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Japan Business Press Co., Ltd. 提供 ホルムズ海峡を監視する米海軍ワスプ級強襲揚陸艦「キアサージ」の乗組員(2019年5月7日、出所:米海軍)
(北村 淳:軍事社会学者)
ホルムズ海峡をはじめとするアラビア半島周辺海域でのタンカー護衛を実施するべくアメリカが有志連合をスタートさせようとしている。
日本では参議院選挙が終わると、あたかもそれと連動するかのごとく、有志連合への自衛隊の参加が取り沙汰されるようになってきた。
© Japan Business Press Co., Ltd. 提供 ホルムズ海峡の位置(Googleマップ)
ホルムズ海峡周辺でタンカー攻撃が続発
ホルムズ海峡周辺海域を通航するタンカーに対する危険性が高まったため、各国の海軍に少なくとも自国に関連するタンカーを護衛する必要性が生じてきたのは、安倍総理のイラン訪問中であった。
日本に関係するタンカーに対しては、安倍総理のイラン訪問という機会を捉えて日米に警告(「いつまでもアメリカの手先になっていると、日本に関係するタンカーのアラビア半島周辺海域での航行は危険にさらされるであろう」という警告)を発するかのように、吸着機雷攻撃が発生した。
それと前後して、NATO構成国であるノルウェーのタンカーにも攻撃が加えられた。
これらの事件を受けて、ホルムズ海峡を通航するタンカーの仕向地のうち通航量が2番目であるインドは(通航量が最も多いのは中国、日本向けは中国、インドに続いて3番目に多い)、すぐさま軍艦2隻をホルムズ海峡方面に派出し、自国に関連するタンカーの安全を少しでも高める努力を開始した。
引き続き、ジブラルタル海峡やホルムズ海峡でイラン側とトラブルを起こしイランと関係が極度に悪化していたイギリスも、ホルムズ海峡周辺海域に2隻の軍艦を展開させることを決定した。
「海上自衛隊をアラビア半島周辺に派遣すべき理由」2019年6月27日
「タンカー護衛の有志連合、日本は加わるべきか?」2019年7月18日
そして、タンカー航行の自由が脅かされる自体に直面しつつある状況を受けて、アメリカ海軍は、多国籍海軍によるタンカー保護の仕組み、すなわち「有志連合」の結成を同盟国や友好国に対して呼びかけ始めた。
「海の生命線」よりも選挙が大切
しかしながら日本政府は、日本国民にとって「海の生命線」とも言えるホルムズ海峡周辺海域を通過するタンカーが危険な状況にさらされているにもかかわらず、「日本は日本に関係するタンカーに危害を加えようとする行為を断固として阻止する」という意思を示そうとはしなかった。
日本政府は、自衛隊艦艇(ならびに航空機)をホルムズ海峡方面に派遣するという具体的な行動をとる姿勢は一切見せず、アメリカが唱導し始めた有志連合にも参加しないとの意向を示したのである。
日本でこのような議論は参議院議員選挙(7月21日)が終わるまでは巻き起こらなかった。
それは、おそらく次の3つの理由によるものと思われる。
第1に、安倍首相がイランを訪問した直後に、(イラン政府は否定しているとはいえ)タンカー護衛のためにホルムズ海峡に軍艦を派遣したならば、安倍首相のイラン訪問が全く何の役にも立たなかったという日本の外交的無能を改めて国際社会に晒してしまうことになる。
第2に、アメリカからの要請や圧力もなしに、日本政府が自律的に軍艦をホルムズ海峡に派遣してタンカー護衛の「哨戒任務」を独自に実施することなどこれまでに経験がしたことがないため、日本政府としては実施する勇気がなかった(哨戒任務は、自衛隊法に規定されている「海上警備行動」であり、場合によっては国連でも認められている「個別的自衛権」を発動してテロリストを撃退するかもしれない)。
第3に、参議院議員選挙直前に海上自衛隊(駆逐艦や哨戒機)をホルムズ海峡に派遣するといった議論が発生すると、野党勢力が「自衛隊の海外派遣は戦争につながる」といった類の暴論を展開して参議院議員選挙戦を混乱に陥れてしまう。
そのため、政権与党そして日本政府としては、独自派遣にせよ有志連合参加にせよ、海自艦艇のホルムズ海峡派遣に関する議論は避けねばならなかった。
「有志連合参加」はなぜ愚策なのか
ホルムズ海峡周辺海域で日本のタンカーが攻撃されてから5週間以上経過し、参議院議員選挙が実施された後になって、「有志連合に参加すべきか?」といった議論が目につくようになってきたのは、国内向けの政治的配慮と思われる。
つまり、「日本が自主的にかつアメリカから自立して海自艦艇を派遣して、自国に関係するタンカーを護衛する」という作戦の遂行を提議した場合には、強烈な政治的反駁が巻き起こるのは必至である。
それを避けて、「同盟国であるアメリカからの強い要請を受けて有志連合に参加する」、すなわち「外圧を利用するストーリーの方が政治的な混乱を避けられる」と判断したのであろう。
確かに国内政治的には有志連合に参加して海自駆逐艦を派遣した方が無難かもしれない。
だが、有志連合への参加は愚策であると言わざるを得ない。
なぜならば、まず有志連合の結成自体がイランとの敵対姿勢をますます強化させることになる。
また、有志連合に海自艦艇や航空機が参加するということは、日本がイランを明確に「敵」とみなすことを(日本の意図にかかわらず)意味するからだ。
安倍首相はイラン最高指導部に対して「日本はイランの敵ではない」と直接語っているのである。
その舌の根が乾かないうちに、アメリカに追従してイランの敵対陣営に名を連ねてしまっては、「日本は節操のない信用できない国であり、アメリカの単なる属国に過ぎない」との烙印を間違いなく国際社会から押されるであろう。
自国の船舶は自国で守る
自国のタンカーの航行の安全を確保するために軍艦を派遣するというのは、いかなる国の海軍にとっても最重要任務の1つである。
このような国防のための海軍作戦すら実施できないようでは、海上自衛隊の存在価値が問われる事態になってしまう。
国民生活の生命線とも言える原油タンカーのシーレーンを防衛するために海自駆逐艦をホルムズ海峡に派遣することは、憲法9条改正論議より何倍も具体的に自衛隊の重要性を国民に知らしめることになる。
安倍政権はそのことを十二分に認識するべきである。
以上
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