前日何処に宿泊したんだろう…記憶が曖昧だが、翌日、夏晴れの田代高原を
バイクでゆっくりと流していると田代元湯という立て札が目に入ったので、
県道を左折しダートを5分ほど走ると行き止まりになり、車数台の駐車スペースが
あった。
その先には朽ちた柵があったが乗り越えて、川沿いの湿気っぽい一本道を
20分程上り、呼吸が上がってきた頃にやがて古い旅館跡に出た。
旅館の庭先とも思えるところに複数の露天風呂があり、奥の渓流に近い所にある、
四辺を角材で囲んだ白濁した湯に浸かる。
頭の上を大き目のアブが時々羽音を響かせて飛び交うが湯に沈んでいる内は
肩、背中と首から上だけを気にすれば良いので、タオルを硬く絞って時々
湯の中に叩き落とす。
その先に天女だか美人だか、子宝だかの湯という看板の掛かった屋根付の湯が
あったがアブがうるさいので早々に引き返す。
風呂から上がって洋服を着る時にアブにやられるのはままあるので脱いだものを
全部着るのではなく最低限だけ身に付けてその場を退散した。
温泉で温まった身体からは汗が噴き出し、結局何の為に風呂に入ったか分からない
などと思いながら歩いていると、何となくヒタヒタヒタという足音が後ろから聞こえる
気がした。ヒタヒタヒタ、ヒタヒタヒタと一定の距離を置いて付いて来る感じで
突然フッと冷たい風を感じた。
また柵を乗り越え、バイクを止めたところまで戻ったら足音は聞こえなくなり、
残った洋服を着てタバコを吸いながら汗の引くのを待って走り出したが、
それっきり田代元湯は再訪していない。
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