夏場は日が長くて19時頃までは明るいが、地方の海水浴場では混んでいても17時を過ぎると概ね人がまばらになる。
海の家も店仕舞い、監視員も居なくなる。
その頃に海岸に着いて駐車場の端にバイクを止め様子を見ながら海に入り、海岸の地形や砂浜の感覚を覚えてから
設営、食事や焚火をして夜中に海に入る。
月の無い夜はどちらが岸か分からなくなるだけじゃなくて、漆黒の海がねっとりと身体を包んで纏わり付くような感覚、
上下の感覚も曖昧になっていく。
仰向けになって身体を波にまかせ漂っていると自分の呼吸する音が耳元で「ネェ、ネェ」ってまるで海の底から呼ぶかの
ように聞こえることもある。
身体に力を入れて浮かぶのを止め、クルリと回って直立になり、周囲を見回すと見えるものは何も無く、海底へ引き
込まれそうな気がして陸を目指すが進んでいる筈なのに一向に足がつかないという一種のスリルと浮遊感を
今でも時々思い出す。