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スタートを切るにあたり、「みんなと同等」「みんなの中で恥ずかしくない」というスタートラインに立つための費用

2017年12月03日 | 社会・経済

ダイアモンド オンライン 2017.12.1

 貧困の子どもたちに「奨学金にはない温もり」を伝える給付金とは

   みわよしこ:フリーランス・ライター+

 

 学生支援機構の対極に
   経済状況が前提の民間奨学金

  2015年6月、「子どもの貧困対策センター・公益財団法人あすのば」が発足した。2013年6月、「子どもの貧困対策法」が国会で全会一致のもとで成立してから、ちょうど2年後だった。「あすのば」が発足直後から、募金・寄付を財源としてスタートさせた入学・新生活応援給付金事業(以下「あすのば給付金」)は、2017年度で3回目となる。今回は、この民間の試みの現状と課題を紹介する。

 

 あすのば給付金の特徴は、徹底して「ニードベース」(受け取る側の事情を重視)であることだ。条件は、家庭の経済力が薄いこと、あるいは児童養護施設や里親のサポートから外れることのみ。家庭が生活保護世帯または住民税非課税世帯であれば、応募資格がある。現在、児童養護施設や里親のもとで暮らしており、来年度からの自立生活を予定している場合も、応募資格がある。この他に、災害被災などによって大きな影響を受けた子どもたちのための特別枠もある。用途には制限はない。もちろん、返済の必要もない。

  この対極にあるのは、学生支援機構が来年度から本格的に開始する給付型奨学金だ。これから大学進学を予定している高校3年生を対象としたものだが、条件は「高い学習成績」または「教科以外の学校活動などで大変優れた成果を収め、おおむね満足できる学習成績」となっている。

 「高い学習成績」の基準は、評定平均4.3以上。学力や将来性が期待される高校生だけが対象となる、典型的な「メリットベース」(投資効果を重視)だ。しかも機会は、大学進学時のみ。大学進学が現実になる時期より前に子どもが経験し得るハードルは、想定されていない。高い潜在能力を持ちながら家庭環境などの影響で成績がパッとせず、同じ理由で部活などでの活躍もできていない高校生も、対象として想定されていないだろう

  あすのば給付金の場合、小学校入学・中学校入学・中学卒業・高校卒業等の4種類が「新生活」として想定されている。「高校卒業等」は、今年度末の高校(またはそれに準じる学校)卒業だけではなく、次年度からの大学・短大・専門学校等への進学予定を含んでいる。高校卒業後に浪人するなど、ストレート進学ではないケースも想定しているのだ。

  ちなみに現在、生活保護世帯からの大学進学を認めるための施策が政府内で検討されているが、生活保護のもとでは、就労可能な18歳以上の子どもが浪人することは認められていない。

2016年度は、2257人の子どもたちが給付の対象となった。2017年度の目標は「2000人」ということだ。給付金額は、3万円(小学校入学)~6万円(高校卒業等・災害被災の場合)。趣旨は「あなたのことを想っている人が『ここにいるよ』というメッセージ」とともに給付金を届けること(「あすのば給付金」応募案内ページ)だ。

 「あすのば」代表理事・小河光治さんは、あすのば給付金の活動が始まった当時のことを思い起こして語る。

 「『あすのば』を設立して初年度の2015年の年末、活動に関わっている学生たちが全国各地で街頭募金を行い、給付金の呼びかけを始めました。当時の学生たちは『あなたのことを想っている人がここにいるよ』という多くの方々の温かい気持ちも添えて給付金を届けたいと、真冬の街頭で声を枯らして募金を呼びかけました。彼らの思いが大きく拡がっていることを、とても嬉しく感じています。入学や新生活をスタートするのに困る子どもがゼロ人になることを目指して、政治や行政にも働きかけていきます」

  一人ひとりに手渡される、「多額」という感じは受けない現金は、どのような意味を持っているのだろうか。

 子どもの「入学」と「新生活」を
      劇的に変える3万円の力

  雑誌『通販生活』で有名なカタログハウスは、あすのば給付金活動を、2015年の発足当初から支援している企業の1つだ。『通販生活』誌上で読者に募金を呼びかけ、企業としての寄付も行っている。2016年度は、約2万6000名の読者から7000万円を超える募金が集まった。

  現在発売されている『通販生活』2017年冬号には、『通販生活×あすのば 18年入学準備金カンパ』という特集記事が掲載されており、子ども時代の記憶が鮮明な若者・子育て中の親・貧困状態を経験した大人・研究者など多様な立場から、貧困の影響が語られている。

  中学生の子どもを持つシングルマザーの1人は、子どもの中学入学に備え、必要な資金を貯金していたが、制服を購入するのが精一杯だった。しかし、「あすのば給付金」の3万円が給付されたため、子どもが参加したい部活の用具やユニフォーム一式を買い揃えることができたという。子どもは、中学入学と同時に部活に参加して熱中し、小学校時代はやや問題があった生活態度は大きく改善されたという。

自らも両親の離婚・貧困状態の幼少期を経験した作家の津村記久子氏は、この中学生のエピソードを「子どもは機会を与えられることにこそ意味があり、その経験によって良い人間になろうとするものではないか」「現在の日本において新入学にかかる費用は、おそらく両親が揃っていて父親が健康で働いているか共働き、という想定のもとに設定されている」という意見と共に紹介している。

  それでは、あすのば給付金はどのような用途に使用されているのだろうか。

 パソコンなしでは授業も受けられない
        
あらゆる「スタート」に費用が必要

 あすのば給付金(あすのば入学・新生活応援給付金)の案内ページ。今回の受付期間は2017年12月20日まで(消印有効)

 「あすのば」は、給付金を受け取った人々などを対象に、アンケート調査や聞き取り調査を行っている。アンケート調査によれば、想像しやすい給付金の用途は以下のようなものだ。

 ・学校生活に必要な服装(制服・体育着・上履き等)

・学校生活に必要な物品(ランドセル・カバン・学用品)

・学習に必要な物品(教科書・副読本)

・部活の用具・ユニフォーム

  用途はさらに、新生活を開始するにあたっての「アパート契約」「家賃」「冷蔵庫・洗濯機、生活用品」、進学に必要な「入学金の一部」「大学学食でのプリペイドカード」「実習服・実習用具」、進学の次のステップのための「検定」「将来の資格試験のための積立金」と多岐にわたる。

  ちょうど、生活保護費からのパソコン購入を「自立更生目的」と認めなかった東京地裁判決(朝日新聞記事)が話題になったばかりだが、あすのば給付金の用途の中には「タブレット」「電子辞書」という回答もある。現在の高校生・大学生の学びの実態を知っていれば、タブレットも電子辞書も、もはや必需品に近くなっていることは疑えないだろう。理工系の大学教員たちからは、「大学1年ではパソコンを持っていることを前提に授業を行いたいが、購入できない学生も多く、苦慮している」という意見が聞かれることも多い。

  また、「入学式の洋服」「就活用のスーツ」という回答もある。現在、「入学する」「就職活動を始める」というスタートを切るにあたり、「みんなと同等」「みんなの中で恥ずかしくない」というスタートラインに立つための費用がどうしても必要になっているという事実を、年長世代は認めざるを得ないのではないだろうか。「いや、私の若いときは……」という意見は、あくまで、その時・その場所・その人の経験だ。「今」「そこ」「この子」には当てはまらない可能性の方が高い。

民間ゆえの限界を超え
    「温かさ」を届けられるか?

  2015年に発足して以来、あすのば給付金の財源は民間の寄付だ。しかし発足当初より、位置付けは「行政などの入学・新生活を支援する制度の拡充を目指したモデル事業」となっている。最終的な目標は、公共が公的な位置づけで行う制度にすることだ

  公的制度にすべき理由は数多い。その一例をあげれば、民間では「必要とする人に確実に情報を届け、申し込めるようにする」という一点だけを実現するのも困難だ。都道府県ごとの給付金の申し込み状況には、貧困の状況や人口が同等の県の間でも、10人以下~100人以上と差がある。経済的支援を必要とする親子に情報が届くかどうかが、その親子に給付金が届くかどうかを大きく左右してしまっているのだ。

  このような「情報格差」を放置しない自治体もある。たとえば沖縄県は、2017年3月、就学援助のCMを制作した。テレビ2種類・ラジオ1種類のCMは、就学援助の内容を社会に周知し、差別的な視線を周囲から軽減することに役立っているだろう。自治体が取り組めば、状況は変わると期待できる。

  最後に、あすのば給付金を受け取った19歳の施設出身者の声を紹介する(アンケート調査より)。

 「施設で暮らしているとき、退寮後に絶対に1人暮らしがしたいという強い希望がありアルバイトで貯金を貯めて進学、1人暮らしを果たしました。大学に通学をしながら1人での生活とアルバイトをしていくのは思った以上にハードでした。少しでも月々の生活費の補助があったならば、こんなにアルバイトをしなくても大学生活に集中できるのに、と思うこともありました。給付型の奨学金が他にも増えてくれることを願っています。あすのばのご支援にはとても感謝をしています。ありがとうございました」

  自治体が動けば、状況が変わり、ニーズが掘り起こされる。そのときに必要になるのは、一民間団体が集める民間の寄付とはケタ違いの、より多くの資金だ。クリスマスを迎える今月、子どもたちと若い人々に資金を贈る喜びを味わいたい温かな心が日本社会にあふれ、税、寄付、その他の方法によって充分な資金が用意される近未来を望みたい。(フリーランスライター みわよしこ)