ぼくは、甘い期待はしないで、つねに、「最悪の場合を想定しながら、やる・・・」
小説家として食べていくようになりたいと思えば、直木賞に落ちたってやらなきゃならないんだ。
ぼくは六回目に直木賞をとったんだ。
一回目、二回目、落ちたときでも、当時ぼくは新国劇の芝居を書いていて、大阪で稽古なんかしているでしょう。
そこへ、落ちたことが新聞に発表になるわけだよ。
そうすると、文芸部員がぼくの宿屋に来て、ぼくが脚本を書いているのを見て、よく書けますねと驚いたもんだ。
落ちたショックで何も手がつかないでいると想像してきたんだね。
いつも五分五分、入るかもしれないし落ちるかもしれない。
その率は五分五分であるとぼくはつねに思っているから。
そういう人生観、というのも大げさだけれども、だから落ちたからといってガックリはしない。
もう、すぐその日から仕事ができるんだ。
その考えでいかないと時間というものがロスになってしまう。
なぜというに、ぼくらと一緒に出て行った連中が、一回落ちると二年ぐらい書けないで、みすみす才能がある人がずいぶん討ち死にをして、ついに世にでられなかった人が多い。
池波正太郎
男の作法より
小説家として食べていくようになりたいと思えば、直木賞に落ちたってやらなきゃならないんだ。
ぼくは六回目に直木賞をとったんだ。
一回目、二回目、落ちたときでも、当時ぼくは新国劇の芝居を書いていて、大阪で稽古なんかしているでしょう。
そこへ、落ちたことが新聞に発表になるわけだよ。
そうすると、文芸部員がぼくの宿屋に来て、ぼくが脚本を書いているのを見て、よく書けますねと驚いたもんだ。
落ちたショックで何も手がつかないでいると想像してきたんだね。
いつも五分五分、入るかもしれないし落ちるかもしれない。
その率は五分五分であるとぼくはつねに思っているから。
そういう人生観、というのも大げさだけれども、だから落ちたからといってガックリはしない。
もう、すぐその日から仕事ができるんだ。
その考えでいかないと時間というものがロスになってしまう。
なぜというに、ぼくらと一緒に出て行った連中が、一回落ちると二年ぐらい書けないで、みすみす才能がある人がずいぶん討ち死にをして、ついに世にでられなかった人が多い。
池波正太郎
男の作法より