ハイカーズ・ブログ(徘徊者備録)

「あなたの趣味はなんですか?」
「はい、散歩です」

「こうなる前からですか?」
「いいえ」

モーロクのススメ・3

2015-03-02 16:48:05 | 晩年学
夫婦        天野忠


口喧嘩して負けて

無造作に箸を投げ出したら


尖っている方が


まっ直ぐ



妻の方に向いた。

万事旧弊な妻が眉をしかめて

物静かにたしなめる。

人の胸に釘さすような形・・・・





夫はふくれて

テレビを見ている。


知らんぷりして

手だけ動かせて




方向をかえる。

モーロクのススメ・2

2015-03-02 16:41:15 | 晩年学
伴侶     天野忠





いい気分で

いつもより一寸長湯をしていたら

ばあさんが覗きに来た。


ー何んや?

ーいいえ、何んにも

まさかわしの裸を見に来たわけでもあるまい・・・・・。

フッと思い出した。

二三日前に新聞に独り暮らしの老人が


風呂場で死んでいるのが



五日後に発見されたという記事。




ふん


あれか。

モーロクのススメ

2015-03-02 16:28:11 | 晩年学
疑問    天野 忠

わたしは老人が好きだ。
老人は早く死ぬから。

私は老人が嫌いだ。
老人は物判りがおそいから。

小銭を数えながら
老人たちは陽なたぼっこをしている。
老人たちの傍に寄り添うのは
いつもあの無口な「死」ばかり・・・。

徳富蘆花の「不如帰」のヒロインが
なぜ人間は死ぬのでしょう と悲しげに
恋人にたずねた。

ほんとうだ、大正時代の新派の観客でなくても
それはそれでわかる。
しかしいまは
小さな声で、しわがれた声で
(微笑と含羞を忘れず)
われわれ老人だって
それを呟く権利がある。
なぜ人間は
死なねばならぬか と。

わたしはまだ
どこからもおその答えをもらっていない。
もらう術を知らない。
だからこうして

老人という人間として
ぼんやり、疑い深く
まだ
生きている。