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社会からの孤立

2018年03月07日 | 社会・経済

母と娘、孤立の末に 札幌のアパートに2遺体 82歳と引きこもりの52歳 「8050問題」支援急務

  道新 03/05

   80代の親と50代の子どもが身を寄せる世帯が社会から孤立してしまう「8050(はちまるごーまる)問題」―。全国で表面化する中、札幌市内のアパートの一室でも1月、2人暮らしの母親(82)と娘(52)とみられる遺体が見つかった。娘は長年引きこもり状態だったという。道警は母親が先に亡くなり、一人になった娘は誰にも気付かれずに衰弱死したとみている。専門家は「支援策を整えなければ同様の孤立死が増え続ける」と訴える。

  高層マンションの建設ラッシュが続く札幌市中央区の住宅街の一角。築40年の2階建てアパートの1階の部屋で2人の遺体は見つかった。道警の司法解剖の結果、2人の死因はいずれも低栄養状態による低体温症。母親は昨年12月中旬に、娘は年末にそれぞれ飢えと寒さで死亡したとみられる。捜査関係者は「2人は都会の片隅で誰にも気付かれずに亡くなった。何とか救う方法はなかったのか」と漏らした。

  道警によると、1月6日午後、検針に来たガス業者が異変に気付き、別室の住民が室内に入り遺体を発見した。ストーブには灯油が入っていたが、エラーと表示され停止していた。冷蔵庫は空で、床には菓子の空き袋や調味料が散乱していた。室内には現金9万円が残されていた。

  親子は週に1回だけ近所の銭湯に通っていた。銭湯の女性店主(78)は昨年12月26日、アパート近くの自動販売機でスポーツドリンクを買う娘の姿を目撃した。「ペットボトルを抱えて何度もしゃがみ込み、ふらふらしていた」

  女性店主の息子が駆け寄った。一言も話さなかったが、アパートの前まで送った。「もう少し手を差し伸べていれば…」。息子は今も悔やんでいる。

  近所の住民によると、母親は夫と死別後の1990年ごろに娘とアパートに入居した。当時、収入は年金だけで生活保護や福祉サービスは受けていなかった。娘は高校卒業後、就職したものの、人間関係に悩んで退職し、引きこもり状態になったという。捜査関係者によると、障害や病気があった可能性があるが、障害者手帳や病院の診察券などは見つかっていない。

  母親と交流のあった女性(84)は「親子は近所づきあいを避け、周囲に悩みを漏らすこともなかった」と証言した。この女性は数年前から生活保護を申請するようアドバイスを続けたが、母親は「他人に頼りたくない」とかたくなに拒否した。

 札幌市は、民生委員による高齢者の安否確認の対象を65歳以上の1人暮らしとしている。2012年、同市白石区で姉と知的障害のある妹が孤立死した問題を受け、知的障害者も見守り対象に加えた。今回亡くなった親子は訪問を受けておらず、市保護自立支援課の担当者は「本人たちの申請で福祉サービスを受けていなければ、孤立世帯を見つけることは難しい」と話す。

  内閣府や厚生労働省によると、全国の15~39歳の引きこもり状態の人は15年時点で推計約54万人。引きこもりの長期化で、親子で困窮する「8050問題」が課題となっており、内閣府は18年度、40~59歳の中高年を対象にした引きこもりの実態調査を初めて行う。札幌市も18年度、調査対象年齢の上限を39歳から64歳に引き上げる方針だ。

  北星学園大の岡田直人教授(社会福祉学)は「高齢や障害など要因別に縦割りで対処する現在の福祉制度では、どれにも該当しない『はざま』にこぼれる人が必ず生まれる」と指摘。「高齢化が急速に進む中、町内会や民生委員、福祉施設などの情報を束ね、どんな困りごとにも積極的に対応する専門員の配置が必要だ」と強調する。

 

 <ことば 8050問題>子どもの引きこもりの長期化により、80代の親と50代の子どもが同居する世帯が孤立や困窮に陥る状態。引きこもりの背景に病気や障害があるケースも多い。2015年4月の生活困窮者自立支援法の施行に合わせ、生活弱者支援の先駆的な取り組みで知られる大阪府豊中市社会福祉協議会の職員が名付けた。70代の親と40代の子どもを指し「7040(ななまるよんまる)問題」と呼ばれることもある。


   生活保護パッシングあるいは行政の「水際作戦」がこのような形として現れた。むごい話だ。

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 毎日新聞 2018年3月6日 西田真季子(生活報道部)

記者の目 

 実情無視の生活保護費引き下げ 「最低所得層が基準」は不当

  政府は生活保護基準を10月から見直す。生活費相当分(生活扶助費)は3年間で最大5%削減される。2013年に続く大規模な削減で、生活費相当分に子育て世帯や母子世帯への加算を加えた受給額で見ても67%の世帯が減額になると推計される。国費分で年160億円の財政削減になるというが、私は、今回の引き下げは生活保護利用者の生活実態を反映していないと感じており、反対したい。

 「葬式出られぬ」「風呂は週1回」

  東京都に住む50代の女性は、体調を崩して離婚し、約10年前から生活保護を利用している。現在も通院中で、仕事に就けない。受け取る生活費相当分は月額約7万7000円。節約のため、寒くてもエアコンは午前中しかつけず、着古した服を着込み、布団に入り寒さをしのぐ。電子レンジがなく、ご飯は1合を炊いて4分の1ずつ分けて冷凍し、1食ごとにおじやで食べる。「切り下げられたら5分の1ずつに分けるしかない。光熱費をこれ以上削ると病気が悪化するかもしれない」。先行きが不安で、死にたいと思う日も少なくない。女性は「生活保護を受給するまでは過労になるほど働き、まさか当事者になるとは思っていなかった。誰でも明日は我が身と思ってほしい」と話す。

  生活保護を受け始めた理由を取材すると▽夫のドメスティックバイオレンス(DV)で離婚後、精神疾患を患い働けない▽リストラで失職し仕事が見つからない▽家族の介護▽出稼ぎで体を壊した▽東日本大震災で被災--などの答えが返ってくる。男女を問わず、いつ誰の身に起きてもおかしくないことばかりだ。

  昨年12月、弁護士らが開設した相談電話には「平日の昼食は100円で済ませる」「親戚が亡くなったのに香典を包めず葬式を欠席」「40度以上でも冷房をつけない」「風呂は週1回」など苦しい実情を訴える声が寄せられた。

 「もっと切り詰められるのでは」と言う人は、自分の身に置き換えてほしい。たとえ1カ月切り詰められても、出口が見えない生活をいつまで続けられるだろうか。長く続ければ体調を崩し、交際費を節約せざるを得ない利用者は社会から孤立してしまうのだ。

   生活保護の利用者約164万世帯の53%は65歳以上の高齢世帯だ(昨年11月時点)。無年金、低年金で、高齢で仕事が限られたりと、生活保護から脱却できる見込みは少ない。引き下げについて「死んでしまえと言われているようだ」との声を多く聞いた。1人暮らしで持病があり、10年前から生活保護を受ける大阪市の60代女性は、自営業の夫のがんが分かって廃業し、在宅で看病したため就業できず貯金もできなかった。「1000円、2000円(の引き下げ)がたまらない」と話す。

 ぎりぎりで働く若者も心身疲弊

  政府は今回、生活保護を受けていない人たちの所得階層を10段階に区切り、一番低い10%の所得層の消費水準と、生活保護世帯の消費水準を比較。保護を受けていない低所得層の方が消費が少ないとして、引き下げを決めた。

 しかし、比較対象になった最低所得層は、最低賃金ぎりぎりで働く若者も多い。最低賃金の時給1500円(フルタイムで働いて年収は280万円程度)への引き上げを求める若者グループ「エキタス」の原田仁希さん(28)は「大半は地獄のような環境で何とか生きている。働き過ぎによる過労やパワハラで心身を壊されている」と話す。

  エキタスは16年から、最低賃金時給1500円が実現したら何をしたいか、インターネットで募っている。「もやしばかりでなく鶏肉も食べたい」「帰省時に夜行バスでなく、新幹線で帰ってみたい」「離婚したい」などの声が寄せられたが、最も多かったのが「病院に行きたい」だった。

  こうした人たちと生活保護利用者を比較する方法に、原田さんは疑問を抱く。「この理屈だと低賃金化が進むほど生活保護費は削られる。生活保護費を下げずに最低賃金を抜本的に上げろと言いたい。引き下げは最低賃金近くで生きている若い労働者の問題でもある」と指摘する。

  前述した都内在住の女性の20代の長女は、高卒後に大学進学を諦めて非正規社員として働いている。1人暮らしで最低賃金に近い給与の仕事を二つ掛け持ちし、風邪をひいても仕事を休めないという。こうした人たちと、生活保護世帯を競わせるような手法に、私は疑問を感じる。

  関東で働く生活保護のケースワーカーに「最後のセーフティーネットの生活保護でしか国が支援できないのは、それほど複雑で難しい問題を抱えているから」と言われたことがある。心身に不調がある人は、割高でも近くのコンビニで買い物をしなければいけない日もある。虐待やDVで家族と住めない人も多い。個々に複雑な事情を抱え、健康な人より生活を切り詰めることが難しいケースが多い。

  生活保護制度の根拠は、憲法25条の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という条文だ。どんな障害や困難を抱える人も、この条文に合う生活ができる基準引き下げなのか、再考してほしい。