ハイカーズ・ブログ(徘徊者備録)

「あなたの趣味はなんですか?」
「はい、散歩です」

「こうなる前からですか?」
「いいえ」

抜いたことのない刀

2008-07-28 11:18:43 | 晩年学
第一種電気工事士講習会

あんたってどうして役にたたない資格ばかり持ってるのん?とは妻の言。
ほんとにこの資格で飯を食ったことは一度も無いのだから、的を得ている。
しかし、このご時世、せっかくの資格を、失効させるのは忍びない。ま、いわば保険のようなものか。そんな思いで5年に一度、講習料高いなと思いながら受けてきた。
今回この会場には170名が受講。全国に工事士は50万人いるらしい。おいしい市場だ。丸一日、狭い会場に閉じ込められて講義を聴く。ここも高齢者がおおい。
これで最後にしたいものだ。

ただのおじん

2008-07-26 16:58:43 | 晩年学
毎日新聞 土曜夕刊 定年日和

スーパーの卵売り場。
1パックをカゴにいれ、移動しようとした時、見知らぬおじさんに声をかけられた。

「奥さん、一人2パックまでいいんだよ」
「ええ、知ってますよ」
「特価だから2パック買えばいいのに」

67,8歳か。おせっかいだな、と思いながらも、笑顔で答えた。

「家族が少ないから、1パックでいいんです」
「うちも家内と二人だよ。わたしが毎日二個食べるから」

なんだか話をしたそうである。
暇だったので聞いてやる。

「コレステロールは心配ないですか」
「心配なし。体脂肪17.毎日約10km走っているよ」
「それはすごいですね」

と言わざるを得ない。彼はうれしそうに言葉を継いだ。

「△大学卒業。元は某会社社長だった」

笑いをこらえた。スーパーでたった今知り合ったおばさんに

「私は、元一流大学卒のエリートなんです」

と自慢するなんて。彼が期待しているであろう反応をサービスした。

「まあ、そうですか。どこか地的な雰囲気を持った方だなと思いましたよ」

彼は気持ちよさそうに「ハッハッハッ」と笑い、「いや、失礼しました。ご主人をお大事に」と言って、足取り軽くはなれていった。

話し方もなめらか。
感じもいい。
過去の肩書きを言わなければいいオジサンなのに。
あれじゃ、どこでも敬遠されるだろうね。

でも、言わずにおられない。
ただのおじさんと、見られたくないのだから。

リタイアしたら「ただのおじさん」で生きる。
それが地域やおばさんたちにモテるコツなのだ。


豚の器

2008-07-18 20:38:48 | 晩年学
おじいさんの器

アメリカ民話

年老いて、妻に先立たれたおじいさんは、長男とその嫁と四歳の坊やと一緒に暮らしていた。

おじいさんの耳は大分遠くなり、腕も細り、食べる時にはスプーンを持つ手が震え、スープやソースをこぼすことがあった。
そんな時、息子と嫁はひどく怒り、おじいさんを叱るのだ。
「テーブルクロスが汚れるじゃないか」
「あたしの仕事を増やさないでちょうだい」

ある晩、おじいさんがいつものように食卓に着こうとしたら、そこには自分の椅子がなく、息子に「これからは特別席で食べてもらうんだ」と言われた。
そして、台所の隅の、木箱の上に座らされ、嫁は今までの磁器のものではなく、粗末な土器のボウルにおじいさんのスープを注いだ。
「どうせこぼすから」と量を少なくして。

毎晩そんな「特別席」でひとり食べて、あるときおじいさんは手が滑り、ボウルを落としてしまった。ガシャンと割れて、息子と嫁はまた激しい剣幕で怒り、それからもっと粗末な、木の桶みたいな器で、おじいさんに食事を出すことにした。

ある朝、裏の家畜小屋から、鋸の音が聞こえ、息子と嫁が見に行くと、坊やが丸太を切ろうとしていた。
「どうしたの」
「桶を作るんだ。豚の餌を入れるみたいなのを」
「だれのために」
「父さんと母さんが歳をとったら、ぼくはこれで食べさせてあげるからね」

ふたりはハッと目覚め、おじいさんに伏して謝り、その日を境に家族の一員として大事にするようになった。

皆同じ食卓で、同じ器で。

小説・万年五段の妻 その弐

2008-07-06 10:17:39 | 武道関連
プロローグ
毎日新聞 読者コラム 「女の気持ち」

『努力』
「努力してもやっぱり駄目やったわ」
一ヶ月の間に二度も同じ言葉が次女の口からこぼれた。
中学校生活最後の総体で、所属する部は2回戦で敗退。3週間前から朝早く起きて学校でシュート練習をしていた。
けれども試合当日、シュートはなかなか決まらず、イライラしている様子がよく分かった。そして敗戦。
チームメイトは皆、涙涙だったそうだが、次女は全く泣かなかったらしい。
そして、「努力しても実らんわ」と一言。

その後、「にわか陸上部員」となり、砲丸投げに出場することになった。
2週間後に陸上大会を控え、次女は毎夜、ダンベルで鍛えていた。
学校でも練習を延長してもらい、何投もしていたらしい。
しかし、3センチの差で県大会へ出場できず、平凡な記録に終わってしまった。
目が赤い次女に、「泣いたの?」と聞くと「泣いたわ。努力してもやっぱり実らんわ」
二回も同じ言葉を聞き、涙が出てきた。
人一倍負けず嫌いな次女に、何か一つでもいいから達成感を感じさせてあげたい、と思ってしまう。
「努力が無駄になることは絶対無いよ。たった2週間で標準記録まで投げることができたんやから。でも『運』もある。仕方の無いこともあるのよ」
次女にかけた精一杯の言葉。うっすらと涙目になってうなずいてくれた。
これからも、人一倍努力することを止めないでほしい、と願っている。

愛媛県八幡市 K・Rさん


また、暑い夏がやってきましたなー。
あんたの暗い顔見ているの辛いから、わて、孫のところに行ってきまっせ。
あんたも、半期に一度の旅、気楽に楽しんできなはれ。


あんた、御苦労さんでした。
あんた、この前のコラムにあった中学生の娘さんのようなこと考えてはらへんやろうね。
毎日千本素振りするのが「努力」やなんて思うてはらへんやろね。

わっかてるがな。六十近いオッサンと小娘といっしょにするな。
あのな、会場でな、知り合った女性ナ。「あたし、6年受け続けてるんよ。ま、セレモニーのようなもんやね」と淡々とおっしゃる。石の上にも三年、苦節十年。というが6年とはまた中途半端な。武蔵は千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を錬とす。といったが、千日は2.7年。万日は27年。一生が修業ということか。
武道が中学校の必須科目になるそうな。いいことだな。こういう立派な生きた教材がごろごろしているのだから。
先の中学生にも、本当の努力とは何か教えてあげたい。

そうか、あんたもちょっとかしこなったな。
ま、あんたの努力はわたしが死ぬまで見届けてあげるがな。


一部のマニアの読者、お付き合い有難うございました。今回でこの短編は完結です。
亭主の修業に完結は無いようですが。