(本頁は「秋田駒ヶ岳はどんなお山?/山容編」の続きです。)
秋田駒ヶ岳の全体的な姿形については、
拙ブログ、「秋田駒ヶ岳はどんなお山?/山容編」で語ったばかりだが、
この山は複式火山なので、それを構成するパーツに関しても
少し触れておかないと分かりにくいと思う。
パーツとは、大まかには南北に開いた二個のカルデラとその中に生じた数個の中央火口丘、
さらにはカルデラが形成される前の旧い火山体の名残りなどが該当する。
秋田側の山麓、(仙北市)田沢湖町中生保内付近から望むと、
秋田駒ヶ岳は左が男岳(1623m)と右が女岳(1513m)の双耳峰になっている。
2022/05/10
秋田側の代表的な登山口、八合目は北側の標高1300m付近にある。
そこから見ると、秋田駒のパーツは男岳、女岳ではなく、
最高峰の男女岳(おなめだけ)(1637m)に替わっている。
代表的な登山道・新道コース(片倉コースとも呼ばれる)は
男女岳の右側をトラバースしながら高度を稼いで行くが、
このトラバース道、厳密には男女岳ではなく、旧火山体の名残りのひとつ、片倉岳を登っている。
2021/09/01
ここで下のマップをご覧頂きたい。
フィールドガイド日本の火山4 東北の火山(高橋正樹+小林哲夫・編、築地書館・発行)によると、
昔の秋田駒は今よりも少し高く、標高1700mを超える成層火山だったと言われている。
約1万3千年前にこれが大崩壊し、南側に径約3キロ×約1.5キロの
楕円形のカルデラ(仮称:南部カルデラ)が出来ている。
このカルデラの中には女岳、小岳、南岳(火口が姿見ノ池になっている)の三個の火口丘が出来ている。
ムーミン谷とも呼ばれる馬場ノ小路はこのカルデラの北側に残った火口原ということになる。
年代は不明だが、秋田駒ヶ岳には北側にもやや小規模なカルデラが出来ている(仮称:北部カルデラ)。
片倉岳は旧火山の名残りで、北部カルデラの外輪山にもなっている。
なお北部カルデラはその後に生じた火口丘、男女岳にほぼ埋め尽くされている。
南側に残った火口原は阿弥陀池、浄土平の湿原になっている。
男岳と横岳、その間の馬ノ背は南北のカルデラの間に残った旧火山の名残りだろうか。
秋田駒の山体はコンパクトながらも、中身は斯様にけっこう複雑な地形構造になっている。
これらの複雑なパーツを効率よく眺めながら歩くには、
秋田側の八合目を起点に新道コースを歩いて男岳に登り、
その後、ムーミン谷(馬場ノ小路)に降下、大焼砂の稜線を登って横岳に登頂、焼森を経由、
しゃくなげコースを通って八合目に下るルートがベターかなと思っている。
よって本稿ではこのルートを辿りながら、秋田駒ヶ岳の各パーツを語ってみる。
新道コースは、片倉岳の山腹をトラバースして行く関係もあり、初めは割としんどい登り坂が続く。
晴れていれば、森吉山や八幡平など北側の山々の眺めが段々と好くなる。
赤土の広場とも呼ばれる片倉岳展望台に至ると、道は緩やかになり、
西側も開けて目の前に田沢湖が見え出す。
2023/08/23
左側には最高峰の男女岳(おなめだけ)が見える。
ここから見る姿は丸くずんぐりとしており、初夏は覆面レスラー(あるいはスパイダーマン)
のお面を連想して思わず笑ってしまう。
2021/06/17
赤土の広場からは、北側の山々の眺めも素晴らしい。
ここからは割と近場の森吉山や焼山、八幡平、乳頭山、三ッ石山のみならず、
視程が好ければ、白神山地や岩木山も望める。
2017/09/05
赤土広場から先はハイマツや低木林の間をゆるやかに登って行く。
途中は花も多く、右手には田沢湖、遠く鳥海山も見える。
やがて目の前に三角形の男岳が現れる。
男岳は1623m、最高峰ではないが、
田沢湖方面から望めば、秋田駒の前面に颯爽と聳えており、主峰として位置づけられる。
2022/09/14
途中から登山道は木道に変わり、とても平坦な草原の間を行くようになる。
ここは北部カルデラ底にある火口原の一部で、場所によってはお花畑になっている。
ほどなくして目の前に阿弥陀池が見えて来る。
右側の山並みは男岳と横岳を結ぶ馬ノ背の稜線で、今回はこの稜線に登り、男岳の山頂をめざす。
2022/09/14
稜線に上がり、男岳に登り出してから、右手を振り返ると、奇麗な富士山型のお山が見える。
このお山、実はあの酷い面相の男女岳(おなめだけ)なのだが、
男岳から望むと全く別人のような美形に変わるので驚いてしまう。
「男女(おなめ)=お妾さん」だから旦那(男岳)に対しては特別に好い顔を見せているのだろうか。
2022/09/14
男女岳の右奥に見えるのは岩手山だ。
またここからは阿弥陀池も望まれる。
2022/09/14
視程が好ければ、男岳山頂のやや右に鳥海山も見える。
2022/09/14
男岳の山頂からの眺めは素晴らしい。
ここからは鳥海山と同一視野に田沢湖も見える。
左側の端に見える小さな池は姿見の池で、
南部カルデラの南端に噴出した南岳の火口湖になっている。
その手前の黒いのは・・・
2017/09/05
手前に見えた黒いものは女岳が1970~71年の噴火で流した溶岩だった。
女岳(1513m)は秋田駒の南部カルデラに噴出した最大の中央火口丘。
いまだに噴気を上げている活火山でもある。
女岳が噴火するのは、男岳が妾を囲って浮気しているからとも言われる。
下写真は男岳と馬ノ背の鞍部(男岳分岐)から眺めたもので、奥に見える山々は和賀山塊だ。
なおこの鞍部と女岳との間の谷間はムーミン谷とも呼ばれる馬場ノ小路だ。
そこに至るには急な斜面を約150mほど降下しなければならない。
2021/06/17
落石に気を付けながら、慎重に斜面を下りると、谷底には初夏ならばシラネアオイが、
盛夏以降はエゾニュウが繁茂する草原になっている。
また女岳斜面にはチングルマの群生地もあり、花盛りの頃の谷底は天国のような場所だが、
ここにはクマも棲んでるようなので注意されたし。
2023/06/26
ムーミン谷(馬場ノ小路)の中心付近には駒池がある。
ここから眺める夫婦山(女岳や男岳)の眺めも素晴らしい。
2015/08/16
駒池を過ぎると、大焼砂の領域に入る。
黒い火山砂礫の中を歩くようになり、コマクサの姿もちらほら見かけるようになる。
小岳の脇を掠めると、国見温泉からのルートと合流する。合流点の標高は1364mと聞く。
2023/06/26
合流点(1364m)からは稜線(横長根)上の道を歩いて横岳の山頂(1583m)に向かう。
標高差は200m以上有るが、コマクサやタカネスミレなどの高嶺の花が咲き乱れ、
夫婦山(女岳や男岳)の眺めが素晴らしい坂道が続く。
2015/08/16
既に歩いて来たムーミン谷や駒池を見下ろす。バックは男岳。
2015/08/16
横岳から大焼砂の稜線や小岳、ムーミン谷を見下ろす。
2022/09/14
横岳山頂から馬ノ背稜線に少し踏み込むと、今度は女岳と男岳の間から田沢湖が見える。
2022/09/14
横岳から男女岳と阿弥陀池、浄土平を望む。
2023/06/26
横岳からは男女岳には向かわず、焼森に向かって下りて行く。
焼森の山頂に至ると、今度は男岳、男女岳が並んで見える。
これはこれで微笑ましい風景とも言えるが、男女岳の手前のガレ場はいったいどうしたことか。
2021/09/01
初めてこれを見た時はちょっとショックだったが、
たぶん鉄さびのせいだろう。ここから始まる沢は赤倉沢と呼ばれる。
後は樹林帯に突入し、八合目に到着する。
2014/09/15 赤倉沢を挟んで笹森山山麓から秋田駒を眺める。
賛否両論あるかもしれないが、
秋田駒ヶ岳は遠くから眺めても、肉薄しても(実際に登っても)好いお山だと私は思う。
以上。
秋田駒ヶ岳の諸々ありがとうございます。「否」はないと思います。私としては、秋田駒ヶ岳万歳\(^o^)/
あえて言えばピーク時にはやや人出が多いかな。それもマイカー規制のおかげでさほどではないかと
前にも書いていたらゴメンなさいですが、深田久弥さんが百名山に選んでくれなくてホントに良かった。
秋田駒ヶ岳に登りたいのではなく、百名山のスタンプ集めだけの登山者も押しかけたらと想像すると、正直ぞっとします
新年も秋田の山情報お待ちしています。
実は少し前、「 2023年の鳥海山。彼方此方から」
https://blog.goo.ne.jp/mouura2/e/64c2836ccac9a4ba1ee823d6a2d362d8
を書いていてふと思いました。鳥海山は登るだけでなく、下界から眺めても美しく愉しいです。
他の山はどうだろうと、秋田駒に関しても同じようなことを試みました。
ところが遠くからの眺めに関して、秋田駒はすぐ話が尽きてしまいました。そのため
登った上で各パーツの眺めを語ってみることにしました。
年が明けたら、秋田駒の花について語ってみます。
引き続きよろしくお願いします。