を追ってやって来る。
又平の弟弟子修理之助(市川團子)が、
絵から逃げ出した虎に対し、宙に虎を描き
見事に退治し、この功で土佐姓を授かる。
弟弟子に先を越されたばかりか、農民に侮辱される。
序盤のかなり長い時間、又平には台詞がありません。
上手く話せないもどかしさや、屈辱的な仕打ちを
台詞なしに表現する中車は、さすが現代劇の名優だと思いました。
最初に話し出すところでは、観客にも笑いがあり
残念ですが、多くの方が「差別する側の視点」で観ています。
又平夫婦の登場タイミングは、今回は澤瀉屋型であり、
一般的な音羽屋型と異なるそうです。
初代猿翁はこの澤瀉屋型を演じ、一方の
現猿翁(3代目猿之助)は合理性やリアリティからこれを廃し
澤瀉屋としても久しぶりだそうです。
(※詳しくは市川猿三郎さんブログをおすすめします→記事)
さらに雅楽之助(歌昇)が現れ、
誘拐された姫君の窮状を伝える。
師匠は吃音の又平にも、若い修理之助にも
姫君救出に向かわせることを躊躇う。
又平は強く姫君救出の任を願い出るが、これも聞き入れられない。
結局、修理之助が遣わされるが、又平は修理之助に
すがりついてまで、激しく同行を願い出る。
修理之助は又平を振り切って、救出に向かう。
師匠も退出する。
中車の熱演が圧巻で、涙を流しながら無念さ悔しさが
吃音の台詞と共に、ここぞとばかりあふれ出てきます。
修理之助も、又平の激しさに困惑した様子(の演技)。
歌昇が、場面は短いのですが、激しい動きや見得で
重厚な芝居の中で、印象に残ります。
それにしも、ジャンプしてお尻から落ちる振りは
(そう見えないけれども)痛そう…
夫婦二人きりになると、絶望した又平は死を決意する。
おとくは師匠の筆と硯を借り、夫に手渡す。
又平は手水鉢に自画像を描くと、それが反対側に映る。
いよいよ死のうと、おとくが水盃を交わすため
手水鉢に向かうと、
絵が反対側に抜けていることに気づく。
これをコミカルなやり取りで又平に伝えると、
師匠が再び奥から現れ、又平の技能を認め、土佐性を授ける。
修理之助とのやり取り以降、
死を覚悟した夫婦のやり取りに、観客席も静まり返り
「差別される側」に共感して中車に引き込まれていきます。
二人が見つめ合い、おとくが死を共にする決意を述べるところなど
夫婦の強い信頼関係を感じさせる演技でした。
おとくが小声で「お借りいたします」と、筆を借りるところも、感情移入しながら観ました。
ただ、おしゃべりで早口な役柄もあいまって、
僅かに台詞が聞き取りづらいところもありました。
長い間、重厚な演技が続いたところで、手水鉢の奇跡に気づいたところから、
コミカルな温かいやり取りに戻ります。
女中お百(寿猿)が裃を手渡し、又平が着替える。
又平は実は、節(メロディ)があると滑らかに喋れるので
姫君救出に支障は無いらしい。
意気揚々と出発しようとする又平の歩き方を注意するが、
結局、いつもの又平らしい、ちょこちょこ歩きをするのだった。
裃の着付けの構造が分かり、感心しながら見入ってしまいました。
中車は非常に、表情の表現が豊かな方ですね。
寿猿さんは出演してることが、もはや奇跡。
又平の家に、姫君:銀杏の前が逃げ込み、夫婦は姫を匿う。
追っ手が現れるが、大津絵の精が現れ対決する。
大津絵の精4人のうち、3人が澤瀉屋のベテラン幹部俳優で、
ここに各家の御曹司達が絡む組み合わせ。
次世代の育成を兼ねたキャスティング。
先月『不死鳥~』でキュートな女形だった男寅は立役に。
新悟の鯰の精(垂らした髪の女性)も、長身が活きて不思議と妖艶。
中車はその日舞経験から「踊れない」とされ、見得で何とかしている振付ですが
前幕に続き、ストーリーの連続性を感じ、
またコミカルでもあり、とても楽しく拝見できました。
修理之助は、救出できず、どこで何してるのかな…?
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『児雷也』
山中の庵で、児雷也(芝翫)は、
美しい女性(孝太郎)と惹かれ合う。
二人の腕には同じ様な痣があり、互いが許嫁であると気付く。
児雷也は、ガマガエルの妖術を授かり
追っ手と探り合う。
ガマガエルに変身して難を逃れると、再び人間の姿に戻る。
約30年前、特撮戦隊もの『カクレンジャー』に登場した、
アメリカ出身忍者のジライヤ(演ケイン・コスギ)は、
当時人気でした。しかし、歌舞伎座の演目としては
かなり珍しいようです。
短時間にまとめようとして、かえってよく分からないまま
終わってしまった印象。
芝翫も孝太郎も恰幅があり、若々しさに欠けるのが残念。
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『扇獅子』
5人の芸者達の舞い。
せり上がりで、フェアリーゴッドマザーのごとく
福助が登場。花の枝を振ると
芸者達が赤獅子の頭を被って再登場し、毛振り。
前半はそれぞれの芸者に性格が見えて、個性的。
特に最初の三人(児太郎、壱太郎、新悟)がそれぞれ魅力的だし、
続く二人(種之助、米吉)は、あどけなさが残る。
ただし、後半の毛振りになると単調でつまらなかった。
米吉と新悟が、ここでは全く上手に見えず残念。
(※日舞素人による、あくまでも印象です。)
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福助が病に倒れた以降、初めて観ました。
歌右衛門襲名目前に大病を発病、
さらに深刻な後遺症を患ったことは
なによりご本人やご家族が無念なことと思います。
私は「美貌の女形」として福助をよく覚えていますので
フェアリーゴッドマザーのごとき姿に感動しました。
ただ、かつての福助のような、
存在感ある女形が全然いないことに、寂寥を感じます。
以前、福助SNSにアップされた、児太郎時代の画像が
現児太郎にそっくりで驚きました。
私は児太郎に期待しているのですが、
実父は病で、おじ達(芝翫や、18勘三郎)も…
となると、活躍の場が少なく残念です。
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演目全体として、『児雷也』と『扇獅子』が今ひとつ。
『傾城反魂香』は、劇場の空気そのものを変えるような演技が印象深く、
中車の代表作になり得ると思いました。
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